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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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接触

 

 ドネル一門総勢九人が揃い、密林の中を遺跡に向かう。


 慎重に気配を消して、ガーディアンの探知にかからぬようにしているつもりだが、相手の能力が判明しない中なので、できる限りのことをするだけだ。


 そんな中で、二人の女性を庇って骨折した男二人が闘志を燃やしていた。


 まあ、ドネルにも好きな人の前でいいところを見せたい気持ちは理解できる。


 ただ、今回のケースは不確定要素が大きすぎて、何が正解なのか、正しい手順が見えていないのが不安だった。


 可能なら極力、遺跡には接触したくないし、弟子にもさせたくない。


 ニアの異常な治癒魔法の能力で一旦は事なきを得たこの状況下で、これ以上の無茶をするのは賢い行為ではない。


「おい、先走るなよ」

 ドネルは最後方から声をかける。


 不思議なのは、ドネルの前にいる三人の子供だ。


 先行する大人たちから少し距離を置き、三角形の形態を維持したまま周辺への警戒を怠らず、淡々と進んでいる。


 どちらが先輩なのか、よくわからぬほどに冷静な行動だ。


「(コリン、ゴーレムが魔法で動いているのなら、止められる?)」


「(うん、ゴーレムが崖下まで追って来なかったのは、周囲のマナを使って動いているからかもね。それなら、マジックキャンセルで一時的には止められると思う)」


「(そうか。効果がどのくらい続くかわからないね)」


 天の枷の基地にあった転移ゲートは、蓄えていたマナが無くなって動作を一時止めたものの、数分後には再起動して動き始めた。


 ゴーレムの動作原理が不明な以上、やってみなければわからない。


「(それならバラバラにぶち壊してしまえばいいよ)」

「(ニアはどんな魔法を使う気?)」


「(石のゴーレムだから、爆発系かな)」

「(そんな魔法あったっけ?)」


「(炎と風を圧縮した、融合弾かな。数撃てばそのうち壊れるんじゃない?)」

「(山火事が怖くて使えないよ。それに、壊しちゃってもいいのかなぁ?)」


 そんなことを言いながら樹木の間を走っていると、森が開けた。


 不思議と木の生えていない草原が広がり、中心にピラミッドのような石造りの建造物がある。


 コリンたちが草原と思ったのは、広い石畳の広場だった。


「接近したのは、ここまでです」

 広場に入ったところで、アランが足を止めた。


「ゴーレムが出てきたら、五人は岩場へ誘導して身を隠せ。俺たちはマナのある森側から遠隔魔法でゴーレムの動きを止める」


「わかりました。今度はやられませんよ」


「師匠―、ゴーレム壊しちゃってもいいんですかぁ?」

 ニアが緊張感のない声を上げた。


「やむを得ん。人命優先だ。怪我する前にやれ」


「よっしゃー、エレーナ。どっちがやっつけるか競争だよ!」

「ニアはやる気満々なのだ」


「エレーナはやりたくないの?」

「貴重な古代遺跡なのだ。できれば闘いたくはないのだ」


「おお、あの腹黒メアリー先生の妹とは思えない発言!」

「……ニアは姉さんの何を知っているのだ!」


「えっと、ハニートラップとか?」


「何だと!」


「あ、師匠も怒った」


「すみません、ニアの妄言は聞き流してください……」


 コリンがニアの口を両手で押さえて、ドネル師とエレーナに謝る。



 三角形の山のように積み上げられたピラミッドの前に、灰色のゴーレムが地面から生えるように現れた。


 先発隊の五人が、一歩前に出る。


「出現するところは初めて見たな」

 ドネルが呟く。


「でかいのだ」

「うん、大きいねぇ」

「結構な威圧感が……」


 コリンたちもこのサイズのアリゲーターやアナコンダとは何度も遭遇しているが、ゴーレムは人型なので見上げるように背が高く、大きく見える。


 ただ、思ったよりもスリムで重量感がない。


 誰かが遅いと言っていたような気がするが、大丈夫だろうか。


 ゴーレムは目も口もないモアイのような顔を、侵入者たちに向ける。

 そして明らかにシムを見て、近付こうとする。


「やはりターゲットはシムなのか」

 ドネルが呟くと同時に、思いもかけない素早さでゴーレムは跳躍した。


「行くぞ!」

 アランの掛け声で五人はシムとジョディを囲んで走り出した。


 五人の動きも素早く、確かにゴーレムの動きが遅く見える。だが決してゴーレムがのろまなわけではない。


 二度の襲撃では、不意を突かれて追い詰められていた。


 それでもあの動きで逃げ切れなかったのだから、注意が必要だ。


 三度目の遭遇となり、五人の動きは軽い。


 ゴーレムの身体能力はかなりの力があるが、自重が重い分着地してから次の動きに至るまでの衝撃吸収と体重移動のラグがある。


 五人は小刻みなターンを繰り返してゴーレムの追撃を躱し、森を出て岩場の方角へ向かっていた。


 その後を、コリンたちはドネルと一緒に追っている。

「順調ですね」


「ああ、アランたちも慣れてきたのだろう」

 やがて昨日落ちた崖の上まで来た。


 落下しないように更に岩場の上部を目指す。


 平らになった岩の台地にゴーレムを誘導すると、明らかにゴーレムの速度が落ちた。

 五人はまだ、身体強化の魔法が解けていない。


「散開しろ!」

 ドネルが叫ぶと、五人が散って各自が岩陰に身を隠した。


 ドネルは針金のように細く絞った水の線をシャワーのように噴き出しては次々と伸ばす。細い水の線は自在に動きながらゴーレムに巻き付いた。


 太陽の光に煌めく数百本の細く透明な水の線が絡みながら見事に編み込まれる。


 それが広がって投網のように身を包むと、その上から太く強力なロープがゴーレムを縛りあげる。


 本体を隠すほどの水の縄で何重にも巻かれて、ゴーレムの動きは完全に止まった。


 次に水のロープはそのまま透明な氷となり、ゴーレムを大地に固定する。


「よし、集まれ!」

 ドネル師がゴーレムの傍らまで歩き、隠れていた弟子もやって来る。


 コリンたち三人も、ドネルの後方を歩いている。


「さすが師匠、見たことのない魔法だねぇ」

 ニアが緊張感の欠片もない感想を述べる。


「これは師匠のオリジナル魔法なのだ。私もよくあれで縛られて、木に吊るされたのだ。ああなると、氷が溶けるまでは動けないのだ」


「エレーナは何をしたんだ?」

「それはもう、とてもここでは言えないようなことをしたのだ!」

「こら、自慢にならない話をするな」


 エレーナの頭に拳骨を落とし、ドネルは集まった弟子たちを見つめる。


「さて、俺の眼には、このガーディアンがシムを追っていたように見えたのだが、その理由を聞かせてもらおうか?」


 シムだけではない。五人の顔色が変わる。


「これは、シムの責任ではありません」

 ヒョンスが庇うように前へ出る。


「いや、俺の責任です」

 ヒョンスを手で制して、アランがその横に立つ。


「我らもそれを知ったのは、今朝方のことになります」


「本当です。俺たちも何がなんだか……」

 ヒョンスは頭を抱える。



 


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