ドネル師
新年あけましておめでとうございます
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読みやすくなるように、ちょいちょいと直しています
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少し歩いて、やっと師が振り返り二人を見た。
「ここから密林に入る。毒虫は呼気や体臭に集まるし、毒蛇は体温を感知して牙を剥く。鳥や獣は音にも敏感だから、襲われないようしっかり気配を抑えて歩けよ」
「はーい。何なら姿も消す?」
「そこまでしなくていい。あとニア、お前は無駄に声が大きいから、気を付けなさい!」
「はーい。何だかワクワクするね、師匠」
「お前ら、ピクニックじゃないんだぞ。本当にこの星は初めてか?」
「初めてだから、楽しみなんでーす」
「初めてこの密林に入ってワクワクするといったバカは、お前が初めてだ」
(普通は緊張して、足がガタガタ震えている時間だ。こいつはガイダンスを何も聞かずに、ずっと寝ていたんじゃないのか?)
それは半分当たっている。ニアも、最初のうちは起きていたのだ。
だがこの時ドネルは、初めて自分の見込みが違ったのかと感じて、小さな不安を覚えた。
それから慌てて、メアリーの寄越したメールの内容を、歩きながら密かに再確認していた。
「さて、向こうに見える山がわかるか?」
東へ向かって密林の中を歩いた先にあった小高い丘の上からは、樹林の間に大きな山が見えていた。
山の上には雲がかかっている。
「あの山の麓に、ここのよりも小さいが、深くて美しい湖がある。その畔に、俺は住んでいる」
緑の山も空に浮かぶ雲も、ましてや湖のような大量の水も、二人は昨日ステーションに着いて、生まれて初めて見たばかりだった。
「へえ、いいところなんだ」
「ああ、まあまあ暮らしやすい場所だな。俺は先に行って、そこで待っている」
「え、師匠、まさか自分だけ先に行く気?」
「ああ、他の弟子が待っているんでな」
「なるほど。これは僕らが弟子になるための試験ですか?」
「そうだ。理解が早くて助かる。ここから普通に歩けば、一旬(10日)もかからずに着くだろう。何かあれば、端末で救助を呼んで、勝手に帰れ。ただ、寝覚めが悪いから、死ぬなよ」
「目的地の位置は、端末に送ってくれますか?」
「いや。あの宇宙まで延びるステーションの蔓から真北へ向かえば、湖に達する。湖と湖の間は道のない大湿原で、その周囲は密林だ。どこをどう通るかは、勝手にしろ」
「わかりました」
「じゃ、健闘を祈る」
そう言い残して、ドネル師は消えた。
いや、普通の相手には消えたように見えただろう。
だが二人には、ドネル師の使う魔法が放つマナの光が樹林の中を猛スピードで駆けるのを見逃さなかった。
「どうする、ニア。僕らも走って後を追う?」
「こんな所を走るのは嫌だなぁ。せっかくだから、のんびり行こう!」
「オーケー、じゃお昼ご飯になりそうなものを探しながら歩こうか」
二人は、道なき密林を歩いている。
よく見れば、食べられそうな果実はあちこちにある。
「コリン、これはどう?」
「うん、毒はなさそう。食べてみて」
「あ、甘酸っぱくて美味しい。これは食用、と」
料理人のコリンは、見ただけで食用になるかどうかの鑑定ができる。毒の抜き方や安全でおいしい調理法まで、瞬時に理解できてしまう。
冷静に考えればこれも魔法の一種なのだろうが、本人は何の自覚もない。
森を抜けると川があり、魚も多いがワニのような危険な生き物もちらほら見える。
「どうせなら、魚を食べたいな」
コリンは水魔法で川の水を一気に持ち上げた。
投網に掛かったように、三メートルくらいの水玉の中に魚が入っている。
その水だけを川へ戻し、最後に残った水と魚の塊を足元に落とした。
地面の上でぴちぴちと跳ねる魚たち。
「おお、大漁だね」
その中から美味しそうで大きな魚だけを選んで、あとは川へ戻した。
さて、どうやって食べようか。
(調理台と包丁がいるな。あとはコンロと調味料……)
コリンはそんなものが無いことはわかっているが、不思議と何とかなりそうな気がしている。
(まさかね……)
試しにそれらが置かれているイメージを膨らませると、突然それがそのまま目の前に出現した。
「うわ、何だこれ!」
地面で跳ねる魚をつついていたニアが振り向くと、そこにはどこかで見たような調理台がある。
「これって、砂丘の底で使ってた古い厨房器具だよね」
ニアの言う通り、コリンにも見覚えがある。
「どこから出てきたの?」
「いや、調理台が欲しいと思ったら、目の前にあった……」
「これ、覚えてる?」
「ああっ!」
コリンが十歳くらいの時、父親が古い厨房機器を入れ替えて新しくする工事を発注した。
いよいよ撤去工事が始まるという前の日、何故か古い機器がすっかり消えていたのだった。
「それって、もしかして捨てたくないと思った僕の魔法だったのかな?」
「うーん、そうかもしれないねぇ……」
「あの時と変わらない状態で残っていたんだ……」
「コリンは何でも古い物を捨てないで、良く叱られていたよね。あれって、いつの間にか見なくなってたけど、お父さんやお兄さんに捨てられたんじゃなくて……」
「それって、ニアの収納庫みたいな奴かな?」
「うん。だとしたら、どれだけデカいんだよって感じ。コリンだから、大量のガラクタばっかり詰まってると思うけどねぇ」
「なら、残った料理や材料とかも保存されていたりして……」
コリンが何となく思い浮かべると、調理台の上に焦げたフライパンとパンケーキが現れた。