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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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転移魔法 (第二章 終)

 

「本船のおおまかな位置が探知された模様です。『ヴィクトリア』のゲートステーション周辺に展開した、銀河連邦軍の艦隊です」


 コリンがホッとしたのも束の間、アイオスが物騒な報告を始めた。


「軍だって?」

 ジュリオが、顔色を変えて慌てている。


「アイオス、状況は?」


「遺跡から何らかの警報が発せられ、軍が緊急出動した模様です」


「こちらの位置情報も、遺跡から通報されたのだろうか?」

 まさか、『オンタリオ』の接近が軍に感知されたとは思えない。だが、遺跡のオーパーツの性能は不明だ。この状況では、コリンも不安になる。


「不明です。ステルスモード3で接近しましたが、現在巡洋艦に包囲されつつあります。ステルスモードを4に上げて離脱します」


 これで完全に、『オンタリオ』は姿を消したはずだ。


「変わらず、本船は追尾されています」

「姿は見られていないよな?」


「はい。しかも、本船の素性は完璧に偽装しています。所属不明の不審船という扱いでしょう」


「軍のAIによる進路予測か?」

 ジュリオが、スクリーンで状況を確認する。


「遺跡から、未知の観測データが軍に流れている可能性も否定できません」


「アイオス、ステルスモードを最高のレベル5まで上げて、こちらも敵船の進路を予測しつつ、安全地帯へ転進だ!」


 コリンは、ひたすら逃げることしか考えていない。


(とりあえず、これで時間は稼げるだろう……)


「今のうちに、他の宙域へフリージャンプして逃げよう」


「この状態では、転移不能です」

「ええっ?」


「レベル5のステルス機能は、本船と同レベルの探知機能から逃れるために加えられました。代償として本船も周囲の情報から完全に遮断され、隔絶した転移先の座標を特定できません」


「そんなぁ……」

 シルビアが、両手で顔を覆う。


「船のセーフティ機能の働きにより、この状態では転移機能を発動できません」

 アイオスは、そう繰り返した。



「つまりオレたちは今、目と耳を塞いで必死に逃げようと駆け出しているということか……」


「大丈夫だよ。それならコリンの転移魔法で逃げよう!」

 ニアが軽く言う。


「そんなことが、できるのか?」


「……?」


「コリン様固有の能力により転移先を固定できれば、可能です」

 コリンの代わりに、アイオスが回答した。


「それも、ヴィクトリアで覚えたのか?」


「うん。ニアと二人で遺跡から宇宙へ飛ばされて、危うく干物になるところだった」


 コリンが言うと、それまで無言で状況を見ていたエレーナが突然口を開く。

「私に隠れて、二人はそんなことをしていたのか!」


「まあいい、とにかくコリンの知ってる転移先と言えばあそこになるよな」


「うん、あの時ブレスレットを転移させた場所なら、行けると思う」


「よし、行け!」

「GO!」


「じゃぁ、やるよ。……転移!」


 転移が終了すると、船内に赤い光が点滅し、警報が鳴り響いた。


「何だ、転移に失敗したのか?」

「いいえ、転移には成功しています」


「まだステルス機能はレベル5のままだよね」

「はい」


「てことは、この船体内部の異常か?」

「違います」


「とにかく一旦レベル4に戻して、原因を特定しよう」

「承知しました」


 立体スクリーンに、映像が戻った。


「現在地の座標は?」


「予定通り、現在地は惑星エランドの近隣宙域です」


 スクリーンには、懐かしいエランドが遠く映っている。


「では、何がいけなかったんだ?」


「空間座標はほぼ目標通りですが、時間座標が一年以上移動しました」


「何が移動したって?」


「はい。現在の標準時刻は、LM1521年3月15日4時28分。転移前の標準時刻より約一年十か月過去へ、転移しました」


「カコ?」

「ジカンザヒョウ?」

「何それ?」

「もしかして……エえええっ!」

「ウソでしょ?」


「もう、何が何だか俺には……」


「…………エレーナにもわかるように話してくれ、なのだ!」



「ところで、このちっこい娘は誰だ?」





おまけ


 これは、ちょっと未来の話。

 妹のエレーナが行方不明になっている件で怒ったメアリーは、単身ドネル師の元に乗り込み詳細の聞き込みを行うとともに、厳重な抗議を行った。


 一応エレーナからは、教会を通して彼女が無事であることと、ヴィクトリアを出てコリンとニアと行動を共にしているという事実の連絡だけは来ている。


 だがそこに至る経緯も近況も、何も伝えて来ない。教会に問い合わせても、答えはない。


 教会に対する不満も膨らんでいた。


 ドネルは腫れ物に触るようにメアリーを扱い、丁重にもてなした。


 メアリーは新しい風呂も出来て居心地の良くなった湖畔の家にすっかり馴染み、落ち着きを取り戻した。


 同時にドネルの思惑通りに二人の仲は急速に進展して、結局そのままヴィクトリアで暮らすことになった。



 そうなると、三組のカップルに囲まれ居場所がなくなるのが弟子たちの長兄、アランだった。


 アランは悩んだ末に他の大陸へ渡ろうと、単身南米ステーションへ向かう。

 だが、そこでデイジーに捕まった。


 デイジーとアランは古い馴染みで、以前は恋人同士だったこともある。


 だが、人の世話を焼きたがるデイジーと、自身の魔法を突き詰めたいアランとでは、まるで進む方向が違っていた。


 しかしドネル師の元で長年弟や妹のような弟子の面倒を見てきたアランの意識は、当時とはすっかり変わっていた。


 今では南米ステーションのサブリーダーになっているデイジーは、慢性的な人材不足を解消するために、アランに暫く仕事の手伝いをしないかと持ち掛けた。


 急いで行く先も無かったアランは断る理由もなく、目の前に積まれた仕事を次から次へと手伝ううちに、スタッフからの信頼も厚くなる。


 結局ステーションには欠かせない存在となっていて、容易に抜け出せなくなってしまう。


 デイジーはそんなアランに惚れ直し、アランもそれに応えて結局二人はステーションで一緒に暮らすようになった。



 どこかのレストラン船と違い、大人の恋は進展が早かった……。



第二章 緑の魔境 終




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