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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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隠してもわかります

 

 岩のブロックを作成している現場は、分業化されていた。


 作成するブロックは、三メートル四方で、厚さは一メートル。

 目の前で見れば大きいが、宇宙サイズで見ればかなり小さい。


 人ひとりの魔法で造るにはこの程度が限度で、運搬の効率も良いのだという。


 その運搬が面倒なのだが、こうして重力下で作成する方が、無重力空間で造るよりもより高い強度が得られるらしい。


 土の中級魔法を使う魔術師は素材となる砂をひたすら作り、初級魔法しか使えない者がその素材の砂を、岩に変える。


 中級魔法でいきなり岩を作るよりも、分業した方が効率の良いやり方らしい。

 マナの濃厚な森の中で、精霊魔術師たちが必死で魔法を使い続けている。


「僕らもこの中で一緒に作業を?」

 コリンがそう言うと、メアリー先生が悪い笑顔を向ける。


「昨日のニアさんの魔法には、まだ余裕があるように感じました。お二人の力は、ここにいる魔術師のレベルを遥かに超えていますよね?」


「……」


「隠しても、わかりますよ」


 そう言って、メアリー先生はコリンの腕を引いてその場を離れる。

 そして更に森の奥にあるプレハブ小屋のような建物に案内した。


 一辺が三十メートルを超える大きさで、高さは十メートル以上ありそうだ。

「ここが、お二人に使っていただく作業小屋になります」


 入口を入ったところに事務所兼休憩所のようなスペースがあり、そこを通って奥へ入ると、がらんとして何もない、ただマナの濃いだけの平らな場所があった。


 壁や天井はマナを通す天然の木材で造られていたが、床はかなり強度のありそうな金属製だった。


 この作業場所の床全体が可動式のリフトになっているのだろうと、コリンは推測する。


「この辺は、一段とマナが濃い場所ですね」

 コリンが言うと、ニアも頷く。


「さすがですね、わかりますか?」

「当然!」

 ニアが胸を張る。


 二人には、森の放つマナの輝きが見えている。

 だが実際のところ、二人が魔法を使うために、そのマナは全く必要としていない。


「私も教会では上位の魔術師と言われていますが、本当に優れた魔術師は教会の枠に収まらず、そこから飛び出してしまいます。きっとお二人も、そうなのでしょう?」


 コリンは困った顔をして、メアリー先生を見る。


「このコロニーへは、魔法の修業をしに来たと言っていましたよね。でも君たちの実力では、ここで学ぶことなど何もないでしょう」


 いきなり、二人がここへ来た目的を全否定されてしまった。


「その代わり、ここでの仕事に協力していただければ、私の知り合いのいる場所を紹介します。そこでは、教会の枠をはみ出した大勢の魔術師が、更なる高みを目指して修業をしています」


「そんな場所があるのですか?」


「はい。私がその知り合いに、紹介状を書きます。そこは、魔術師以外は立ち入れない場所ですから」


「行く!」

「はい。ニアさんなら、きっと行けるでしょう」


「わかりました。その代わり、僕らがこれからやることは、絶対に口外しないと約束してください」


「わかりました。約束しましょう」


「で、この岩、幾つ必要なんですか?」



 一度に造ると重量でコロニーが傾きかねない量の岩なので、遠慮してそれからゆっくり数日かけて、コリンとニアは密かな岩造りを続けた。


 もしかすると、コロニーの管理者はその異常を検知していたかもしれない。


 岩は作る傍から外壁を貫通するエアロックへ運ばれ、宇宙空間へ排出される。

 そうでもしないと、置き場所もなくなってしまう。



 メアリーは、教会の魔術師と共に二人が協力すれば、上手くいけば三か月程度である程度収束の見込みが出るのではないかと期待していた。


 しかし、初日の午前中の三時間だけで作業場の広い建物一杯の岩が出来上がっていて、肝を冷やした。


 全力で二時間かけてどうにかそれを搬出したが、午後も同じく三時間でまた一杯になる。


 それから僅か十五日足らずで十分過ぎる目標量の半分に迫る岩が揃い、メアリーはほっとすると同時に、寒気を覚えた。


 毎日岩を造る多くの精霊魔術師たちは、疲労で青息吐息である。


 しかし二人は元気一杯で毎日宿へ帰ると昼の区画へ移動して観光をしたり、夜の区画で花火を見たりと、連日連夜、遊び回っている。


 朝は苦手のようだが、昼の搬出時間に昼寝をしているようで、疲れた様子も見せない。


 幾ら精鋭の魔術師のいる場所とはいえ、こんな化け物を送り込んでいいのだろうか?


 一旬(十日)が経過した今では逆に、後悔の方が大きい。


「関わるんじゃなかった……」

 そう思っているのはジュリオではなく、メアリーの方だった。だが、この秘密は墓場まで持って行くしかない。


(あの子たちが使えるのが本当に中級土魔法までならば、まだいい。だけど万が一、上級魔法が使えるのなら……。うっかり私が秘密を明かし、報復にやって来たらどうしよう。あの子たちが造った多くの岩を消されたら、ここは破滅だわ……)


 メアリーは身震いをする。


 無邪気なニアの笑顔が頭の中に浮かぶ。

 だがその無垢な瞳には、恐ろしい破滅の炎が揺れているような気がする。


(いや、気のせいだ。ニアもコリンも、素直ないい子だった……)

 メアリーは頭を振り、不吉な想像を追い払った。


「うん、大丈夫。きっと、そんなことにはならない」


 一人で勝手に壮大な破滅フラグを立てて、怯えるメアリーであった。



 


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