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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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ヴィクトリア

 

 太陽フレア騒ぎは大事にならず、何とか翌日には収束して、それから二日もすれば残りの岩も造り終えて、コリンとニアは仕事から解放された。


 一方でしかし、それで終わりではなかった。無事に仕事を終えた二人は、宿の部屋で悩んでいるた。


「そりゃ確かに、ここの魔術師たちの力量はあまり高くないかもしれないけど、僕たちに足りないのは、魔法についての知識だと思うんだ」


 あれだけのことを成し遂げたのに、コリンはまだ納得してはいない。


「わたしは一通り初級魔法の練習プログラムをやってみたけど、特に難しいものはなかったから、ここにこれ以上いても意味がないかも……」


「例えばメアリー先生に頼んで。教会の中級魔法教本みたいなものを貰えないかなぁ」

 コリンは、もっと体系的な魔法知識が欲しいと思っている。


 だが、二人の桁違いの魔法を目の当たりにしたメアリー先生は恐れおののき逃げ回って引きまくっていて、これ以上の情報を貰えそうな気がしない。


 実際、精霊魔術師に関する実用的な教本はネットには公開されていない。そもそも存在しないのか、教会が門外不出にしているのか、どちらかだろう。


 教会関係者以外の需要がないから、という理由もよくわかるし、千五百年前のMT喪失時に魔導師の存在と共に全てが失われたとも聞く。


『オンタリオ』のアーカイブにあった初級魔法訓練プログラムのおかげで、初級魔法という存在を初めて知ったニアとコリンであるが、その先の中級、上級魔法については、ほとんど何も知らない。


 メアリー先生が漏らした土魔法の区分を他の魔法に当てはめれば、おおよその見当はつく。ものの、しかし、少なくとも『オンタリオ』に残されていたプログラムには、土魔法などという分類さえなかった。


 教会の魔法と千五百年前に消えた魔導師の魔法の間には、大きな断絶があって当然なのだ。


 コリンが話をしたい肝心のメアリー先生は多忙なのか、連絡をしても中々捕まらない。早く約束通りに、知り合いの連絡先などの詳細を知りたい。


 翌日遅くにやっと捕まった先生からは、現場とのすり合わせが終わるまでは観光でもしながら待機してほしい、とだけ言われた。


 滞在中の五人の宿代は全てコロニー持ちということなので、文句も言えない。

 そのまま更に三日後、メアリー先生からの連絡があった。


 作成した岩の品質、数量ともに申し分ないとの評価で、無事に確認作業が終了したとのこと。



 何かが吹っ切れたように明るいメアリー先生と最後の会食を終え、五人は『テカポ』を去る。


 次の目的地は、メアリー先生が紹介してくれる高名な魔術師が滞在する惑星、『ヴィクトリア』だ。


 通称は、マジア・ヴェルデ Magia verde(語源はイタリア語)。英名では Green Magic、 緑の魔境だ。


 しかし問題は、その緑の魔境へは魔術師以外は入れない、ということだった。

 そこへ行くには、月に一便しかない定期便に乗船するしかない。


 その星の転移ゲートステーションでさえ、魔術師以外は入れないという。


 そしてステーションで地上へ降りる許可を得た者だけが、地上へ降りられる。


 コリンとニアはステーション行きのチケットを教会から貰っている。教会の推薦状もあるので、地上への降下も問題はなかろう、ということだった。


「で、俺たち三人はこの船でお留守番てことだな」

「それはいいけど」

「どこで待つ?」


「アイオス、僕ら二人がいない船は、どのくらい稼働できる?」

「どこかのステーションに停泊しているだけならば、百年でも大丈夫ですが」


「例えば、どこか別の場所へ移動する必要があった場合は?」

「現在のマナチャージ量は百パーセントですので、人類の居住圏内を軽く十周は可能です」


「じゃあ、どこでもいいね」

「三人は何かやりたいことはあるの?」


「大きく、二つある」

 ジュリオが目配せをすると、シルビアとケンが頷く。


「一つは、私たち自身や船についての情報を再チェックする。テラリウムの作成やその他の隠蔽と欺瞞工作により偽装を完璧にするわ」


「もう一つは、この船についてもっと知りたいってこと。オレたちエンジニアにとって、よくわからん船に乗せられて旅するのは性に合わないんだ」


「そうよね」

「ああ、俺もそう思う」


「だから、ここで使われているMTの解析と、出来ることなら新しい技術の開発もしたい」


「そのためには、どこか誰の邪魔も入らない宇宙空間で、静かに過ごしたい」

「うわっ、引きこもる気か……」

「コリンが羨ましそうなのは、何故だろう?」


「ニア、一人で行って来れば?」

「ダメ!」


「それなら、俺たちはその緑の魔境近くの宇宙空間に停泊すりゃいいんだろ」


「お二人の身に何かあった時のために、通常航行で迎えに行ける宙域を提案します」


「ありがとう、アイオス」

「じゃ、その場所の選定はアイオスに任せるよ」


「コリンとニアは、ブレスレットで常時通信できるのかな?」


「それなら、指輪の方がいいでしょう。魔術師に特化したアイテムですので。念のためニア様の空間収納には、予備のブレスレットを忘れずに入れておいてください」


「もしかして、地上から通信出来ちゃったりするのかな?」

「もちろん。、その指輪なら、コリン様との遠話も可能ですになりました」


「うわ、これはヤバい奴だ」

「せめてブレスレットの解析くらいまで辿り着きたいけど」


「無理ね」

「だろうな」


『テカポ』から緑の魔境『ヴィクトリア』への直行便はなく、中継点となる惑星のステーションを経由する。


 そこが緑の魔境から一番近い恒星系だった。

 距離は二十光年ほど離れている。


 定期便の出発は数日後で、ニアとコリンの席は教会が予約してくれた。


 特徴のない地味な惑星のステーションで数日を過ごし、コリンとニアが乗る定期船を見送ったのち、レストラン船『オンタリオ』は調べておいた別の星系に転移した。


 そこは賑やかな星系で、月や近隣惑星とコロニー間の距離が比較的近く、通常航行している小型船が多い。


 金持ちのヨットが小惑星の間を航海しながらバカンスを過ごす、高級リゾート地だった。


 その喧噪に紛れて、『オンタリオ』は緑の魔境近くの宇宙空間へフリージャンプした。


 三人は、大部屋になっている店の三階から外を眺めている。

「おお、何もないね」

「緑の魔境はどれだ?」

「こちらです」

 アイオスが展望窓から望む一つの明るい星をAR表示した。


「ここはどの辺なんだい?」


「緑の魔境ヴィクトリアを第三惑星とする恒星系の、第四惑星の公転軌道付近です。ちょうど第三惑星と第四惑星は現在恒星の反対側にいますので、周囲に障害物はありません」


「ここでいいのか?」

「小惑星の陰に隠れるとかって意味?」


「ああ、目立つんじゃないか?」


「ご心配なく。この星系には月に一度の定期便以外に近付く船はいません。念のため本船は魔法障壁と結界により存在を隠しています」


「なるほど。コリンとニアは着いたころかな」


「惑星表面に降下するまでは連絡しないって言っていたから、まだのようね」

「ニアが何かやらかさなければいいけどな……」


「うん」


「それだけが心配だわ……」



 


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