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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第二章 緑の魔境
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宇宙船について

 

「結局、僕が最初にアイオスを起動した時にサンドワームの姿を天の枷に見られてしまったことが原因で、ジュリオたちが危険な目に会った」


「うん、その後は砂漠に隠れて上手く動いていたんだけどね」


「確かに、船籍の問題を上手く誤魔化せたとしても、船自体がこれじゃ、目立つよね」

「マナを発生させるテラリウムを持たない恒星船なんて、あり得ないからな」


「ジュリオ。そもそも、このサイズの恒星船なんて他にあるの?」

 シルビアの疑問は、盲点だった。


 一般的に恒星船といえば、巨大なサンドワームサイズの物を想像してしまう。


「ゲート組合や惑星政府、それに一部の金持ちが持つ自家用ヨットの類は、このくらいのサイズだな。中にはもっと小さい船もある。極端に言えば、テラリウムも転移ゲートも持たない小型恒星船だって、ないわけじゃない」


「転移ゲートさえ通過できる船なら、何でも恒星船になるということか」


「ああ、ただし惑星間の近距離移動程度ならいいが、恒星間の転移はコストがバカ高いから、普通はやらない。それに小型ゲートすら持たないと、乗り降りが面倒だ」


「ああ、大型船に積まれるランチのように、エアロックが必要になっちまうのか」


「そうだ、ケン。良く知ってるじゃないか。その場合は、大型船のドックに係留して転移するのが普通だな」


貨客船フェリーって奴か」


「ああ、そうだ。他にも、大抵の旅客船には貨物室と別に小型船を係留するドッキングセクションを持っている」


 長距離転移時には大型船に格納される前提で造られた小型船が、多数就航している。


「だがこの船は、転移ゲートで来客が直接店に移動する前提のレストラン船だ。テラリウムがなければ、ゲートは動作しない」


「でもこの船の場合、客室以外への第三者の立ち入りは、絶対に遠慮願いたいよね」

「そうだな。下手をすると大騒ぎになる」


「つまり、船内の見える場所へ偽装用のテラリウムを作り客室用のゲートを稼働させ、あとは自力航行で転移ゲートを通過すると……」


「これは偽装に時間がかかりそうだ」


「でも、早く一度ネットに繋がる場所まで行って、偽装を裏付ける情報を取らないと……」


「やっぱりシルは、そっちが心配か?」

 シルビアは、人類のネットワークから切り離された場所にいることに不安を感じているようだった。


 それ以上の細かい話は、専門家に任せた方がいいだろう、とコリンは考える。


「アイオス、そこから先はジュリオやシルビアとよく話し合ってくれないかな」

「承知しました」



 惑星エランドの砂漠に埋もれていた旅客船『スペリオル』の損壊はひどく、動力と生命維持システムを生かすことで精一杯だった。


 しかしこのレストラン船『オンタリオ』はほぼ無傷のまま宇宙空間を漂流していた。今では自己修復機能により完全に元の姿を取り戻している。


 それだけに、現代船のレベルから見ると異質すぎる。


 これから人類世界に戻るためには、目立たぬように改装することが絶対条件だ。

 それが、五人の出した結論だった。


 また悪目立ちをして誰かから追われる羽目になるのは、御免だ。

 そのための、事前調査が始まった。


『砂丘の底』時代から馴染んでいる地下のヴォルトや倉庫以外にも、レストラン船『オンタリオ』はその船内を隅々まで開放してくれた。


 ジュリオを先頭に機関室からコントロールルームや船員たちの船室まで含めてアイオスの解説付きで見て回った。


 ジュリオは初めて見る純MTエンジンのあまりにも簡素な外観に衝撃を受けていた。


「こんな小さなエンジンで動くのかよ……」

 だが、この小さなエンジンでもテラリウムのマナで動かそうとしたら、小型の惑星サイズの船体が必要になってしまう。


 全員で慎重に確認したのは、救命機器の取り扱い関連だった。


 ジュリオの想像通り、この船には脱出用の避難ポッドと、近距離移動用兼緊急避難船のランチが搭載されていた。


