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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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スペースコロニー

 

 小惑星型スペースコロニー『テカポ』の名は、オールドアースにあった湖の名から取られている。


 このレストラン船の名『オンタリオ』も、同じくオールドアースの湖の名前だ。


 アイオスの説明に、ひょっとしたら相性はいいのかもしれない、とコリンは思う。

『テカポ』は、星系の恒星に近い周回軌道にある歴史の古いコロニーだ。


 元々星系で唯一人類が居住可能であった惑星は、恒星から遠い位置にある資源の少ない冷たい星だった。


 そこで、より恒星に近い小惑星帯の内側にコロニーを築き、そこを基地ベースとして、小惑星帯を開拓する計画に着手した。それがおよそ千八百年前のことだ。


 つまり、計画当初の『テカポ』は、豊富な太陽エネルギーと小惑星の資源を利用するための、工業都市として開発された。


 ところが移住初期に星系唯一の居住可能惑星が隕石の衝突事故で自転軸が傾き、気候変動により冷たい氷の惑星と化してしまった。


 テラフォーミングは非常にデリケートな技術で、移住後の事故により居住不能となり放棄された惑星は数知れない。


 居住者の多くは他の星系へ脱出したが、同じ星系の新造コロニー『テカポ』へ移住した住民も多くいた。


 一時的に人口が急増したテカポだが、MT喪失以降は人口が減り、植物が繁茂して荒れた大地に残された住民は精霊魔術師を中心として、復興に尽力した。


 その後精霊教会から派生した自由魔術師連盟が誕生し、教会に囚われずに暮らす魔術師が増加して、精霊魔術師の天国と呼ばれていた。


 今では教会の育成機関も置かれて、一般人と共に多くの精霊魔術師が平和に暮らしている。


『テカポ』は広大な緑地を持つ庭園都市から変貌し、自然の恵みを得る農地を徐々に増やして、今では田園都市と呼ばれるまでになった。


 緑の多いこの巨大なコロニーの人口は、多くない。

 大半の土地が田畑や森林で、美しい水と緑の環境を楽しむ一大観光地となっている。


 外から訪れる観光客は多いが、全てコロニー内の自然公園が目的地だ。


 付随する転移ステーションは小規模で、コロニー目当ての観光客が通過するだけの簡素な造りだった。



「だからここでは、最初から酒場の営業をするつもりはないんだ」

「はー、長い長い言い訳だったわね、コリン」

 シルビアが両肩を上げる。


「そもそも、コリンとニアがいなけりゃ営業できねぇだろが」

「あ、別に三人で店をやってくれてもいいよ」


「コリン、余計なことは言うな」

「そうだよ、オレたちジュリオの料理をずっと食べる羽目になるぞ」

「うわっ」


「とにかく、五人で行くぞ」

「「「「わかった!」」」」



 転移ゲートを出て一度ステーションに接舷するか、そのままコロニーへ入るかで少々揉めていたのだが、結局船は直接コロニーへ入ることになった。


 コロニーは巨大だ。

 しかも、その表面は凹凸のある岩で覆われている。


 回転する岩のシリンダーは、直径10キロ、長さ20キロある。

 大地となるシリンダー内側の面積は、東京23区の面積とほぼ同じ。

 このコロニーは、近隣の小惑星帯から素材を集めて作られている。



 立体パズルのように小惑星帯の岩石を組み合わせて作られた巨大障壁が、コロニーを恒星の宇宙線から守っている。


 障壁の周囲には反射鏡とソーラーパネルが広く展開されて、電力と光を効率的にコロニーへ送っていた。


 障壁から離れたコロニー本体の、数多くの反射鏡に囲まれた太い回転軸の先端に、港湾の入口があった。


 船が近付くに連れ、その大きさが実感できる。


「ものすごい速度で回転しているんだね!」

 コリンは興奮する。


「ああ、すごいもんだな」

 ジュリオも始めて見るコロニーの自転に驚きを隠せない。コロニーの回転は約三分弱で一回転と、意外と速いのだ。


「重力制御を使わないこの手のコロニーは、今じゃほとんど残っていないはずだぞ」

「そうなんだ」


「ああ。あっても一桁の数字だろうな」

「そんなに珍しいの?」


「それに、ここは特別だ」

「どこが?」


「ステーションやコロニーの一番の問題は何だかわかるか?」

「資源とエネルギー、それともマナの供給かな?」


「いや、それもあるが、砂漠で暮らしたお前らなら、苦労がわかるだろ」

「熱?」


「そう、排熱だ。これだけ太陽に近けりゃ、あっという間にコロニーはオーブンのようにこんがり焼けちまうんだ」


「だからあの岩で組んだ遮蔽壁があるんでしょ?」


「それだけじゃ足りないんだ。普通は巨大な放熱板を宇宙空間へ広げる必要がある」

「でも、そんなの今まで見なかったよ」


「ああ、それが転移ゲートの隠れた能力らしい」

「排熱が?」


「そうだ。あの巨大な転移ゲートにより、どこか別の空間へ熱を逃がしていることがわかっている」

「まさか」


「今まで行った惑星が、みんな恒星から離れた星だったのを不思議に思わなかったか?」

「そうかな。でもエランドは熱いよ」


「だから、あそこは例外中の例外なんだ」

「そうだったの?」


「人類が移住して惑星上に転移ゲートのネットワークを構築すると、地上の平均気温が何度か上昇するらしい」


「そんな話は聞いたことがないよ」


「そう、確証はない。だが、ハロルドはそう言っていた」

「ハロルドは環境保護の鬼だったからね」


「ああ。それで、エランドの気温も昔と比べて上昇しているらしい」

「まさか」


「さあな。でもそれが理由で、人類が移住する惑星は多少寒冷な惑星が選ばれていたらしい」

「でも、どうしてなの?」


「ああ、つまり宇宙空間では排熱を担っている転移ゲートだが、地上ではどうも周辺の環境中に余計な熱を放出しているらしいんだな」


「それが本当なら、銀河の惑星中で大騒ぎになると思うけど……」


「だからそれを隠しておきたい連中がいて、ハロルドが戦っていたんじゃないのか?」

「そういうことだったの?」


「さあな。ハロルドは、それ以上俺には詳しい話をしなかったから……ま、老人の妄言だった可能性も高い。だが恒星間転移ゲートの放熱問題は、実際に知られていることだ」



 


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