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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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惑星観光

 

 閉店後充分に眠った五人は簡単な食事の後、ステーションへ転移した。


 地上は寒冷な気候だと聞いているので、それなりの靴を履き、鞄の中には着替えも用意してはいる。


「えっと、今の時間だと丁度潮の流れが速いあの島で遊覧船に乗るのが一番かな。その前に、旅支度をここでしておこう」


 ケンの言うままに、ゲート近くの売店で防寒具や雨具、それとビーチ用のサンダルなど、行楽に必要な物を揃えた。


 一行は地表へ転移し、多くの島の間を流れる潮流がジェットコースターのように船を揺らす観光船に乗り込んだ。


 潮の香りと、塩味の強い水しぶきに圧倒される。


 座席のあるオープンデッキには、容赦なく荒波が散る。それを雨具で凌ぎ、揺れる小船は木の葉のように揺れて流され、迫力満点の船旅に興奮した。


「ね、雨具も上で買った方がずいぶん安いでしょ」

「そうか、下へ降りると全て観光地価格で高くなるのか」


「……でも、食べ物はこっちの方が安くて美味い……」

 船を降りるなり屋台に駆け寄り、イカ焼きにかぶりついているニアが、もごもごと言う。


「なるほど。うちのメニューは安すぎたかな?」


 屋台の値段を見て、コリンが目を丸くする。ニアが言うほど安くないのだ。

 確かに、軌道ステーションで食べた海産物は高かった。


「そうかもね」

「でも、今更値上げできないよー」

「だから大人気なのかなぁ」


「いいんだよ。そこはシェフの腕だって胸を張っとけば」

 そう言って、ジュリオはポンとコリンの肩を叩く。



 次に一行は、近くの水族館に入った。


 水槽に展示されている海の生き物だけでなく、海へ突き出た透明なチューブの中から、海中を直接見ることができた。


「スゴイ、海の中、お魚一杯!」

「こら、ニア。ダメだって!」


 涎を垂らしたニアが、今にも飛び掛かって行きそうである。コリンはその腕を掴んで、一生懸命に制止する。


 その姿はしっかり館内のカメラが捉えていて、出口で販売する記念ビデオコーナーを見たニアが顔を赤くして、高価な3Dビデオを買い取った。


「すぐにデータを消去して、絶対にもう他人には見せないでよね!」

 必死で念を押していた。


 よく考えれば、ヒドイ商売である。


 魚よりもニアのその姿を皆で楽しんだ後、食事のために別の島へ転移した。


 ケンが予約したレストランは高い崖の上にあり、丁度夕焼けが空を染めていた。


 夕陽が水平線へゆっくりと落ちるのを眺めながら早めの昼食を食べるという、シュールな体験だった。



「次は潜水艦に乗って海中の旅でございまーす」

 ケンのガイドにより、再びゲートをくぐる。


 海は熱帯のサンゴ礁とはいかず、北海の冷たい海だが、天気が良く透明度の高い海中は非常に美しい。


 乗り込んだのは細長いフライパンに似た形の船で、客席はそのフライパンの下にぶら下がるようにぐるりと並ぶ、金魚鉢のような透明ドームの中だ。


 客席の椅子に座ると床が抜け、透明ドームの中に椅子が吊り上がる。いよいよ、海中の遊覧が始まる。


 海中は、巨大な昆布をはじめとした、海の森だった。


「この海の森が生み出すマナを使い、船の透明ドームに強化結界が張られているんだ」

 ケンが得意げに解説する。


 確かに、ニアとコリンにはマナの発する仄かな光を感じることができた。


「(すごいね、ニア。海の中にも精霊の森があるんだ)」

「(うん。これなら船の中にテラリウムがいらないんだねぇ……)」


 日差しの降り注ぐ海の中では、魚の群れを追ってアザラシが縦横無尽に泳いでいる。

 海底には足の長いカニが闊歩し、大きな貝やエビがゴロゴロといる。何という豊かな海だろう。


 だがコリンはニアがまた暴れないように、その手を必死で掴んでいた。



「次は一番温かいビーチで泳ぐぞ」

 続いて一番リゾート感のあるビーチへ行く。


 熱帯の島のような強い日差しがない分、ビーチでは過ごしやすい。

 しかし泳ぐのには、海の水が冷たすぎた。


 マリンスポーツをする人々は専用のスーツを着ていて、ビーチを散策する人は水着を着ていない。


 それでも日光浴をしながらトロピカルフルーツのジュースなどを飲めば南国気分の一端は味わえる。


「まあ、泳ぎたいなら温水プールへ行こうか」

 初めてケンの思惑が少し外れたビーチだったが、そもそも砂漠の住民だったので、泳ぐという習慣がない。


 ビーチの砂は珍しくもないが、ただ波が寄せては返す浜辺が目新しく、水際へ行って海水に手を触れるだけで脳が沸騰し、興奮状態に陥る。


「ああ、面白い。ビーチっていつまでも飽きずに眺めていられるわね」

 シルビアは浜辺を走り回り疲れた後でビーチベッドに横になり、飽くことなく波の打ち寄せる浜辺を見ていた。


 それだけで、五人は十分に楽しめたのだった。



「おい、何か沖の方が騒がしくないか?」

 浜辺で飲んだトロピカルなカクテルに酔って、だらんとしていたジュリオが一番に気付いた。


 そうして海を眺めていると、空の一点に現れた小さな点が次第に大きくなる。


「何かこっちに来るぞ!」


 確かに沖の空からビーチに向かって、何かが高速で接近している。


「アイオス、何かわかる?」

 周囲には他に人がいないので、咄嗟にコリンが音声で呼びかけた。


「コースの下見をしていたレース艇が、制御を失いそちらへ落下している模様です」


 アイオスも音声で答えたので、仲間もそれを聞いて立ち上がる。


「命知らずの連中は困るよなぁ」

「どこか他の惑星ほしでやってくれないかしらね」

「いや、どっちかというと余所者はオレ達の方だと思うけど……」


「ああ、こりゃ盛大に燃えてるな」

「いや、むしろ、あの速度で燃え尽きないってのは、さすがにレース艇だよね」

「感心してる場合じゃないわよ、こっちに来るって!」


 確かに、炎の塊はどんどん大きくなり細部も見えるようになっている。


「コリン、何とかならないの?」


 コリンは周囲に誰も人が見ていないのを確認して、魔法を放った。




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