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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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証拠隠滅

 

「師匠―。で、このゴーレムどうやって始末するんです?」


「うーん、土魔法で埋めちまうか」

「了解!」

「即断即決!」

「即時証拠隠滅!」


 ドネル師は、ゴーレムの腹に刺さった凶悪な二本の槍を魔法で粉砕した。


 弟子たちはあっという間に二体のゴーレムの下に大きな穴を作り、その上に岩と土を被せて何事もなかったように始末した。


「よし、お前ら今日は何も見なかった、聞かなかった。ゴーレムは不思議と消えてしまい、これで調査完了だ。いいか、わかったな!」


「了解です。さあみんな、野営地に戻って帰りの支度だ!」

「イエッサー」

「おーけー」

「任務完了!」

「状況終了!」


「コリン、もう酒はないのか?」

「実はあります!」


「それなら今夜は、野営地で宴会だな」

「明日は競争で帰るぞ。一番遅かった奴が食事当番だ」



 その夜、焚火を囲んで酔い痴れる九人の魔法使いたち。


(ある意味、これが銀河最強の魔術師集団かも知れんわな……いつまでこの状態が続くかはわからんが……)


 ドネルは弟子たちの顔を一人ずつ見ながら、誇らしく感じている。


 弟子たちは、ニアに例の洗浄魔法を教わっている。


「ああ、こんなの酔ってやることじゃない!」


「私だって、まだ途中までしかできないのだ……」

 酒を飲んでいないエレーナが、不貞腐れて言う。


「でも、師匠は一度で覚えたのだ」


 それを聞くと、アランは急に真剣な顔で集中して取り組む。


 だが酒に酔った状態で簡単にできるようなら、エレーナも苦労はしない。


「あー、クソ難しいな、これは!」

「ほーら、こうするんですよーだ」

 自慢げに、ニアがまた見本を見せる。


「それにしても、ニアは酒も強いな」

「そっちも、誰にも負けませーん」


「よし、明日帰ったら、酒で勝負だ!」


「わたしに酒で勝てるとお思いで? ほーほっほー」

 ニアは、絶好調であった。



 翌日はコリンが全員の端末に来た時と逆のルートを送り、競争となる。


 一応重い野営道具は先発隊の男性三人が持ち、エレーナが担いできた救急キットは、シムが持った。


 まだ二日酔い気味の者もいたが、朝食後すぐに、帰還マラソン大会は始まった。

 思い思いのルートで湖畔の家を目指す。


 何しろ、先発隊がのんびり五日かけて歩いた距離である。


 コリンの辿ったルートも、帰りは行きよりも厳しい。

 他のもっと効率的なルートがあるかもしれない。


 しかしどうせ勝っても負けてもコリンは自分が料理当番になるだろうと感じていたので、特に急ぐ気もなかった。


 エレーナとニアは妙なライバル意識をむき出しにして、先に行ってしまった。


 コリンは来た道と違うルートを見たかったので、岩場の多い密林の峠を越える道を選んだ。


 思った以上に谷を何度も下るのが面倒で、せっかくだからと飛行魔法を試して上空遥か高くへ昇ってみた。


 恐れずに上昇すれば空気抵抗が減り、逆に安定する。そのまま三千メートル以上も昇り、上空から一直線に加速しながら滑空して湖畔の家に降り立てば、まだ誰も帰ってはいなかった。


 暇なので湖で魚を釣り昼食の支度をして待っていたのだが、結局夕食の時間になるまで誰も帰っては来なかった。



 それから八人の弟子たちが互いに得意な魔法を教え合い、共同で狩りをして大量の食糧備蓄をして、周辺の遺跡や危険な生き物の巣などを教わりながら毎日楽しく過ごした。


 コリンの仕込んだスープや切り分けた肉や魚が冷凍庫にストックされ、近くの村や密林で見つけた調味料や香草の種類も増えた。


 コリンの好きなスイーツも作り置きが増え、冷蔵庫が埋まりつつある。


 同時に、ドネル師の反対を押し切って、浴槽のある風呂場を増築した。


 そうして、遺跡から戻り更に二旬(二十日)が過ぎた。

 コリンとニアがヴィクトリアへ来て、ほぼ二か月経ったことになる。


 これだけ多くの魔法使いと一緒に楽しく暮らす日々が来るとは、二人とも夢にも思っていなかった。


 メアリー先生には、感謝してもしきれない。


 今ではエレーナはニアと共にコリンのストーカーとなって、隙あらばコリンに引っ付こうとするライバルと化している。


 だがニアとエレーナの仲は悪くない。というより、親友のような信頼関係を築いている。


 しかし心の奥底では、主にコリンを巡って互いに相手を否定する深層心理が重く働いて、大きな障害になっているものと思われた。


 それでもまだ、エレーナはコリンとニアのマナの源を知らない。


 ゴーレム二体を瞬時に葬り去った大魔法の真相は、闇の中だった。


 ある日エレーナは、師匠に付き添い南米ステーションへ出かけることになった。

 コリンとニアはその隙に、密かに練っていた計画を実行に移す。


 誰もが通り過ぎるような小さく崩れた石積みの内部が、意外と大きな地下遺跡らしいことを突き止め、密かに内部を探索しようと準備していたのだった。


 ドネル師一門には迷惑が掛からぬよう、偶発的な事故に見せかける算段もできている。


 二人は密林でジャガーに遭遇し、たまたま隠れた小さな窪みが崩れて未知の遺跡に落下したという、実に不幸な出来事が発端となる。


 出口を探して内部を彷徨うことになるのは、やむを得ない事情である。


 ドネル師とエレーナは、師の私室の奥に隠されている転移ゲートにより、南米ステーションへ転移した。


 コリンとニアはそれを見送り、他の弟子たちとも別行動で湖の西側に広がる密林へ向かった。


「師匠だって家の中にゲートを隠してたんだからさ、わたしたちが少しくらい隠しごとをしても、怒れないよねぇ」


 ニアは湖畔の家にあったゲートには、かなり不満だったようだ。


「まあほら、僕たちも色々隠していることが多いからさ、それは言えないんじゃない?」


 コリンは歩きながら、ニアと手を繋いでいる。


 エレーナがゴーレムを倒したあの一件以来、ニアはコリンに近付くとその手を繋ぎたがるのだった。


 あの時発現したエレーナの異常な魔力の源は、手を繋いでいたコリンからエレーナへとマナが流入したもので間違いないだろう。


 だが、そんなことが実際にあり得るのだろうか?

 コリンもニアも半信半疑だし、エレーナ自身は何が起きたのかわかっていない。


 その後エレーナもあの時の異常事態に感じるものがあったようで、何かと理由もなくコリンに接近して魔法を使用するようになった。


 だが、コリンとニア、またはニアとエレーナの間では、そういった接触によるマナの移動は兆候すら感じられない。


 戦闘時の特殊な状況下で、何か二人の間でパスのようなものが繋がってしまったのではなかろうかと、ニアは危しんでいた。


 だら余計に二人を警戒し、コリンからエレーナを遠ざけようとしているのだが、なかなか上手くいかない。


 今まで通りに年少組の三人は行動を共にすることが多く、ニアもそれを表立って拒否する理由がない。


 だから今日はコリンと二人きりになる、久々のチャンスだった。



 


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