表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
85/123

今度も現在地どころの騒ぎではなかった(第三章第一話)

完結となる第三章の開幕です。


 

 緑の魔境『ヴィクトリア』のゲートステーション周辺に展開した銀河連邦軍の艦隊に包囲されて、コリンたちの乗った『オンタリオ』は緊急転移により脱出を図った。


 転移先は懐かしい生まれ故郷の星、エランドの近くだった。


 コリンの転移魔法で脱出する以上、コリンのよく知っている宇宙空間を転移先に選ぶしかない。そうなると必然的に、エランドの地表から眺めていた夜空のどこか、となる。


 そして目標となるのは当然、軌道上の転移ゲートステーションだった。


 以前、コリンは古いゲートを通じて、そこへ通信用のブレスレットを転移させたことがある。


 今回はそこからやや離れた夜空を目的地として、無事に転移は成功したはずだった。


 しかしアイオスの警告は、転移先の時間座標にずれがあり、一年十か月前の過去へ転移してしまったと告げた。


 咄嗟のことで、その意味を正しく理解するのには、もう少し時間が必要だ。


『ヴィクトリア』の地表でゴーレムの集団に追われて軌道エレベーターのカウンターウェイトへ逃げ、そこからどうにか『オンタリオ』のブリッジへ緊急転移し、息つく暇もなく今度は船ごと遠距離の転移をした結果が、この混乱だった。


 しかも、コリンの右腕には大きなおまけがくっついている。



「このちびっ子は誰なの?」

「そうだった……」

 コリンはそこでやっと、エレーナの存在に思い至る余裕ができた。


「エレーナ、ここは僕らの船の中だよ。仲間に紹介するから、目を開けて」


 床に座ったままのコリンの隣でエレーナが目を開けて、周囲を見る。


 即座にニアが駆け寄り、コリンの腕からエレーナを引きはがした。


「ニアもいるのだ……」

 エレーナは、まだ意識がぼんやりしているようだ。


「エレーナ、立てるかい?」

 コリンとニアが両側から手を貸して、エレーナを引っ張り上げた。


「あ、えーと、はじめまして。エレーナ・クレールと申します」


「緑の魔境で一緒に修行をしていた仲間だよ」

「うん、これでも十四歳だから」

「これでも、は余計なのだ」


「あ、そうそう。定期通信でも話したけど、エレーナはメアリー先生の妹だよ」

 最後のニアの言葉に、やっと三人が反応する。


「嘘をつけっ!」

 スタイル抜群の美女だったメアリー先生を思い出して、ジュリオは本気で怒っている。


「ウソじゃないのだ。メアリーはホントに私の姉なのだ!」

 そうして怒った顔をジュリオに向けると、何となく面影が似ている。


「そ、そうか。そりゃすまねえ」

「でもどうして一緒にここへ?」


「そうだ。今日は二人でシャトルに乗ってヴィクトリアを出る日だったよな。そもそも何でこうなった?」


 シルビアとケンの疑問ももっともなので、先ずはコリンがこうなった理由を説明した。もちろん、エレーナの紹介も兼ねて。



「なるほど。それは災難だったな。だけどよ、今はそれどころではないんだな、これが……」

 やっと、目前の大問題に意識を向けられる。


「だけどよ、コリン。そのエレーナにも、この現実に向き合えるようにしてやった方がいいんじゃねえのか?」


「それはこの船の乗組員として迎えるってこと?」

「わたしは賛成!」

 ニアは即答する。


 エレーナは何のことかわからずに、まだぼんやりとしている。


「アイオス、ここが二年近く前のエランドで間違いないんだよね。すぐに元の時間に戻る方法はあるの?」


「現在位置と時間には間違いありません。そして本船の能力では、元の時間へ戻る方法は、このまま一年十か月間待機する以外にはありません」


「…………」

 エレーナ以外の全員が、アイオスの言葉に衝撃を受けていた。


 その中でジュリオは責任を感じて、言葉を選びながら話す。


「エレーナさん。よくわかっていないだろうけど、君をとんでもないことに巻き込んでしまったようだ。申し訳ないが、当分の間は我々の仲間として行動を共にしてもらう必要がある。どうかな?」


 それを聞くと、エレーナの顔がパッと輝いた。


「ここに一緒にいてもいいのか?」

「もちろん」


「この船に乗せてくれるのか?」

「うん。アルバイトは雇ってないんだ。正式な乗組員になってもらうだろうな」


「ありがとう、なのだ。おじさんはいい人なのだ」

 おじさん、というところで、聞いていた皆が爆笑する。


「では、おじさんから自己紹介してよ」

 コリンが吹き出しつつ、ジュリオを見た。


「ああ。俺はジュリオ・エルナンデス。大規模プラント系のエンジニアをやっている」


「私はシルビア・ハーパー。ソフトウェア担当のエンジニアよ」


「オレはケン・ローズ。機械や精密機器全般が得意な分野だ。ジュリオ以外は皆エレーナより一つだけ年上かな」


「あと、わたしがニア・ランス。ちょっと前までは猫だったんだぁ」

 そう言って、ニアが久しぶりに猫の姿に変わる。


 笑って聞いていたエレーナの顔が、引きつった。


「ど、どうなっているのだ、これはっ?」


「うん、この船に乗るための通過儀礼だねぇ……」

 コリンがため息をついた。



 ブリッジの中には当然、魔術師が使えるマナはない。

「そういえば、コリンも無重力の宇宙空間で魔法を使っていたのだ……」

「よく気付いたね。賢い子だ」


 おじさんが笑顔でエレーナの頭を撫でる。

「ひっ!」

 エレーナは短い悲鳴を上げて首を引っ込めた。


「おじさん、エレーナをいじめないでっ!」

 人間に戻ったニアが、ジュリオを睨む。


 エレーナは再びコリンにしがみついて、その後ろに隠れる。


「そういえば初めて会った時、エレーナはわたしを野良ネコって言ったよね。それは、半分正解。わたしは野良じゃないよ。でもわたしの正体を知ったからには、もう引き返せない。出て行くのなら、お前を頭から喰ってやるぅ」


 ニヤリと笑って白い歯を見せたニアが、エレーナに飛び掛かった。


「ぎゃっっ!」

 エレーナはそのまま腰を抜かして後ろへ転がり、白目をむいて意識を失った。


「あーあ、ニア。やり過ぎよ、これは……」

「可哀そうに」

「この殺気で密林の王様、ジャガーを追い払ってたくらいだからねぇ……」


 コリンはエレーナを抱え上げて、リクライニングさせたキャプテンズシートに寝かせた。



「さて、エレーナが仲間になるのは仕方がないよね。これでも飛び切り優秀な精霊魔術師なんだ」


「そうだな。本人も喜んでいたから、いいんじゃねえか」

「ニアとは仲が悪いの?」


「そんなことは全然ないのだ」

「ほら、エレーナの口調が伝染するくらいに、二人は仲がいいんだよ」


「目が覚めたらちゃんと謝って、全部一から説明してね」

「はーい」


「でも、俺をおじさんと呼ぶのはナシ!」



 


いつもありがとうございます。


感想、レビュー、ブクマ、評価、などなど、できたら励みになりますので、よろしくお願いします!


読みやすくなるように、ちょいちょいと直していますが、気になった部分などご指摘いただければ嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