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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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ハブの隣

 

 地球の太陽系を中心とした人類圏の中で、船の出入りが多く人流物流の拠点となる星域が幾つかある。


 その中心には基幹となる転移ゲートがあり、そこをハブとして周辺の宙域をカバーしている。


 ハブとなる星系の中心を担う惑星は非常に賑わうが、同じ恒星系内でもやや主星から離れた軌道を周回する地味な惑星であれば、それほど目立たずに接近し、寄港できそうだった。


 大都市から比較的近いが、ベッドタウンと呼ぶにはやや遠い。しかし里山や豊かな自然に恵まれた住みやすい田舎町、という感じのポジションだろうか。


 そのような場所を幾つか選び、その一つを最初に使用する転移ゲートに決めた。


 星系のはるか遠くから小さなフリージャンプを繰り返して接近し、最後にターゲット惑星の外側に広がる小惑星帯近くへジャンプした。


 そこから直接ターゲットへは向かわずに、通常航行で一度太陽を周回してから、ゆっくりと目的地へ向かう。


 その間に、数十日前に同じ星系にある違う惑星に転移したという偽データを流しておき、アリバイ作りを行った。


 用事を終えて別の星系へと移動するような形で、ターゲットの転移ゲートに接近。そこから別の星系へと、初めてゲートを利用した転移を試みた。



 無事に初めての転移ゲートの利用を終え、似たような田舎惑星の転移ステーションへ船は到着した。


 ここへ少しの間腰を落ち着けて、慣れない宇宙の酒場を営業しながらじっくりこの後の行動を考えよう。


 それが五人の計画だった。



 辿り着いたのは、銀河の中心方向へ寄ったサギタリウス腕に近い、IL―08星系の第四惑星『アルマ』。


 第二惑星『イズミ』がこの宙域のハブになる中心惑星で、そこの太陽から離れた第四惑星は、テラフォーミングされた冷たい水の星だ。


 南北両極に大きな氷の大陸があり、それ以外は小さな群島が点在するのみ。


 しかし群島のある地域には浅瀬が続いて、多くの海生生物の楽園となっている。


 この群島の豊かな自然と海産物が惑星最大の資源で、それを目当てにした観光客で賑わっていた。



 エランドも内戦などせずに観光地化されていれば、或いはこんな風になっていたのではないだろうか。


 軌道ステーションにも海産物を扱う大きな市場があって、それを目当てに多くの観光船が、第二惑星からツアーを組んでやって来る。


 そこでコリンは、肉類の料理を中心にしたメニューで、酒場を始めた。

 幾ら海鮮料理が名物の星といえども、そればかりでは飽きる。


 特にこの軌道ステーションに暮らす人にはがっつりと肉を食いたいと思うことも多いだろう。


 観光客ではなく、地元の労働者を相手に商売をするのが『カラバ侯爵の城』のやり方だった。


 人気メニューの中から、コリンは魚料理を除外する。


 残った一番手は店の看板メニュー、〈鍋の底〉と名付けたビーフシチューで、野菜と肉をよく煮込んだ濃厚なシチューに、ガーリックトーストが添えられる。


 軽食では各種パスタ類とピザ、ラザニアやグラタン、ドリア、ラーメンと焼きそばも用意する。


 麺類は他にも、牛肉麺、フォー、ビーフンなどいろいろできる。


 豚肉や牛肉、ソーセージなどを遠火で焼いた串焼き、シュラスコも店の名物だ。

 シェフが自ら客席に出て焼けた肉の塊をナイフで切り分けるのが人気だったが、コリンはできれば客席に出たくない。


 そこでジュリオの出番だった。砂漠にいたころもジュリオが大仰な手つきで肉を切り分けるのが好評で、コリンは大いに助かった。


 女性に人気なのはスープパスタで、サラダやチーズフォンデュなども好まれた。特にトマトとアボカドのサラダは、定番の一番人気だった。


 生ハムを使ったピンチョスやタパスは男女問わずに人気だが、小皿料理ならトマトのブルスケッタが一番か。


 タコスやブリトーは定番中の定番だし、コリンの気が向けばケバブを焼いたりもする。


 スモークサーモンやアンチョビ、フィッシュアンドチップスをメニューから外しても、ローストビーフやバンバンジーに、フライドチキンが残る。



 五人はステーションで営業を始める前に市場を見て、それから観光客向けのレストランで様々な魚介料理を試食した。


「確かに新鮮で種類も豊富で美味いんだけどよ、何か物足りないんだよな……」

