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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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転移ゲート装置

 

 一方、コリンとニアは、定期船を降りて『ヴィクトリア』のステーションに入っている。


 イミグレーションの内部には蔓性の植物が天井や壁を覆っていて、濃厚なマナに包まれている。


 同乗者は全部で二十人いたが、そのうち五人はすぐに転移ゲートを通って消えた。

 残りの十五人が、初めての訪問者らしい。


 当然、ここへ来ることができるのは選りすぐりの魔法使いばかりのはずだ。


 全員が期待と緊張で頬を紅潮させ、窓から眼下の青い惑星を見ている。


「さて、残りは初めての連中だな。ここから下へ降りるには、三つの選択肢がある」

 大柄で濃い髭の中年男が、船から降りたばかりの乗客に声をかけた。


「簡単な話だ。この惑星ほしには三つの大陸がある。それぞれにゲートがあって、ひとまず安全な地上ステーションへ転移が可能だ。最初に、どこへ降りるのかを決めなければならない」


「そうなんだ。知らなかった」

 コリンがニアと顔を見合わせる。


「よし。では、地上への紹介状を持っている者はこっちへ並べ。そうでない者は少し待っていてくれ」


 半分くらいの人間が男の前に並ぶ。コリンとニアも列の最後尾に並んだ。


「よし、紹介状を見せてくれ」

「君は、特に受け入れ先の指定がないな。ではそっちへ」

 そう言って残った者に加わるように言う。


「次。君たちはアヘネル師か。じゃ、行先はアフリカ大陸だ」

「次、君はサロモン師、こっちは東南アジア大陸」

「次、……」


 そしてコリンとニアの番になる。

 コリンの差し出すプレートを見て、男は肩をすくめる。


「君たちはドネル師かぁ。随分若いけど、大丈夫なのか?」

「大丈夫でしょ」

 ニアが笑顔を見せる。


「そうか、死なないようにな。さて、ドネル師は今、南アメリカ大陸にいる」

 こうして紹介状を持つ者は否応なく行き先が決まる。


「さて、残りは勝手に好きなところへ行ってくれ。ただし、地上ステーションから出る前に簡単なガイダンスがあるから、忘れずに受けるように」


 そうして、小型の転移ゲート装置の前へ案内された。


「三つの大陸にあるゲートはプリセットされているから、先に選択するだけでいい」

 そうして、人々は順にゲートから地上へ降りる。


「これ、もしかして自分でゲートの操作をして降りて行くの?」

 ニアが髭の男に聞いている。


「おお、当然だ。ここは魔術師以外入れない惑星だからな」


「コリン、出来る?」

「さあ、やってみるしかないね」


 ゲートは何度も潜っているが、船から出る時はアイオスが勝手にやってくれるし、その他の場合も一般客と同じで専門の魔術師が操作してくれていた。


「おい、もしかしてお前らゲートの操作もしたことがねぇのか?」

 呆れたように男が見る。


「うん、初めて」

「それじゃ、下には行けんぞ」


「でも、ちょっと試してみようか」

 コリンはⅬⅬ―5での一件もあり、何となく出来るような気がしている。


「おいこら、初めてで惑星への降下なんて危険だから絶対によせ!」

 だが既に二人はすたすたと歩いてゲートへ向かう。


 いつものようにゲートのインジケーターランプが緑色になり、二人はそのまま歩いてゲートの向こうへ消えた。


「おい、待てってこらっ!」


「くそっ、南アメリカステーション、聞こえるか!」

「はい」


「軌道のウエストだ。男女二人組のガキがそっちへ転移したけど、無事に着いたか?」

「ちょっと待ってください」


「えっと、十代の子が二人、確かに今、到着しています」

「そうか。よかった……」


「どうしたんですか?」


「ああ。そいつら、教会が発行したドネル師宛の紹介状を持っていやがる。それだけでも不思議なのに、今の転移が初めてのゲート操作だとぬかしたくせに、二人揃って手を繋いだままゲートを抜けやがった!」


「まさか。初めてなのに、二人で一緒にゲートを抜けるなんてあり得ない。それに、ドネル師宛の紹介状なんて聞いたこともない。教会の発行する紹介状だって、普通じゃないですよ。どれだけスゴイVIPですか?」


「ああ、何か訳ありのようだから、そいつらから絶対に目を離すなよ!」

「はい。了解しました」


 二人の知らぬところで、結構な騒ぎになっていた。



 南アメリカ大陸の地上ステーションへコリンとニアは無事に降り立った。


 エランドと同じくらいの重力を感じるが、まだ建物内なので人工重力の可能性も捨てきれない。


 壁面のディスプレイに、惑星の立体地図がある。

 中央にあるのが、この大陸らしい。


 確かにこの惑星には三つの大陸があり、オールドアースの大陸の名を取った熱帯雨林の生態系が再現されている。


 しかしそれよりも不思議なのは、目の前の光景だった。


 ステーションの前には大きな湖が広がっていて、その中央に島がある。

 島は石造りの古い建物で囲まれていて、その頂点から天空へ向けて一本の太い樹木が伸びていた。


 曲がりくねって絡んだ蔓が上空へまっすぐに伸びてマナの光を放っているその姿は、長靴をはいた猫と同じ古いお話の中にあった、ジャックと豆の木そのままである。


 二人が並んで茫然とその蔓を見上げていると、後ろから声をかられた。


「すごいでしょ。あの蔓が軌道ステーションまで延びているのよ」

 二人が振り向くと、赤毛で背の高い痩せた女性が立っていた。


 熱帯地方らしいショートパンツにTシャツという、ラフな姿である。

 この南米ステーションの壁面にあるのと同じジャガーのマークの入った黒いメッシュのベストを羽織っているので、ここの職員かもしれない。


「ウソ、あの軌道ステーションの中を這いまわっていた蔓は、これなの?」

 ニアは、女性を見上げる。


「そうよ。元は軌道エレベーターだったんだけど、今じゃ転移ゲートがあるからね」

 その言葉に、コリンは驚愕する。


「まさか、転移ゲートが出来る前からある施設ということですか?」


「そう。ほら、あの根元の島にあるのが、古代遺跡なの」


「古代遺跡?」


「そう。この惑星のジャングルにはまだまだあちこちに遺跡が眠っているけど、決して近づいちゃだめよ」


「え、どうして?」

 無邪気な顔でニアがその職員を見る。


「とても危険なの。過去に何人もの魔術師が遺跡に入り、行方不明になっているわ」


「こわーい。さすが、緑の魔境だね!」


 全く緊張感がないニアの声に、女性は苦笑する。



 


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