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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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南米ステーション

 

「私はここの職員のデイジー。あんたたちは来たばかりだよね」


「はい、そうです。僕がコリンで、こっちがニア」


「そうか。やはり君たちがドネル師への紹介状を持つ子供か」

「なんか、そうらしいですね……」

 コリンは苦笑する。


「もしかして、君たちはドネル師を知らんのか?」


「うん。それどころか、この惑星のことも知らずに貰ったチケットで来ただけ……」


「それは本当か?」


「はい。『テカポ』の教会にいたメアリーさんの紹介で」

「なるほど、メアリーの紹介か。それでわかったぞ」

「お知合いですか?」


「ああ。以前は私も教会にいたのでな。だがこの惑星は物好きな魔術師が集まって自主管理をしているので、銀河のどの組織にも属していない。教会の紹介状など、本来は意味の無い物だが……」


 コリンとニアは目を合わせる。


「ここは、教会の管理下ではないんですか?」


「ああ。だから教会の紹介状も、あくまでもドネル師個人に宛てたものだ。ただ初めて来た若者を裸で密林へ放り出すような真似はしないので、安心してくれ」


 そろそろ、最初のガイダンスが始まる。

「こっちへ来て」

 デイジーに連れられて、二人はスクリーンの輝く一室に入る。


 同じ便でこのステーションへ降下したのは二人を合わせて六人で、全員が会議室に集められている。


 そこでこの惑星全体の概要と、その危険性を説明された。


「テカポが整備された都市公園だとすれば、ここヴィクトリアは危険に満ちた野生の王国だ。高温多湿の環境下に、凶悪な生物が嫌というほどいる。ここから一歩外に出たら、一匹の蚊に刺されただけで高熱が出て死んでしまう、そんな非情の世界だ」


 それを聞いただけで、コリンは帰りたくなった。

「(ニア、なんか砂漠よりひどくない?)」

「(うん、外に出たくない!)」


「諸君には、先ずここを拠点としてこの環境で生き残る術を学んでほしい。いきなり外に出て活動を始めるのは、自殺行為だ」


 そしてこの大陸はオールドアースの南アメリカ大陸の密林を模した場所で、そこにはどのような脅威が存在するのかを詳細に説明した。


「ここから一番近い魔術師の村まで、約二キロある。先ずはその村まで徒歩で往復することを目指して、徐々に訓練をしてほしい」


(とんでもない場所へ来てしまった……)

 コリンは早く帰りたかった。

 隣のニアは、何故か目を輝かせている。

(野生の血が目覚めちゃったかな?)


 密林の中にある道は獣道のようなもので、個人が使える乗り物などはないから、自分の足で歩くのが基本だ。


 そもそも絶対的に人口が少ないので大きな街もないし、食料も基本的に自給自足に近い。


 そういった知識も、大陸ごとに内容が違う。


 教育訓練プログラムは実戦的な知識を学ぶものとここで暮らすために必要な魔法を学ぶものに分かれている。


 どちらも重要だが、知識の習得は必須と考えるコリンに対し、ニアは面倒なので、野生の勘で何とかなると割り切っている。


「だってさ、わたしはここへ魔法の修業に来たの。勉強しに来たんじゃないから」

「そりゃそうだけどさ」


 初日のガイダンスが終わり会議室を出ると、もう外は薄暗かった。


 この施設の中にいれば衣食住は保証されるし、基礎訓練への参加も無料だ。

 ただし、それは来月の定期便が来るまでだ。


 一か月後までに、密林に足を踏み入れるか、尻尾を巻いて逃げるか、選択することになる。


 外へ出て一か月間無事に暮らせば正式な住民と認められ、何かの時にはいつでもこのステーションへ避難することが可能だし、その後惑星への出入りも自由に認められる。


 帰りの便も月に一本しかないので、二人の滞在は最低でも二か月は必要なことが分かった。



 翌日の朝食後、コリンとニアは職員のデイジーから呼び出された。

「やあ、この場所については大体わかったかい?」

「そうですね」


 コリンは不機嫌そうに答えるが、ニアは相変わらず目をキラキラさせている。


「お、ニアは楽しそうだね」

「うん、早く外に出たいなぁ」


「そうか。それなら丁度いい。君たちの迎えが来ている」


 デイジーが振り返ると、タンクトップと七分丈のパンツにサンダル履きという、ビーチリゾートから来たような格好の、背の高い男が立っていた。


 サングラスで表情を隠しているが、どうやら笑顔で迎えてくれているようだ。


「君たちが、コリンとニアか?」

「はい」


「メアリーから聞いているよ。俺がドネルだ」

 男は浅黒い筋肉質の腕を出して、二人と握手をする。


「師匠が迎えに来てくれたんだ!」

「すみません、よろしくお願いします」


「じゃ、案内するから荷物を持って来て」


「え、もう行くんですか?」

「ああ、ダメか?」


「うん、いいよ。最高!」

 ニアはこれ以上勉強せずに済むようなので喜び、走って自分の部屋へ戻る。

 仕方なくコリンも後を追う。


「荷物はそれだけか?」

 二人は着替えや日用品の入った小型のバックパックを背負っている。


「よし、いいぞ。荷物は多ければいいってもんじゃない」

「じゃ、確かに二人は受け取った。メアリーにそう伝えてくれ」


「はい……でも、本当にいいんですか?」

「ああ、こいつら二人なら大丈夫だろ」


「そ、そうなんですか?」

「見てわからんのか?」

「はい」


「デイジー、君はまだまだだな。こいつら二人の魔力は、このステーションにいる誰よりも強いと思うぞ」



「まさか、そんな?」

「まあ、心配ならそこで見ていろ」

「……」


 サンダル履きでステーションを出て行くドネル師を追って、二人は外へ出る。


 ドネル師は、少しウエーブのかかった長い黒髪を頭の後ろで一つに束ねていた。


 二人は砂漠を歩いていたときのようなしっかりしたブーツと、全身を覆う旧い惑星探査隊風のジャングルファッションに着替えていた。


 これは単にニアの趣味で選んだ、雰囲気作りだ。

 だが、見ただけでわかる不快な熱気と湿度に包まれると、即座に結界魔法で防御した。


 前を行くドネル師も、同じような結界の淡い光に包まれている。


「(でも、これならまあ、エランドの砂漠よりはマシかな)」

「(うん。炎天下の砂漠は、こんなもんじゃないからねぇ)」


「(でも、これ魔術師しか入れないの、わかるな)」

「(うん、シルだったらもう逃げ帰ってると思う)」


 ドネル師は、振り返りもしない。

 二人は仕方なく、そのまま黙って歩く。


 その後ろ姿を不安な顔で見守っていたデイジーは、三人が密林へ向かう小道をしっかりとした足取りで歩くの見て、ほっとした表情になり仕事に戻る。


(心配したけど、あの子たちならどうにかなるのかもね……)



 


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