 二艇の大型ランチはレストランの客や乗組員全員を収容できる席数があり、他に小回りの利く小型のものが何艇か用意されている。


 その他の移動手段として、来客者用と人荷用、二基の転移ゲートが備わっている。


 船外活動用のスーツは四種類もあって、非魔導師用のノーマルスーツは現代のPS宇宙服とさほど変わらない。

 生命維持機能に特化していて、主に一般客の脱出用だった。


 一方、魔導師用のスーツは魔法による保護結界と生命維持装置により、心配になるほど薄く軽く作られていた。


 その中間にMTスーツがあって、丁度エランドのサンドスーツのような比較的活動しやすいタイプで、主に一般乗組員用のスーツだ。


 これとは別に船外用のパワードスーツが用意されている。

 これはコクピットが与圧可能な生身のままでも乗り込める仕様で、大型ランチにも一台積まれていた。


 ただし、宇宙服で乗り込めるのは魔導師用の薄いスーツだけだ。


 パワードスーツ自体はある程度の時間は充填したマナで動作し、船内の倉庫や貨物ドック内での作業なら、一般人でも使える。

 しかし安全性を考慮すれば、スーツを着た魔導師用の装備と考えられた。


 とりあえず、自分に合った宇宙服を着脱する訓練から始める。

 そこはアイオスの仕様書や説明書を熟読したジュリオが指導して、徹底的に行った。


 次はいよいよ船外活動だ。


 ジュリオ以外は、無重力すら経験したことがない。


 船内のトレーニングルームを使い室内の重力を少しずつ弱めて訓練した。

 やがて緊張の宇宙遊泳を経験して、次は脱出ポッドの扱いとランチの操縦訓練を行う。


 ランチ自体はアイオスの管理下にあり自動操縦なのだが、緊急時の手動操作法も覚えておくべきだと、ジュリオが強硬に主張した。


 手動操縦の訓練自体はトレーニングルームのシミュレーターで色々と可能なので、これも順調に消化した。


 地下のクローゼットには『スペリオル』と同様に多くの服が納められていて、どうやらこれは望みのデザインの服を揃えるヴォルトのような機能がありそうだった。


 それはアイオスの管理下にある船の共通仕様らしく、残念ながら『オンタリオ』の仕様書には掲載されていない。


 いずれにしても魔導師以外には使えない仕様だろうから、とりあえずある服から選ぶ以外の選択肢はなかった。


 それでも着る服を気にしているのはほぼシルビア一人だけなので、その他多くのやるべきことに比べると、優先順位は低い。


 コリンは厨房を自分好みにカスタマイズしてレストランの営業に向けて着々と準備を進めているし、ジュリオは船の動力系統を中心にアイオスを質問攻めにしている。


 ケンはヴォルトで生み出されるブレスレット端末以外にも携帯用の小火器や利用方法の不明な小型機器があるのを知り、これもアイオスから情報を引き出しながら夢中で解析中だ。


 シルヴィアも船の情報やアイオスのプログラム関連を調べ始めたが、より重要なのは現在の人類世界のネットへ繋がる場所へ行き、最新の情報を得ることだった。


 そしてその前に、自分たちの立場やセキュリティー面での保険を何重にもかけておきたい。


 ニアはトレーニングルームのシミュレーターに子供向けの初級魔法入門アプリがあるのを見つけて、それにのめり込んでいた。


 一か月にわたる基本的な確認事項と基礎知識の習得、そして訓練を終えた。


「コリン、もっと魔法をちゃんと教えてもらえる場所へ行きたい」

 最初に言い出したのは、ニアだった。


「え、それって教会だろ。あまり近付きたくないなぁ……」

 コリンは頭を抱える。


「その前に、船の転移試験を兼ねて、銀河ネットワークにアクセスできるギリギリの圏内に近付いておきたいんだけど」


 シルビアは今後の対応を考えると、そろそろ安全にネットワークから情報を引き出せるようにしておきたいと願った。

 それには、ジュリオもケンも賛成だった。


「じゃあ、ネットに接続したら、ニアの目標が叶いそうな場所を探してみよう」


 コリンもフリージャンプの試験は避けられないハードルだと知っている。そろそろ頃合いだろう。


「OK、アイオス。フリージャンプのテストプランを作ってくれ。当面の目標は、人類から探知されずにネットワークへアクセス可能なポイントへの安全な移動だ」


「承知しました」




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