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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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逆襲のゴーレム

 

 遂に、コリンとニアがヴィクトリアを離れる日が来た。

「また遊びに来るから、そんな顔をするなよ」


 結局残ることになったエレーナが口を尖らせて不満顔でアピールするが、最早どうにもならない。


 二人を見送るため、ドネル一門全員が南米ステーションに集結した。


 一行は、少し早めにゲートで転移して、ステーションのレストランで最後の食事をとり、展望窓から目の前の湖に浮かぶ軌道エレベーターの基部を眺めていた。


「ねえ、まだ時間があるのだ」

 エレーナがコリンとニアを誘い、外へ出て湖畔の遊歩道を散歩した。


「あと四日でエレーナも十五歳なのだ。だからコリンとニアは、すぐに迎えに来るのだ!」


「だから、メアリーさんと話をしてちゃんと許可を貰ってからね」


「そうだよ、うちは移動酒場だからね。来るなら酒場の従業員として働くんだよ」


「だから、十五になったらエレーナの好きなようにするのだ!」


「あのね、僕らも船に戻って他の仲間と相談しないと決められないんだ。それに、一度船に乗ったら簡単に降りられないぞ。ここみたいに、自由に魔法も使えないし」


「うーん、魔法が使えないのは嫌なのだ……」


「ほら、もう一度よく考えてごらんよ。まだここで学ぶことが色々と残っているだろ?」


「でも、一緒に行きたいのだ……」

 エレーナは涙目で下を向いた。



「コリン!」

 ニアの警告で、二人が顔を上げる。対岸の森から大きな物体が近付いている。


「ゴーレムだぞ」

「何体もいるのだ!」


 見える範囲で五体のゴーレムが遊歩道に出て、こちらへ向かって歩いている。


「ステーションへ向かっているのか?」


 三人は道を逸れて密林へ踏み込み、樹木の間から様子を窺う。


 すぐにエレーナの端末へ、ドネル師から連絡が来た。


「エレーナ、見えていると思うが、五体のゴーレムが湖の対岸からこちらに向かっている。早く戻れ!」


「師匠、もう戻れないのだ。私たちは、東側の密林に身を隠しているのだ」


「わかった。だがステーションは緊急事態で閉鎖されたぞ。コリンたちの出発も延期になるかもしれん」


「了解なのだ。ゴーレムが近くまで来たので、また連絡するのだ」


 ゴーレムは三人の歩いていた湖畔の道を辿り、迫る。三人が気配を隠している樹林を見て立ち止まった。


「見つかったのだ」


 三人は、強化した身体能力でその場から逃げる。だが、密林の奥からも茂みを分けて接近する音が聞こえた。


「挟まれたのか?」


 ステーションの方向へ逃げれば被害が拡大すると考えたコリンは、仕方なく北へ迂回して湖畔の遊歩道へ戻るように進んだ。


 時間をかけて再び遊歩道へ出る。


 ステーションから離れても、ゴーレムは三人を追って来る。道の両側と、後方の密林からも、気配が迫る。このまま動かなければ、囲まれてしまう。


「ゴーレムがこっちへ来るのだ。私に復讐する気なのだ!」

 エレーナが怯えた声を上げる。


「仕方ない、湖の上を走って、遺跡の島へ渡ろう!」

 逃げ道はそこしかない。


「(コリン、やっつけちゃおうよ)」

 ニアが遠話で伝えた。


「(今日は定期便が来る日で、大勢が外を見てる。おかしなことはできないよ。とにかく今は、逃げるしかない!)」


 十体以上のゴーレムを相手に戦うとなると、そりゃ大騒ぎになる。


 基本的に一般の魔術師はゴーレムと接触したがらないので、救援は望み薄だった。


「逃げ回って時間を稼ごう。師匠たちが助けに来てくれるのを待つしかない」


 コリンの言葉に従い、三人は遺跡の浮島に向かって水面を走る。


「コリン、遺跡に入ってはいけないのだ!」

 エレーナの言葉に、コリンははっとする。


「(もしかして、ゴーレムは僕ら二人を狙ってる?)」

「(あっ、そうかも……)」


 先日カウンターウェイトから生還して以来、二人は遺跡に近付いていなかった。だが、今日この遺跡に接近したことにより、ゴーレムに感知されたのかもしれない。


「(だとすれば、エレーナは関係ないよな)」

「(でも、もう無理!)」


 三人はゴーレムに追われるように、目の前に開いている遺跡の入口へ飛び込んだ。


 石でできたトンネルの中へ入ると、内部が一瞬マナの輝きを放った。


「(ヤバい、この遺跡も生きてそうだ)」

「(でも、行くしかない!)」

 三人はそのまま走り続ける。


 エレーナの端末に、またドネル師の通話が入る。


「何をしてるんだ、早くステーションへ逃げ込め。特別緊急警報が出て、この宙域は軍に閉鎖されたぞ。一体何が起こっているんだ?」


「わからないのだ。たくさんのゴーレムに追われて、遺跡の中に逃げ込むしかなかったのだ……」

 エレーナの通話途中で、通信が切れた。


 そのころ、一般人には閉鎖された静止軌道にあるゲートステーションは、緊急警報により、続々と軍の艦船が転移して集まっていた。


 到着する軍船の数に、『ヴィクトリア』のゲートステーションはパニックに陥っている。


「こうなればニア、遺跡の奥まで行ってカウンターウェイトへ転移して逃げるしかない!」


 コリンが無茶苦茶なことを言い始めたので、エレーナは訳がわからなくなっている。

「そりゃ面白そうだね!」


 ニアは乗り気だった。


「(アイオス、緊急出動だ。ヴィクトリア宙域まで可能な限り接近してくれ。ただし周辺宙域は軍に閉鎖されたらしい。軍の艦船に発見されないようにね)」


「(承知しました、コリン様。周辺宙域を警戒しつつ、最速で向かいます)」


「(頼んだよ。僕らはカウンターウェイトへ向かう! ……たぶん)」

(ダメなら、ここから直接オンタリオへ転移するのか?)


 石の廊下を、奥へと走る。


 予想通り、遺跡内部はマナに満ちている。


 そして突き当りの扉が横に開くと、見たことのある丸いステージがあった。


「エレーナ、湖に潜った時を思い出して、最大の力で結界を維持するんだ」

 コリンがエレーナの手を引いて進む。


「エレーナ、目を閉じて!」

 部屋がマナの光に満ちて、魔法が起動する。


 そして三人は、遺跡の転移装置によって、宇宙へ飛ばされた。



 三人は手を繋いだまま、宙に浮いている。


 エレーナは目を閉じたまま震えていたが、生きていた。

 そして恐る恐る目を開けると、暗い部屋の中に三人は浮いている。


 空気がないので言葉を話せないが、コリンが手を握ってくれていた。


「(アイオス、今どこにいる?)」


「(コリン様のいるカウンターウェイトから銀河中心方向十五度の円錐内、およそ三万キロ離れた地点を航行中です)」


 コリンは方角を頭に思い描きながら、探知の網を広げた。


 そして、何もない宙域を航行する『オンタリオ』の姿を、その範囲内に捉えた。


「(アイオス、速度はそのまま。これよりブリッジへ緊急転移する!)」

 そしてコリンは集中した。


 やがてマナの輝きが三人を包み込んで、三人一緒に『オンタリオ』のブリッジへと転移した。


「コリン、ニア!」


「やあ。何とか生きて戻れたよ」


 コリンはジュリオたち三人の顔を見ると安心して、床に大の字に寝転んだ。


 その右腕には、まだエレーナがしっかりと抱きついていた。



 


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