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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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増援

 

「遺跡から離れた野営地に落ち着き、食糧調達を兼ねて遺跡近くの密林を手分けして調査していたときに、シムが変なものを見つけたようなのです」


 アランが師匠に言えなかったのは、説明できない不思議なことが起きていたからだった。


 その日、シムは大きな木に絡んだ蔓に実った果実を集めていた。木の枝を伝っていると、樹上に何か光るものが見えた。


 鳥の巣の中に、オンザロックのグラスに残った氷のような、透明な塊が入ってるのを見つけた。


 ガラスの欠片かと思い慎重に手に取って木を降りて確かめた。何かの結晶のように見えるが、見た目よりも軽くて、高価な宝石のような輝きもない。


 その後は収穫した果実と一緒に背負った袋へ入れたまま、そのことを忘れていた。果実はキャンプ地で袋から取り出したが、その石は袋ごと自分のバックパックへ戻してしまった。


 その夜、最初の襲撃があった。

 だがその日はその石が理由だとは、考えもしなかった。


 翌日、袋の中に石を見つけたが、それが何故袋に入っていたのか、シムには思い出せなかった。石は、いびつな形をした透明な樹脂の塊にしか見えない。


 謎の石をヒョンスにも見せて、とりあえずそのまま保管しておいた。


 二度目の襲撃の時には、シムが腰のポーチに石を入れていた。


 ゴーレムの一連の行動は、もしや自分を狙っているのではないか。シムは不安に感じたが、その理由はわからなかった。


 今朝になりもう一度その石を見て、発見したときのことを突然思い出した。そしてすぐにヒョンスへ打ち明け、アランにも相談した。


 ヒョンスもシムに言われるまで、石のことをすっかり忘れていた。


 五人で石を調べてみると、マナを流したときに石が僅かに熱を帯びたように感じた。

 何らかの魔法道具に使われているものではないかと思ったが、五人で情報を共有し、もう少しの間様子を見ることにした。


 そして今、明らかにゴーレムがこの石を狙っているように思えたが、不思議なことに彼らは五人とも、今の今までこの石のことを完全に忘れていたのだ。


「ふむ、存在を忘れ去る石か。認識阻害系の魔法が疑われるな」


「これです」

 シムがポーチから透明な塊を出す。


 だが、その時目の前のゴーレムが、ぶるるんと揺れた。


 全員の眼がゴーレムに集まった瞬間、後方から猛スピードで接近する何かの気配を感じた。


 振り向くと、もう一体のゴーレムが、自分たちに向かい跳躍したところだった。

 全員が一斉に後方へ飛び退き、その突撃を躱す。


 ドネルの魔法により動きを止められていたゴーレムは、もう一体の強烈な体当たりにより派手に吹き飛び、岩の上を転がる。


 激しい衝撃で巻き付いていた氷のロープの一部が砕け散り、それを更にもう一体のゴーレムの拳が打ち壊す。


 二体のゴーレムが、無傷のまま並んで立ち上がった。


「もう嫌っ!」

 そう言って、シムが手にした透明な石をゴーレムに向けて投げつけた。


 石は最初に来たゴーレムの体に当たり、鈍い音を立てて岩の間へ転がる。


 もう一体がそれを拾い上げると、自分の胸に埋め込んだ。


 二体のゴーレムが、一瞬だけ輝きを発した。


「これで、黙って帰ってくれないかな?」

 ヒョンスが祈るように言った。


 だが二体のゴーレムは首を回してそこに立つ人々を視界に捉える。


「なんか、ダメみたいだぞ、おい!」


 体の大きなマークが、杖にしていた木の枝を振り上げながら、前へ出る。


「ここは、俺たち五人が食い止めます。師匠たちは早く森へ戻ってください!」


 マークとアランが前へ出て挑発し、後方からヒョンスが土魔法で造った岩を飛ばして二体に攻撃を試みた。


 足元を狙われて、二体のゴーレムは大きな体を揺らす。


 そこへマークとアランが二撃目の岩を頭に当て、次にジョディとシムが風魔法で後方から足を払った。


 見事な連携で巨体をひっくり返したゴーレムの隙をつき、五人は師匠の後を追って一目散に走った。


 五人の後方へ迫る、二体のゴーレム。


 ドネルは再び水のロープを放つが、今度は二体が大きなジャンプで躱してしまう。


 続いてエレーナが氷と石の槍を造って二体に向けて放つが、ゴーレムが腕を振ると二本とも軽々と弾かれてしまう。


「ダメ、効かない!」


 五人は、師匠を追い越して逃げる。ドネルとエレーナもすぐ踵を返してそれに続いて行こうとするが、そのエレーナの手を、コリンが掴んだ。


「エレーナ、もう一度集中して、体の中心を狙うんだ。君ならできる!」


 エレーナはコリンに左手を掴まれたまま、右手を前に出して集中する。


 先程と同じように、空中へ二本の槍が現れる。


 だが、今度のそれは、見る見るうちに巨大な太い槍に成長し、今にも飛び出しそうな勢いで力を溜めたまま、空中で震えている。


「エレーナ、そのまま槍を結界で強化して」

 コリンが耳元で囁いた。


「えっ、そんなの無理なのだ」


「自分の結界が一瞬だけ消えてもいいから!」

「わかったのだ」


「よし今だ、撃て!」


 コリンが叫ぶと、二本の巨大な槍がロケットのように飛び出して、二体のゴーレムの腹に突き刺さった。


 常時発動しているコリンの結界が拡張して、二人の体を包んでいる。


 吹き飛んで倒れたゴーレムは、そのままピクリとも動かない。


「ふえっ、こんなにすごい魔法を使ったのは、初めてなのだ!」


 エレーナは、コリンと繋いでいる左手を見る。

 その手を通して莫大なマナが体の中に流れ込んだ感触が、生々しく残っていた。


 そのままエレーナは頭を上げて、コリンの顔を見る。


 コリンは笑顔で答える。

「エレーナ、やったね。すごいよ!」


「違う。すごいのは、コリンなのだ……」

 エレーナが、繋いだコリンの手を胸に抱きしめる。


「こらっ、二人はくっつきすぎなのだ!」

 猛烈な勢いで二人の間に割り込んだニアが、二人の手を振りほどき、コリンを睨む。


「あ、あれ。これ、僕が悪かったのかな、ニア?」

「コリン、これはエレーナのハニートラップなのだ!」


「全然違うのだ!」

 その言い方は、姉のメアリーとそっくりだった。



「エレーナ、すご過ぎだろっ!」

 集まって来たみんなにエレーナはもみくちゃにされている。


「こら待て、三体目がいないとは限らんぞ!」


 ドネルは慎重だったが、若い男女は止まらない。



 


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