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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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ガーディアン

 

 コリンたちと同じように、ドネルも遺跡の調査に向かった弟子たちと毎日連絡を取っていた。


 野営を続けながらの旅には、多くの危険を伴う。


 しかし弟子たちは元々一人でドネルの元へやって来て、何日も師の家の近くで野営をしながらストーカー行為を続けていた。


 ドネルが根負けして遂に許され、晴れて弟子になった強者ばかりだ。


 メアリーに押し付けられた今の若い三人よりも古い付き合いで、多くがまだ他の大陸に暮らしていたころからの弟子だ。


 一番弟子のアランとはもう十年来の付き合いで、普通ならアランには何人かの弟子がいてもおかしくない立派な腕前だ。


 しかし四年前に来たばかりの僅か十歳のエレーナの実力に衝撃を受け、気が付けば多くの場面で追い越されているという事態に直面し、今もここで修行を続けている。


 コリンとニアの件も師から相談され、他の弟子たちにどんな影響を与えるかを計るまでは、一時離れた方が良いとの判断に至った。


 そしてその二人がエレーナをも凌ぐ実力者だったと知り、アランは興味を持っている。


 遺跡のガーディアンは不用心に近寄らなければ害はないので、危険な任務とは思っていなかった。


 五人の弟子がドネル師の元を離れて二旬(二十日)が過ぎた。

 のんびり歩いて遺跡まで五日の旅である。


 現地で十五日も様子を見ていたが、特別な動きはなかった。

 最初は慎重に遠方から探り、五日目に遺跡に最接近した。


 その時現れたガーディアンは一体だけで、人型のゴーレムだった。


 その後遠くから遺跡を観察していたが、そろそろもう一度接触し、その実態を確認して戻ろうかと考えていた。


 だが、その予想を超えて、離れた場所で野営をしていた五人が、深夜にガーディアンの襲撃を受けた。


 弟子の一人が軽傷を負っただけでガーディアンは撤退し、五人も距離を取って様子を見ている。


 こんなことは珍しい。



 すぐにステーションを通じて大陸中に緊急通報が出されるべきだが、今回は違った。

 ドネルは深夜にもかかわらずステーションへ一報を入れている。


「……そういえば、先日の少年少女は元気にやってます?」

「ああ、メアリーの奴、とんでもない連中を押し付けやがった……」


「あ、それはいい意味で受け取っていいんですよね?」

「まあ、エレーナが二人に懐いて離れないくらいだからな」


「それは頼もしいですね。さて、既に遺跡の第一次警告は発していますので、あんな場所には誰も行きませんよ。あとはドネル師のところで調査を継続して、何かあればまた報告してください。では、引き続きよろしくお願いします……」


 惑星最強のドネルが一番近くにいて、その優秀な弟子たちが巻き込まれている。

 これ以上の戦力は望めない状況だった。


 下手にステーションから増援を出しても足を引っ張るだけなので、全てドネルに丸投げされた。


 南米ステーションのサブリーダーであるデイジーはそれだけを伝えると、大きな欠伸をして一方的に通信を切った。


 既にコリンたち二人と一緒にやって来た他の四人はステーションに保護されて、次の便で帰還すべく待機している。


 他の大陸へ行った魔術師も、まだ緑の魔境での暮らしに適応できた者はいない。


 毎月の定期便でやって来る新人の翌月の帰還率はおよそ六割で、四割が残るのみだ。更に一年後になると死者行方不明者を含め多くが脱落し、最終的に生き残るのは二割に満たない。


 今回は十五人と新人はかなり少なかったらしいが、既に残るはコリンとニアの二人だけになりそうだった。


 ドネルは調査隊のリーダー、アランに結果を伝え、逆にどうするかを尋ねた。


「そうですね。せっかくなんでもう少し調査をしてみます。襲って来たガ―ディアンは身長三メートルクラスのゴーレムが一体だけでした。動作が遅いので、不意を突かれなければ逃げ切れます」


「一体だけとは限らんぞ」

「はい。その辺を含めてもう一度探ってみます」


「無理するな。一度戻って立て直してもいいぞ」

「いえ、シムの怪我も、ほんのかすり傷ですから」


「わかった。明日は一日休養するように」

「はい」



 そんなことがあって、ドネルは落ち着かない日々を過ごしている。


 コリンとニアが予想外に早く着いたので、弟子たちが出立したのはその前日だった。

 それから、二人の少年少女に振り回される日々が続いている。


(アランたちが不在のうちにこいつらの能力を把握しておかないと、面倒なことになりそうだ)


 コリンは教えれば何でも吸収するし、不器用だと思っていたニアの進歩も著しい。


 四年前、メアリーからエレーナの面倒を見てほしいと頼まれた時には、ジョディとシムという二人の女性の弟子にほぼ預けたままであった。


 そのころから一番弟子のアランをも凌駕する才能を示していたエレーナは、その後二年もすると二人の手に負えないほど成長して、その後も順調に育っている。


 だが今度来た二人は規格外というか、気軽に触れてはいけない、得体の知れない宇宙人のような存在だった。


 ニアは気まぐれで基本的に好きなことしか学ぼうとしないが、無理にやらせれば、それなりにモノにしてしまう。


 コリンに至っては単に今まで魔法に興味がなかっただけで、教えれば教えただけ全てその場で覚えてしまう。


 何年も修業を続けた我が身が間抜けに思えるような、世の理不尽を痛感する。


 このままでは、すぐに教えることはなくなりそうだった。



 


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