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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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ドネル師

新年あけましておめでとうございます

いつも拙い小説をご覧いただき本当にありがとうございます

皆様にとって、2022年が良い年になりますように!


感想、レビュー、ブクマ、評価などなど、これからもよろしくお願いします!


読みやすくなるように、ちょいちょいと直しています

気になった部分をご指摘いただければ嬉しいです!


 

 少し歩いて、やっと師が振り返り二人を見た。


「ここから密林に入る。毒虫は呼気や体臭に集まるし、毒蛇は体温を感知して牙を剥く。鳥や獣は音にも敏感だから、襲われないようしっかり気配を抑えて歩けよ」


「はーい。何なら姿も消す?」


「そこまでしなくていい。あとニア、お前は無駄に声が大きいから、気を付けなさい!」


「はーい。何だかワクワクするね、師匠」


「お前ら、ピクニックじゃないんだぞ。本当にこの星は初めてか?」

「初めてだから、楽しみなんでーす」


「初めてこの密林に入ってワクワクするといったバカは、お前が初めてだ」

(普通は緊張して、足がガタガタ震えている時間だ。こいつはガイダンスを何も聞かずに、ずっと寝ていたんじゃないのか?)


 それは半分当たっている。ニアも、最初のうちは起きていたのだ。


 だがこの時ドネルは、初めて自分の見込みが違ったのかと感じて、小さな不安を覚えた。


 それから慌てて、メアリーの寄越したメールの内容を、歩きながら密かに再確認していた。


「さて、向こうに見える山がわかるか?」

 東へ向かって密林の中を歩いた先にあった小高い丘の上からは、樹林の間に大きな山が見えていた。


 山の上には雲がかかっている。

「あの山の麓に、ここのよりも小さいが、深くて美しい湖がある。その畔に、俺は住んでいる」


 緑の山も空に浮かぶ雲も、ましてや湖のような大量の水も、二人は昨日ステーションに着いて、生まれて初めて見たばかりだった。


「へえ、いいところなんだ」


「ああ、まあまあ暮らしやすい場所だな。俺は先に行って、そこで待っている」


「え、師匠、まさか自分だけ先に行く気?」

「ああ、他の弟子が待っているんでな」


「なるほど。これは僕らが弟子になるための試験ですか?」


「そうだ。理解が早くて助かる。ここから普通に歩けば、一旬(10日)もかからずに着くだろう。何かあれば、端末で救助を呼んで、勝手に帰れ。ただ、寝覚めが悪いから、死ぬなよ」


「目的地の位置は、端末に送ってくれますか?」


「いや。あの宇宙まで延びるステーションの蔓から真北へ向かえば、湖に達する。湖と湖の間は道のない大湿原で、その周囲は密林だ。どこをどう通るかは、勝手にしろ」

「わかりました」


「じゃ、健闘を祈る」

 そう言い残して、ドネル師は消えた。


 いや、普通の相手には消えたように見えただろう。


 だが二人には、ドネル師の使う魔法が放つマナの光が樹林の中を猛スピードで駆けるのを見逃さなかった。


「どうする、ニア。僕らも走って後を追う?」


「こんな所を走るのは嫌だなぁ。せっかくだから、のんびり行こう!」

「オーケー、じゃお昼ご飯になりそうなものを探しながら歩こうか」



 二人は、道なき密林を歩いている。

 よく見れば、食べられそうな果実はあちこちにある。


「コリン、これはどう?」

「うん、毒はなさそう。食べてみて」


「あ、甘酸っぱくて美味しい。これは食用、と」


 料理人のコリンは、見ただけで食用になるかどうかの鑑定ができる。毒の抜き方や安全でおいしい調理法まで、瞬時に理解できてしまう。


 冷静に考えればこれも魔法の一種なのだろうが、本人は何の自覚もない。


 森を抜けると川があり、魚も多いがワニのような危険な生き物もちらほら見える。


「どうせなら、魚を食べたいな」

 コリンは水魔法で川の水を一気に持ち上げた。


 投網に掛かったように、三メートルくらいの水玉の中に魚が入っている。

 その水だけを川へ戻し、最後に残った水と魚の塊を足元に落とした。

 地面の上でぴちぴちと跳ねる魚たち。


「おお、大漁だね」

 その中から美味しそうで大きな魚だけを選んで、あとは川へ戻した。


 さて、どうやって食べようか。

(調理台と包丁がいるな。あとはコンロと調味料……)


 コリンはそんなものが無いことはわかっているが、不思議と何とかなりそうな気がしている。


(まさかね……)

 試しにそれらが置かれているイメージを膨らませると、突然それがそのまま目の前に出現した。


「うわ、何だこれ!」


 地面で跳ねる魚をつついていたニアが振り向くと、そこにはどこかで見たような調理台がある。


「これって、砂丘の底で使ってた古い厨房器具だよね」

 ニアの言う通り、コリンにも見覚えがある。


「どこから出てきたの?」

「いや、調理台が欲しいと思ったら、目の前にあった……」


「これ、覚えてる?」

「ああっ!」


 コリンが十歳くらいの時、父親が古い厨房機器を入れ替えて新しくする工事を発注した。


 いよいよ撤去工事が始まるという前の日、何故か古い機器がすっかり消えていたのだった。


「それって、もしかして捨てたくないと思った僕の魔法だったのかな?」

「うーん、そうかもしれないねぇ……」

「あの時と変わらない状態で残っていたんだ……」


「コリンは何でも古い物を捨てないで、良く叱られていたよね。あれって、いつの間にか見なくなってたけど、お父さんやお兄さんに捨てられたんじゃなくて……」


「それって、ニアの収納庫みたいな奴かな?」


「うん。だとしたら、どれだけデカいんだよって感じ。コリンだから、大量のガラクタばっかり詰まってると思うけどねぇ」


「なら、残った料理や材料とかも保存されていたりして……」


 コリンが何となく思い浮かべると、調理台の上に焦げたフライパンとパンケーキが現れた。



 


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