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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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ゴーレム

 

 翌朝コリンが起きて朝食のパンケーキを焼いていると、岩の上に登ったエレーナがコリンに手で合図する。


 コリンがエレーナの隣へ行くと、昨日歩いて来た道が広いきれいな緑の帯となって、岩の上まで続いていた。


 こう見ると、昨日はニアの大活躍だったことがわかる。


 そのニアは、まだ熟睡しているのだが。


「こんなにワクワクしたのは、生まれて初めてなのだ」


 エレーナは昨夜調子に乗ってブランデーを一口飲み、すぐにひっくり返って寝てしまったので、早朝から元気一杯である。


 熱いコーヒーと甘いパンケーキの朝食後、遺跡のガーディアンに関するこれまでの経緯を聞いた。


 だが、何故ガーディアンが遺跡を離れて彼らを追って来るのかは、謎のままである。


 基本的に遺跡に関する物事には触れないのがこの惑星での常識だが、それを強制するルールがあるわけでもない。


 あくまでも個人の責任においてガーディアンと戦い命を落とした者もいれば、それを倒して遺跡に入った者もいる。


 ただ共通するのは、ガーディアンの有無に関わらず、遺跡の奥まで入って生きて出て来た者はいない、ということだ。


 だからこの惑星に暮らす者は遺跡には近寄らないので、例えガーディアンが出ようが関係がない。ただ間違ってもバカ者の行為に巻き込まれないように、離れて見守るのみだ。


 遺跡の存在を知らずに近寄り襲われる不運な者がいないように、魔術師は新しい遺跡やガーディアンを発見次第、ステーションへ報告するよう求められている。


 報告を受けたステーションは、直ちに大陸へ警告を発する、それだけである。


 そんなことは、誰でも知っている常識だ。恐らく、ガイダンスの後半で居眠りをしていたニア以外は誰でも。


 普通の神経を持つ者は、生命の懸かったガイダンスを一言も聞き漏らすまいと、必死の形相で集中している。


 居眠りをするなんていうのは論外で、緑の魔境をなめ切った行いは必ず自分に返って来ると言われる。


 まあそれは普通の人の論理であって、人外の魔導師であるニアに何を言っても無駄ということだろう。


 今回の遺跡調査は、ガーディアンの特徴と、安全に通過できる範囲の見極めが主な目的だった。


 だが、遺跡を離れてガーディアンが追って来るという、過去に例がない事態になっていた。


 こうしていても、いつまた襲撃されるかわからない。


 遺跡に関する物事には触れない、として行動するので、今まではただ逃げるだけだった。今後、場合によっては戦闘を避けられない可能性もある。



「こうして全員が集まり、ニアのおかげで全ての傷が癒えた今、再度遺跡の調査に向かいたいと思うが、どうだろう」

 ドネルが弟子たちに提案する。


 このままでは、湖の家までガーディアンが追って来る可能性も否定できない。


「俺は、行きますよ」

 年長のアランが先に答える。一番弟子のアランは怠け者の雄ライオンのようなぼさぼさの金髪で、やや老けて見えるがまだ二十代らしい。


 髪型が更に特徴的なのは二番弟子のマークで、筋肉質の体に黒革のパンツとジャケットを着て、茶色のモヒカン刈りで非常に目立つ。


 だがその目は優しく、金髪美女のジョディが寄り添っていた。

「俺たちも、当然行きます」


 そして仲の良さそうなヒョンスとシムは二人とも黒髪で似た顔立ちだが、兄妹という感じではない。


 Tシャツとオーバーオールという服装もよく似ていた。

「俺たちも、もちろん継続です」


「わかった。残りの資材も十分あるし、できればこのままエレーナと二人の新人も連れて行きたいが、どうだろう」


「当然です。この三人なら、俺たちより役に立ちそうですから」


「よかった。みんなで行けるのだ」

「よろしくお願いします!」


「わたしも頑張るよ」

「うん、ニアは程々でいいのだ」


「そうか。ではその前に、なぜガーディアンが執拗に襲って来るのか、その理由を知りたい」


 ドネル師は、先発隊五人の弟子の顔を順に見る。


「ふむ。何か意見はあるかね?」

 リーダーのアランが遠慮がちに口を開いた。


「師匠、それは俺たちも何度も考え、議論しました。俺たちの誰か、もしくは全員が何か禁忌タブーを犯してしまった結果襲われているのではないかと」


「それで?」


「わからないのです。遺跡に最接近したのは到着して五日後の一度だけ。最初にガーディアンが襲撃したのはそれから十日後です。昨日のが二度目の襲撃で、一度目から五日後になります」


「五日目の最接近から最初の襲撃までの十日間に、何かが起きていた可能性があるな。もう一度振り返り、思い出してみてくれ。何か心当たりはないのか?」


 そしてもう一度、ドネルは五人の顔を順に見た。


 彼らは教会の枠組みからはみ出た元エリートであるが、その実力は抜きん出ている。


 現代世界では魔術師が魔法を使って争うような事態はほぼあり得ないが、この惑星ではあらゆる危険から身を守るために、魔法の力に頼らざるを得ない。


 そんな環境で何年も暮らして来た彼らは、ほんの一握りの選ばれし強者だった。


 だが今はそう思えぬほど、五人の顔からは自信がすっぽりと抜け落ちている。


 僅か一夜にして、人はこんなにも変わるものだろうか。

 強化したドネルの五感は、中でもシムの動揺が明らかに大きいことを察知していた。



 一行は緑の道を戻り、途中で崖の上へ登った。

 そのまま森に入り、遺跡を目指す。



 コリンは歩きながら少しずつドネル師に疑問をぶつけて、話を引き出していた。


 襲って来たガーディアン、つまり遺跡の守護者は、身長三メートルはある人型のゴーレムだったという。


 ゴーレムというのは、土魔法でできた動く人形らしい。


 魔法で動いているとすれば、少なくとも遺跡の一部が今でも生きているという証拠になる。


 遺跡の作られた年代については定かではないが、人類が銀河へ進出した二千年以上前の物であることは確かなようだ。


 となると、それは人類以外の手により造られた遺跡だということになる。


 だが少なくともコリンの知る歴史上、人類は自分たち以外の知的生命及びその存在を証明する遺物には、出会った記録がない。


 この惑星は、その遺跡の存在故に組合が秘匿しているのだろうか。


 話によるとどうやら、あの蔓の絡まった軌道エレベーター自体が、その遺跡の一部らしい。


 転移魔法があれば、あんな大層な物を作る必要がない。


 つまり軌道エレベーターを造ったのは、まだ転移魔法の技術を持たない文明だと推測できる。


 そしてまだ転移ができなかった人類は、この惑星に到達することが不可能だった。


 だから、ここの遺跡を造ったのは、遠く離れたオールドアースで生まれた人類である筈が無い。


 だがその一方で、遺跡を守るゴーレムは魔法で動くという。


 これは同じ文明が造ったものなのか?



 


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