 ジュリオは首をひねる。


「だから、ヴォルトの素材はもっとすごいってことだよ!」

 コリンが胸を張る。


「違うよ、コリン。これはシェフの腕の差だね」

 ニアがコリンの腕をとる。


「そうだな。うちのシェフは超一流だからな」


「まったく、私たちの舌は完全にコリンにやられちゃってるのね。よくわかったわ」


「でも、うちで魚料理を出すと嫌味になるから、予定通り肉中心のメニューで行くよ」


「でもさ、市場で買った海の幸をコリンに調理してもらって、私たちだけで食べようよ。珍しい素材や美味しい加工品があれば、大量にゲットしてヴォルトで保管だぞ!」


 シルビアは抜け目がないのだ。


 そんなこんなで『カラバ侯爵の城』は無事に軌道ステーションでの営業を開始する。

 ステーション内にある汎用ゲートから目的の店を選択すれば、登録されている店へ簡単に行けるようなサービスになっている。


 港に停泊している『カラバ侯爵の城』の入口にあるゲートへ、次々と客が転移して来た。


「さあ、今日は忙しくなりそうだぞ」

 ニアは久しぶりの営業に心弾ませている。


 今回は、一階と二階だけを客席にしている。

『オンタリオ』船内には乗組員用の居住空間が確保されていて、三階の個室も客席として利用可能なのだが、何せ人手が足りない。


 厨房をコリンとジュリオで回し、1階と2階の客席をニア、ケン、シルで回すので精一杯だった。


 血の滴るようなビーフステーキや鶏肉を串に刺して焼いたサテなどの料理が飛ぶように売れていた。


 店のおすすめ、エールは相変わらず大人気だが、樽から注ぐ赤ワインも売れに売れている。


 あとはチーズとソーセージが好評だった。


「こいつら、もっと野菜を食えよ!」

 ニアは肉料理の皿ばかり運んでいるうちに、涎が出そうになっている。


「最後の仕上げにチーズチリバーガーだと?」

 コリンの作ったメニューを見て酔客が喜ぶ。

「もう最高じゃねーか!」


「いいから黙ってポテトも食べろ!」

 ニアのイライラが募る。


 ステーションには、朝も夜もない。


 一応惑星の標準時間に合わせているが静止軌道上にあるわけでもなく、ゲートを発着する船は24時間引きも切らない。


 ちなみに現在人類が入植している惑星は、魔導師によりゲート設置以前に手が入れられていたようで、ほぼ人類の母星である地球の環境に合わせて調整されている。


 自転と公転の周期は24時間、360日近辺に揃えられているのだった。

 逆に言えば、それができなかった惑星にはゲートが設置されなかった、ということになる。


 不夜城に付き合っていては体がもたないので、営業時間は短めに一日6時間だけとしている。料理の仕込み時間がたっぷりかかるので、ある程度仕方がないのだ。


「開店から6時間も飲めば十分でしょ。さ、今日はもう閉店だよ!」

 シルビアに尻を蹴とばされるようにして最後の客が帰ると、五人はへとへとだった。


「あー、久々なんで疲れたー」

 ケンが椅子に腰を下ろして天井を仰ぐ。


「片付けが終わったらシャワーを浴びてきて。僕らも飯にするよ!」

 コリンの掛け声にもう一度肉体のスイッチを入れて重たい体を動かした。



「で、こりゃ何だ?」

「うん、ホヤっていう海の生き物だよ」


「ほう、で、こっちの虫みたいなのは?」

「それはシャコ。エビの仲間を茹でただけ」


「こっちの黄色いのは?」

「それはウニだよ。生のままスプーンですくって醬油をかけると美味い」


「で、どれをどうやって食べればいいんだ?」

「夫々小皿に用意した専用のたれにつけて食べてみて。ジュリオは冷たいおサケに合わせるといいよ」


「うん、こりゃ独特の旨味があるな」

「おお、この酒との相性が……」


「次はこれ」

「長い魚だな」

「アナゴのてんぷら」


 ジュリオの飲み物は、ここから白ワインに変わる。

「スープはアクアパッツアとオマール海老のビスク」

「続いてイセエビのグラタン」


「オヒョウのフライにタルタルソースをたっぷり乗せたフィッシュバーガー」

 これだけ食べてもまだ足りない。


 飲み物は、いつものエールになり、ケンとシルビアもノンアルビールを飲み始める。

「殻付きホタテ貝のバター焼き」


「そしてこれがイカの一夜干しのオリーブ和え」

「次は定番ムール貝の白ワイン蒸し」


「そして最後はお待ちかねの、パエリヤだ!」

 魚介尽くしの食事の後、爆睡した。



 


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