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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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湖畔の家

 

「え、メアリー先生の妹なの?」


 ニアは、背が高くスタイルの良かったメアリーを思い出しながら、エレーナをじろじろと見る。


「やめるのだ。きっと姉さんと比べているのだ……」

 エレーナは目隠しをするように、ニアの目の前に両手を出して広げる。


 コリンは、それを見ながら言った。

「でもメアリー先生によく似ているよ。本当に姉妹なんだね!」


「そうなのだ。だから姉さんから聞いて、二人を待っていたのだ」


 ドネル師は、メアリーの整った顔立ちを思い浮かべて、密かに歯ぎしりをする。

(メアリーの奴、面倒な子供ばかり人に押し付けおって!)


「師匠は姉さんに惚れているので、何でも言うことを聞いてしまうのだ!」


 さすがにドネルはエレーナの頭に魔法の拳骨を落とした。

 エレーナの頭上で、金属を叩くようなかん高い音が聞こえて、エレーナが頭を抱えて地面を転げまわる。


「まだまだ、修行が足りんな。この程度で障壁を破られるとは!」


「し、師匠、これは私じゃなければ、頭がスイカみたいに潰れて死んでいるのだ!」


「バカモノ。ちゃんと手加減している!」

 涙目で立ち上がったエレーナはコリンとニアを見る。


「私はここでは先輩。つまり、君たちの姉弟子なのだ」

 そう言って二人の前で胸を張る。


「私をちびっ子と言ったそこの野良ネコ。師匠の弟子になりたければ、私を敬うのだ」

 いきなり野良ネコと呼ばれたニアは、驚き慌てる。


「な、何でわたしが野良ネコなの?」

「うん、何となく他の人間とは違う、中途半端な野性味を感じたのだ!」


「(コリン、このちびっ子鋭すぎて怖い……)」

「(大丈夫だよ。そのままにしていれば。幼い子供相手に慌てないで)」


「僕ら二人は十五歳だよ。エレーナは幾つ?」

「うん、エレーナは十四なのだ」

「えっ、十四歳?」


「そうなのだ。悔しいが、コリンと野良ネコより一つ年下なのだ」

「ほんとですか?」

 コリンは思わずドネル師を見る。


「ああ、間違いない。少し幼く見えるが、人は外見で判断してはいかん、という生きた見本だな」


 そしてドネル師は、お前ら二人もな、と心の中で付け加えた。


「まあ、疲れただろうから、中で冷たいものでも飲もう」

 ドネル師は家の中へ二人を誘った。



「しかし、よく二人だけでここまで来たのだ。私はちゃんと師匠にここまで連れて来てもらったぞ」


「こらエレーナ、余計なことを言うな」

「えー、わたしたちの扱いが雑過ぎない?」


「エレーナは一人で、しかもまだ十歳だった。それに、それだけ君たちの実力を認めているということだ。一目でただ者ではないと分かったぞ、ニア」


「ははぁ、わたしの実力は、一目で見抜かれてしまったのだ!」



「一目で野良ネコだとわかるのだ。それに、私の真似をしてはいけないのだ!」


「それにしても、どうやってこんなに早く着いた?」

 そう言いながらも、ドネルは湖の上を走る二人を見たので大体は想像できる。他の弟子を他所にやっておいてよかったと、ホッとしていた。


「あの湿地帯をほぼ真っすぐに横断して、最短距離で歩いてきました……」

「それにしては、小綺麗にしているし、疲れも見えないが……」


「いや、これだけマナがあれば魔法を使い放題だから、誰でもできるでしょ」

 ニアは、そんなの当たり前のことじゃないかと言う。


(よりによって、あの凶悪な生物だらけのぬかるんだ湿原を平気で歩いて来るとは、とんでもなく非常識な奴らだ……)

 ドネルは怪物を見るような眼で、二人を眺める。


「食事や寝る場所はどうしたのだ?」

 興味深々で、エレーナが聞く。


「ナマズとワニはスゴク美味しかったなぁ。ヘビとコウモリはまあまあだね。あと、ネズミの大きい奴は、結構美味かった……」


「あの巨大なクロカイマンを、倒して食っていたのか?」

「ああ、あれは動きが遅いから簡単……」

「普通ワニは、野良ネコを食う方なのだ」


「それに、ネズミってのはカピバラだな。あれも素早くて、捕まえるのは難しいぞ」

「そうかな?」


「野良ネコだから、ネズミを捕るのは得意なのだ」

「のだっ子は一々うるさいのだ」


「ジャガーには会わなかったか?」

「なにそれ、美味いの?」

「違う、人間の方が美味しくいただかれてしまう、猛獣だ」

「そう、でっかい野良ネコの親分なのだ」


「ジャガーは見ませんでしたね、ほとんど湿原の中にいましたから」

「何を言っているのだ。ジャガーは泳ぎが得意なので、湿原にも多いのだ」

「へぇー、知らなかった」


 コリンはそう言ったが、実は何度かジャガーとも遭遇している。

 しかしニアが「シャーッ」と髪の毛を逆立てて威嚇すると、尾を下げておとなしく去って行く。


 時には歩きやすい道を案内させるなど、ニアは舎弟のように便利に使役していた。さすがに、そんなことは言えない。


(でもニアはあれがジャガーだと知らず、ただのでっかい野良ネコと思ってるだけかもしれないな……)


「で、あの悪夢のような湿原を縦断して来たのに、どうして君たちはそんなに身綺麗なんだ?」


「ああ、それは生活魔法を使ってるからね」


「なんだ、それは」

「ほら、こうやって」

 ニアはいつものように、体と服をまとめてきれいに洗う洗浄魔法を使った。


「はえ?」

「おおっ」

「なんかお風呂上がりの石鹸の香りが……」


 ニアの洗浄魔法に、ドネル師とエレーナが顔を見合わせて放心状態に陥っている。


「あの、これは小さな魔法をたくさん組み合わせてニアと二人で作った洗浄魔法で、体と服を一緒に全部キレイにしようという横着な発想で……」


「スゴイ、すっごいよ、これ。師匠、これがあれば、洗濯もしなくていいし、冷たい湖で体を洗う必要もないですぅ」


「え、暖かいお風呂とかホットシャワーとかって、ここにはないんですか?」

「こんなクソ暑いジャングルの中に、そんな気の利いたものがあるかっ!」


「だって魔法でお湯を作ればいいだけじゃないですか!」

「ほら、師匠。だから若い弟子がみんな逃げちゃうんですよ!」


「俺は弟子なんぞいらん。それに、風呂に入らなくても、人は死なない!」

「師匠、よく言った。その通りだー」

 珍しく、ドネル師とニアの気が合った。


「あの、野良ネコじゃない、ニアさん。その魔法を私に教えてくださいなのだ!」


「よし、のだっ子と師匠が臭くならないように、洗浄魔法を教えてあげるのだ」


「だから、口調を真似しないでくださいなのだ」


「自然とこの口調は伝染するのだ、とっても良くないのだ!」



 


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