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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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接続

 

 ケンとシルビアの本命の計画であるプランAは、彼らの使うブレスレットを利用したものだった。


 ブレスレットによる通信は、アイオスからのマナ供給により船内では特別なエネルギーチャージなしで連続して稼働する。


 それは遮蔽物に関係なく、船から三百m程度までの距離なら維持できた。


 そこで、その端末を三百m毎に並べてチェーンのようにマナ供給と通信のラインを伸ばす。最後の先端は、マイクロ転移ゲート装置に接続した。


 これで、アイオスからのマナ供給と通信のラインがゲート装置にまで達した。

 そこまでは、可能性の高い策だ。


 だがその先のプランが、トンデモナイものだった。


 軌道ステーションの通信用ゲートはマイクロゲートと呼ばれているが、安全率を見て直径1インチほどのパイプ状の穴だ。


 完全稼働後にはケーブルを固定した中央の数ミリ程度まで収束されるが、機能としては通常の転移ゲートと同じで、ケーブルを通す穴を通る物なら何でも転送が可能だ。


 そこで、任意の宇宙空間に向けてゲートをこじ開けて、穴にブレスレット押し込んで送ってしまう。押し込んだブレスレットには、三mのケーブルでもう一つ同じブレスレットが繋がれている。


 有線接続ケーブルは、この三mの長さまでしか船にはない。


 ゲートが開いた先が人類の生存圏内であれば、送り込まれたブレスレットが電波を受信し既存のネットとの接続を確立し、ケーブルを経由してこちら側へデータを転送する。


 どこかに転送されたブレスレットが接続を維持したまま、マナの供給により連続稼働する環境が構築できるはずだ。理論上は。


 だが、本来ゲートの転移先にはゲート装置が無ければならない。

 しかし、その相手先のゲートは利用が不可能だ。


 それならば、コリンが覚えたての空間魔法で強引にどこかの空間と繋げてしまえ、というのが今回の乱暴なプランAだった。


 そこでコリンは、転移ゲートに使われているデバイスについて、アイオスと色々確認作業を行う。


 転移ゲート装置は単にマナを加えるだけで勝手に起動し転移魔法を発動するのではなく、あくまでも魔法使いの使う転移魔法を補助する役目を担うらしい。


 ゲート装置の役割は、起動した転移魔法を安定したマナ供給により維持することと、転移先の確実な座標設定にあるという。


 これを全て魔法使い任せで実行するのはリスクが高く、高度な技術が必要となるらしい。


 だが逆に言えば、送り元のゲートが稼働してマナの安定化に大きく寄与すれば、残る転移先の座標設定を魔法使いが肩代りしても、原理的には転移が可能になる。


 問題は、千五百年間死んでいたこのステーションのマイクロゲート装置が稼働可能なのか、ということだ。


 加えて、あとはトリガーとなるコリンの転移魔法の発動と座標設定次第、ということになる。


 結局は動作するのか不明な機械とコリンの魔法能力に丸投げの、一か八かの策だった。

 ケンとシルビアの準備は終わり、残るはその不確定要素のみとなる。


 ダメで元々と、アイオスがブレスレット経由で転移ゲートへマナを送り、ゲートをスタンバイ状態にすることに成功した。


 後はコリンが転移魔法を使い、転移先を設定する。

 場所はコリンがイメージ可能な場所に決めた。


 コリンが地上から夜空を眺めては探していた、エランドの軌道ステーションの位置情報を強くイメージすることにより、シミュレーターで訓練中の転移魔法の精度を少しでも上げようとしたのだった。


 と言っても、こちら側のゲートがマナの供給により動けば、コリンはその転移先の座標指定だけを補足して魔法を発動すればよいことになる。あとは、ゲート装置が転移先との接続を維持してくれるのだ。あくまでも、原理上は。


 そんなアホなことができるわけねーだろ、とジュリオに一喝された偉業を、三人は簡単に達成してしまった。


「これって、エランドのステーション経由でネットに繋がってるんだよな。だけどここからあそこまでっつったら、人類の居住圏の反対側の端っこだぞ。約5千光年の彼方にある星だ。いいか、光の速度で五千年かかる距離だぞ!」


 ジュリオはまだ半信半疑だった。


「諦めて。これが本物のMTなんでしょ。だって、魔法が軽々と時空を超えるのは、恒星船に乗ってたジュリオが一番よく知ってるじゃない」


 ニアが、ジュリオの頭を優しく撫でる。


 結局、ゲートの両側の二本を合わせて十六本ものブレスレットを三百mおきに並べて固定し、その末端から三百m以内の空間に船を移動させて接続を確保した。


「本来与圧されたステーション内部同士を接続するゲートだろ。こちら側の空気が抜けているから宇宙空間に直接繋げたのか?」


「そうかな。でも砂漠の町を結んでいたゲートだって、気圧の差を感じなかったでしょ」


「ああ、確かにそうだな」


「あの転移ゲートのシステムとか起動する魔法そのものが、転移する瞬間にそういうことを全て調整してるんじゃないかな。単なる穴じゃないからね」


「確かに転移時に気圧の変化で耳がキーンとなってもおかしくないが、そんな話は聞いたことがないな。でもよ、地上と宇宙を直接ゲートで結ぶような真似はさすがにできないだろ」


「魔法にはそういう術者を守る安全機能があるような気がするけど……それは術者の意志や願いみたいなものに関係しているかなって思うよ」


「ああもう、MTって奴は訳が分からん」

「ジュリオ、考え過ぎると禿げるよ」


「やめろ、最近気にしてるんだ……まぁ、でも、これで当分の間はここから一歩も動けないってことか……」

 ジュリオは複雑な表情で呟く。


「ただいまぁー」

 ケンの声が端末に響き、ランチの帰還を告げた。


「またうるさくなるな、こりゃ」

「意地を張らないで、ちゃんと褒めてあげなよ」


 子供をあやすように自分の頭を撫でるニアにハイハイ、と答え更に頭を垂れるジュリオだった。


「しかし、意外だな」

 ジュリオが顔を上げてニアを見つめる。


「ニア。お前、案外しっかりと考えてるんだな」


 ニアが、面白そうに顔を歪めた。


「もしかして、わたしのこと、いつも腹減ったって言いながらコリンを追い回しているだけの猫娘だと思ってた?」


「あ、いいや、そ、そういう意味じゃなくてな……」

 ジュリオは激しく動揺して、後悔する。


「よくわかったよ。ジュリオがわたしをどう見ているかがさ!」

「お、おい、誤解だ。それは違うぞ!」

 だがもう遅かった。


「わーん、コリーン、お腹が空いたよぅ。だって、ジュリオが何も食べさせてくれないんだもん、ひどいでしょ!」


 ニアが端末に向かって叫ぶと、ブリッジを飛び出してランチの接舷したエアロックの方へと走って行く。


「やめろニア、こらっ、人聞きの悪い!」


 ジュリオが必死でその後を追う。




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