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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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遺跡の秘密

 

「じゃ、先行くよー」

 ニアが暗い縦穴へ飛び込む。

 コリンもすぐに続く。


 拡大強化した五感が、周囲の状況を感知し把握する。


 空中へ作った足場をクッションにして落下速度を調節し、繊細な風魔法で穴の底へ柔らかく着地した。


 石壁に囲まれた四角い部屋の中央に、二人は立っている。


 ニアが弱い灯りを空中へ浮かべて、周囲を観察する。

 倉庫のような、何もない四角い部屋だった。


 出入口なのか、扉が一つある。ノブも何もない、ただの四角い凹みだ。

 ニアが近付くと、戸が横へ開いた。


「うわっ、この遺跡、生きてるみたい」

「まさか、動くとはねぇ。ニア、慎重に行くよ」


 自動で開いた引き戸を潜ると、廊下だった。左右に伸びているが、先に光は見えない。


 ニアは、奥がより暗く見える右へと折れる。少し行くと、右の壁にまた戸口がある。

「開くかな?」


 ニアが手を伸ばすと、また戸が横へ開いた。中には、何もない。


「人類が銀河に進出する前の遺跡らしいから、かなり古いものだよね。それが動くなんて、信じられない」


「でも、ゴーレムだって動いてたよ」


「そうだね。何らかの保存魔法か、自己修復機能があるのかねぇ」


「千五百年以上前に建造された、アイオスやオンタリオが平気で動いているくらいだし」


「ニア、ここはもっともっと古いんだぞ!」


「あ、そうか」


 廊下をそのまま進むと、突き当りに扉がある。

 同じように戸が横開きに開いたので、二人はそのまま中へ踏み込む。


 ニアの灯りが内部を照らすと、壁面にはぎっしりと何かの機械らしきものが埋まっている。


 床の中央には、一段高くなった直径三メートルほどのステージのような台座があり、台の上面には同心円状の模様が刻まれている。


「ねえ、コリン、あれ見て」


 ニアの指差す先には、銀河標準語で壁に彫られた文字があった。


『South America continent(南米大陸)』と読める。


「ウソだろ!」


 コリンの叫ぶような声に反応したかのように、入って来た引き戸が自然に閉じる。


 二人は、室内にマナの光が満ちるのを感じた。


「マジックキャンセル!」

 コリンが黒いマナで光をかき消すより早く、二人の体は部屋の中央にあるステージに引き寄せられた。


 そして次の瞬間、二人を魔法の嵐が襲った。


 マナの光が消えると、二人の体は宙に浮いていた。


「(転移魔法だ!)」


「(無重力状態かな?)」


 ニアがコリンに寄り添い、宙に浮いたまま手を繋いだ。


 二人は、広い宇宙船の内部のような場所に浮いていた。


 周囲には星が見える。宇宙空間だ。


 空気も重力もない、こんな場所に放り出されて生きていられるのは、この二人だけだろう。


「(結界魔法と障壁魔法があって良かった……)」

「(普通の場所から宇宙に放り出されていたら、ヤバかったな)」


 二人は遺跡の中ということで、最大限の防御結界を張っていたので助かった。


「(遺跡にこんな仕掛けがあるのだとしたら、誰一人戻らないのもわかる)」


「(ニア、大丈夫?)」

「(うん、びっくりしただけ。でも、ここはどこだろうね?)」


 ここには空気と重力と、マナが無い。


 だが二人が自分の魔法で肉体を守り維持している基本は、地上にいる時と大きく変わらない。


 二人は風魔法で空気を軽く噴射して、窓際へ移動した。


「(ああ、そうか。ここはカウンターウェイトの中だ)」

「(何それ?)」


 二人が定期便で到着したゲートステーションは、古い軌道エレベーターの途中、静止軌道上にある。そしてここはその更に先の行き止まり、地上とバランスを取るための重りを兼ねた、古い宇宙施設の内部だ。


 だが軌道ステーションより上は使用されずに遺棄され、年に何度か通常動力のメンテナンス船が行き来するだけだと聞いていた。


「(ということは、この施設の中にある転移ゲートは、まだ生きているのか?)」

 コリンはニアから離れ、転移ゲートらしきものを探した。


 ニアは窓から下を見る。遥か下方に転移ゲートステーションがあり、その更に先方に、青い惑星ヴィクトリアが見える。


 だがそれも、かなり小さい。

 二人は知らないが、ここは地上から約十万キロメートルの彼方だ。


「(こりゃダメだ。帰れないよ……)」


 さすがのニアも、絶望的になる光景だった。


 だが、コリンは諦めていない。窓沿いにぐるりと回りながら、室内の設備をチェックしている。


(地上から転送された以上は、どこかにゲート装置があるはずだ)


 そしてついに、それらしき場所を発見する。


『Transference Area』と壁面に記載された場所に、遺跡で見たような同心円が床に刻まれていたのだった。


 試しにコリンは床に手を当てマナを放出してみる。

 が、何も起こらない。


 壁面の機械部分のあちこちにも、マナを流してみる。だが、何も起こらない。


(古代遺跡の転移ツールは、今と違ってゲートの形をしていないのか……あれ、でもなんで軌道エレベーターのカウンターウェイトに、古代の転移装置があるんだ?)


 コリンはニアの隣へ戻り、並んでヴィクトリアを見る。


(この方向が、下か)


 重力のない中で、コリンは脳内で大雑把な位置関係を把握する。


「(ねえニア。練習中の転移魔法だけど、一か八かヴィクトリアへ戻ってみようと思うんだけど……どうかな?)」


 コリンはニアの手を握る。


「(うん、いいよ。大丈夫、コリンは自信が無ければそんなこと言わないもんね。全部コリンに任せる!)」


「(じゃ、行くよ)」


 そう言って集中する前に、そういえばアイオスに連絡して救助に来てもらう手もあったな、とコリンは考えた。


 だが、それは最後の手段だ。


 それをやったら、もう二度とヴィクトリアへは戻れないかもしれない。


 コリンは邪念を払い、魔法に集中する。


「(行くよ)」

「(うん」」

「(転移!)」

 二人の体をマナが包み込み、消えた。



 二人は湖の上空へ転移し、そのまま水の中へ落下した。


 南米ステーションのあった湖ではなく、ドネル師の家の前である。


「ああー、生きて帰ったよー、コリーン」

 水の中で、ニアが抱き着いた。



 


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