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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
54/123

教会

 

「ニア、ダメだぞ。中央シャフトまで届かせようとかアホなことは考えるなよ!」


「くっ、十五メートルで我慢するから……」

 ニアが潤んだ瞳でコリンを見上げる。


「絶対だぞ、それ以上高いのはダメ!」

「わかってるって!」


「ハイ、どなたか他にも挑戦される方は?」

「はーい」


「ではそこのお嬢さん、やってみましょう!」


 意気揚々と前へ出るニアの後ろ姿を、残る四人が不安そうに見守る。


「はっ」

 ニアは片手を前に出して、先程の老紳士の真似をして声を上げた。


 見る見るうちに、先生の見本そっくりの柱が揺れもせず立ち上がる。


 そしてその柱が十五メートルでぴたりと静止すると、その横に二本目、三本目、四本目、と続けてにょきにょきと柱が立ち始めた。


 慌ててコリンが介入して新しい柱の成長を抑え、古い柱を続いて倒してしまった。


「あれ、失敗!」

 振り向いて舌を出すニアを、コリンが睨む。


 しかし、その場は凍り付いたように静まっていた。


 観光客と先生と生徒と教会の関係者が合わせて、五十人以上が中庭にはいたのだが、誰一人として声を上げない。


「いやぁ、失敗失敗」

 そう言って頭を掻きながら戻るニアの頭に、コリンが拳骨を落とした。


「うっ」

「だって十五メートルで止めたじゃない……」

 涙目のニアが、抗議する。


「あんたね、捕まって実験動物にでもされたいの!」

 シルビアの小さな一言に、ニアは真っ蒼になり震え上がる。


「これは、誰か他の先生のイタズラですか?」

 咄嗟に、コリンが言ってみた。


「え、これってサプライズなの?」

「なんだ、そうか!」

「やってくれるねぇ」


 観光客から笑いが起きると、周囲が和やかな雰囲気に包まれた。


「ヤバかった……」

 ケンがニアの後頭部を指で突いている。


「これ以上は勘弁だぜ……」

 ジュリオも、やっと声を出せた。


 その後何事もなく中庭の見学は終わり、教会の大食堂で昼食を食べていると、五人のいるテーブルに先程のメアリー先生がやって来た。


「ヤバい!」

 そう言って真っ先に下を向いたのはニアだ。


 反対に、美女の接近にジュリオの目が輝く。


 近くで見るメアリー先生は背が高くスタイルも良くて、さすがに教会のトップクラスの魔術師だけあって貫禄が違う。


「先ほどは、どうもありがとうございました」

 美女の前でも臆することなく、というより積極的に、ジュリオが先に挨拶をした。


「こちらの四人は、あなたの教え子ですか?」

 先生は、黒い魅惑的な瞳を輝かせてジュリオを見る。


 ジュリオのことを、高名な魔術師なのだろうと完全に勘違いをしているようだ。


「いや、魔術師はこっちの二人だけなんですが……」

 さすがにやや気後れして、ジュリオはコリンとニアを指す。


「まあ。じゃあ、二人とも優秀な魔術師なんですね」


「こいつらが、どうしてもここで修行をしたいと言うもんで、今朝ここに着いたばかりなんですよ」

 上手い具合に話が進んで、ジュリオはほっとする。


「それなら、いい師匠を紹介できますよ?」

「本当ですか?」


「ええ、あなたの腕なら、胸を張って紹介できるわ」

「あの、僕も一緒にいいですか?」


「あなたも、この子と同じくらいの魔法が使えるの?」

「コリンはね、わたしよりスゴイの!」


「あら、そうなの。それは楽しみね」

「ありがとうございます!」


「でも、一つ私の頼みを聞いてほしいのだけど……」

「はい。僕らにできることなら、何でも言ってください」


「あなたたち、今夜の宿は決まっているの?」

「えっと、カイエン村のエルザの宿というところですが」


「あら、ここから近いですね。では、今夜夕食が終わるころにお邪魔していいかしら?」

「はい、お待ちしています」


「ではまた、今夜お会いしましょう」

「はい、よろしくお願いします!」


 メアリーは五人とIDの交換をして食堂から出て行った。

 ジュリオは時計を確認する。

 よく考えれば、ものすごく上手く事が進み過ぎていて、かえって気味が悪い。


 まだコロニーに到着して、三時間しか経っていないのだ。



 昼食が終わると教会を出て、ツアーバスは森へ向かう。


 ツアーのルートは、エレベーターの降りたツーリストインフォメーションからシャフトに沿って一直線に移動している。


 回転軸方向からずれると時刻帯が変化し、一日に何度でも昼と夜を行ったり来たりできる。


 コロニーに到着したばかりの旅行者には刺激が強すぎるので、このツアーではこういう移動になっている。


 それでも、軸方向の長さは20キロしかない。

 のんびり進んでも十分な距離だ。


 森の中は美しい森林公園で、鳥や小動物の観察舎が点在している。

 小屋の案内人は魔術師で、魔法で小鳥やリスなどを集めては、観光客に餌を売っている。


「ニア、分かっていると思うけど、余計なことをするなよ」

「例えば生物魔法とかな」

 ケンとジュリオがしっかりとニアに釘を刺す。


「大丈夫だって」

「やっぱりニアはコリンに任せて、私たち一般人は別行動にすればよかったなぁ」

 シルビアは深く息を吐く。


「シルは、本気で自分のこと一般人だと思ってるの?」

 ニアが思わぬ反撃をする。


「そうだよ。シルもこんなところでシステムに侵入とか、勘弁してよ!」

「ぐっ、コリンまでそんなことを言うの?」

 ジュリオは黙って下を向いている。


「そうだ。シルはいつ凶悪テロリストとして指名手配されてもおかしくないし……」

 ケンの呟きが聞こえ、その脇腹にシルビアの肘がめり込んだ。


「ゔっ、お前な……」

「その時は、あんたも一緒だと思うんだけど?」


「こら、……その辺にしておけよ、ガキども!」

 遂にジュリオも黙っていられなくなった。


「はいはい」

「やべぇっ、テロリストの用心棒が怒ってるよ……」

「バカ野郎、俺はこの中で唯一の常識人だぞ!」


 せっかくの自然公園なのだが、五人は全く興味がないようだった。




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