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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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身体強化

 

 森の中で、ドネルはコリンとニアに問う。


「身体強化魔法は使えるか?」

「初めて聞きました……」

「そうか」


「例えば、あそこの一番高い木の梢で休んでいる鳥が見えるか?」

 二人はドネル師の指差す先に目を凝らす。


「見えるわけがないでしょ」

 ニアはすぐに諦めた。


「そうじゃない。視力を強化して、遠視の魔法を使うんだ」

 これも、身体能力を強化する魔法の一つだという。


「いいか、手順を説明する」


 先ず対象視界に捉える。

 そして見たいものを大体の目標に定める。

 目にマナを巡らせて、対象物をしっかり見ようとするイメージを膨らませる。


「それで、強化された視力が目標の一点をズームアップするはずだ」


「あ、見えた」

「ホントだ」

「なんだと、もう二人ともできたのか?」


「赤い鳥がいますね」

「頭に黄色い飾り羽がある」

「そうだ……」


 本当に見えているようで、それ以上言葉が出ない。

 他の弟子の中には、これだけで一年かける者もいたのに。


(こんなに簡単にできる技ではないのだが……仕方がない。気持ちを入れ替えて、次の段階へ移行しよう)


「今は風もなく、鳥は眠っているな。あの鳥の頭にある飾り羽に風を送って、その羽だけを静かに揺らす」


「え、そんなの絶対に無理」

「ここからじゃ風が届かない」


「だから、ここから風を送るんじゃない」

 二人に無理だと言われて、ドネルは少し安心する。


「見ていろ」

 ドネル師がじっと見つめていると、確かに黄色い飾り羽だけがふわりと風で揺れた。


「遠視で見ているあの飾り羽のすぐ隣から、そよそよと風を送る。これを遠隔操作魔法という」


「それ、わたしには絶対無理!」

「じゃあ、コリンやってみろ」


 コリンは見様見真似でやってみる。

「おお、そうだ、上手いぞ」


「あ、できちゃった……」

「スゴイね、コリン」

 他人事ではない。


「次はニア、やってみろ」

「えい!」


 すぐに、木の梢ごと鳥が吹っ飛んで行った。赤い羽根が抜けて派手に飛び散る。


「ああ、大丈夫。オウムはびっくりしただけで、ちゃんと飛んで逃げた……」


「ニアはいつも全力でぶっ放すだけだな。これでは繊細な魔法は使えんぞ」

 ドネル師は腕組みをして考える。


「ほらあっちを見てみろ。その隣の木の梢だ。その葉一枚だけを、風で揺らすこと。それができるまで、飯抜きだ」


「そんな無茶な……」

 崩れ落ちるニアに、ドネル師が情けをかける。


「何か聞いておくことがあれば、今のうちだぞ」

「これは何度やっても出来そうにないです……」


「先ず近いところから練習して、距離を伸ばせ」

「ああ、そうか」


「大丈夫、ニア?」

 コリンに頭を撫でられ、ニアは顔を上げる。


「そもそも、わたしはその近いところもできないからね!」


「こら、威張っている場合じゃない。じゃ、コリンは次の課題に行くぞ」


「えー、待ってよー」

「こら、コリン、早く来い!」


「嫌だ―、私も行くー」

「飯を食いたくないのか?」

「えーん」



 身体強化の中心的なものは、そのものズバリ、肉体の強化だ。


 筋肉や骨格の強化により素早い行動が可能となり、結界や障壁無しでも肉体の耐性が上がる。


「無茶をさせても怪我をしなくなるので、うちの弟子たちには早いうちに覚えさせる」


 ニアと砂漠を走り回っていたころには、思いつきもしなかった。


「先ず、マナを放出せずに体内に留め循環させる」

 ドネル師が手本を見せる。


 師はわかりやすいように結界を解き、体内にマナを巡らせる。コリンには、無属性の透き通った輝きが体を巡るのが見えた。


「なるほど。やってみます」

 同じように、コリンは試してみる。


 眼にマナを集めた遠視の魔法を、今度は全身に巡らせるような感じでやってみる。

「それで肉体が強化された実感があるか?」

「うーん、何となくですけど……」


「では、そのまま少し動いてみろ」

 とりあえず、コリンはそっと歩いてみる。


「あ、体が軽いし、何か結界が無くても大丈夫な感じです」

 うんうん、と師は頷く。


「そうだ。体の周囲に張る結界よりも、体全体を強化すればより強い防御力となる」

「スゴイですね」


「ああ。だが、マナを使い放題の場所だから、こんなことが可能だと覚えておけ。結界魔法はマナの効率が良く、他の魔法との同時発動も無理なく可能だ。常にバランスを考えて、使うように」


(精霊魔術師は、常にマナの効率を重視する。それは僕とニアも今のうちに学んでおく必要があるな……)


 だからニアは、手加減なしで魔法をぶっ放す癖がついている。


(この感覚には覚えがある。砂漠でニアと走り回っていたときに、ニアの並外れた身体能力に負けないよう僕も無意識に身体強化魔法を使っていたんだ。きっと、まだまだ誰も気付かないような魔法の使い方があるはずだ……)


 コリンは強化された肉体に慣れるために、師と一緒に跳んだり走ったり岩を持ち上げたりと、魔法の強度を変化させつつ体で覚える方法を学んだ。


「視力を強化したやり方で、あらゆる五感を強化可能だ。あとはそれを含めて、一人で練習するように。俺はニアとエレーナを見て来る」


 なんだかんだと面倒見のいい師匠である。



 


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