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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第一章 砂漠の惑星
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互いの窮地

 

 ケンとシルビアも異常を察知して、こちらへ戻ろうとバギーを旋回させている。


 しかしそれよりも早く、盗賊団のクロウラーが、ジュリオの倒れている場所へ迫っている。


 このままでは、銃を持つ男たちに囲まれてしまう。

 コリンは射程の長い風魔法で砂を巻き上げ、迫るクロウラーの視界を塞いだ。


 咄嗟に、コリンが指輪でアイオスを呼ぶ。

「(アイオス、頼む、来てくれ!)」


 コリンの悲痛な声に、瞬時に反応があった。

「(はい、すぐに)」


 アイオスの答えと同時に、地鳴りと共に目の前へ砂丘が盛り上がり、その後に巨大なワームが砂の中から出現した。


 それは倒れているハロルドを弾き飛ばし、コリンのいる位置と追手の中間に現れて、巨大な砂の壁を作り立ちはだかった。


「(アイオス、ここまで来ていたんだ?)」

「(コリン様の危機に駆けつけるのは、当然のことです)」


「(ありがとう、アイオス)」

 コリンの震える思いに、アイオスが冷静に答えた。

「(どういたしまして)」


 戻って来て合流したケンとシルビアが、ジュリオの姿を見て取り乱した。


「出血はニアが止めたから、早く店に戻ろう。あそこに行けば、救急キットがある」

 やっと少し冷静になったコリンの声に励まされて、二人も気を取り直した。


 血まみれで意識のないジュリオを連れて、慌てて『カラバ侯爵の城』の中へ五人は逃げ込んだ。



 砂の上で起き上がり、ひとり砂の上で泣き崩れるエリック。

 だが、盗賊団の戦意は衰えない。


 武装バギーの群れが、怯むことなく巨大なサンドワームを取り囲む。


 コリンの風魔法が起こした砂塵が膨れ上がり、ワームの巨体を囲む。たまらず、バギーとクロウラーはワームから離れ、距離を取って取り囲んだ。



 店の一階の床に、ジュリオは横たわっている。ニアが魔法で出血だけは止めたが、依然として意識は戻らない。コリンは砂に流れたおびただしい量の赤い血を思い出して、暗い気持ちになる。


 コリンは救命キットを起動して、診断機をジュリオの首から胸へ取り付けた。


 パネルには様々な測定数値が流れ、失血によるショック状態、体温低下、血圧降下、血中酸素濃度低下、心拍数低下、自発呼吸微弱……とジュリオの危険な状態が次々と表示される。


 続いて、キットの指示に従いながら、医療用ナノマシンの注射をジュリオの二の腕に当てた。


 続いて左腕に輸液の準備。薬液のボトルから延びるチューブを腕に直接巻き付け固定する。


 チューブの先端が腕の血管を勝手に探り出して輸液が始まると、見る見るうちにジュリオの脈拍と呼吸が落ち着いて、正常値の範囲に近付く。


 その効果は、ニアの魔法よりも劇的だった。

「スゴイ、まるで魔法みたい」

 思わずシルビアが呟いて、ニアに睨まれる。


 その間にアイオスは現場を離脱して、砂漠の中へ走り始めた。

 これで逃げ切れると四人が思った刹那、頭上で爆発音がして、店が大きく揺れた。



 店の上部に着弾した小型ミサイルは三階の窓を破って、店全体が振動する。


 五人の逃げ込んだ一階まで、煙や細かい破片が立ち込める。


 アイオスを取り囲むバギーや兵器類は、モスの帯電対策がされていて、多少の砂嵐でも行動可能だった。


 無線通信は帯電によりかなり遮断されているが、シルビアが持つ戦闘員のヘッドセットからは、大声で怒鳴る指揮官の声が切れ切れに響いている。


 戦闘指揮官の緊迫した声が告げる。

「有線誘導ミサイルを使用し、各員が目視で風の渦の中心を狙え」


 続けて、指揮官は怒鳴る。


「おそらく、あの建物でワームをコントロールしている。中へ乗り込んで占拠するので、全部壊すなよ。三分間の陽動の後、各自ワイヤーを固定して侵入する。タイミングは指示するので、それまでは攻撃に集中しろ。以上!」


 指揮官は同じ命令を繰り返し、それから激しい攻撃が続いた。


 天の枷が使う武器は、普通の自立航法のAI搭載爆弾でもなく、無線やレーザー誘導ミサイルでもない。


 砂漠専用にシールドされた、古風な有線誘導ミサイルだった。

 この星では浮遊する砂やモスによる空気中の減衰が多いので、レーザーやプラズマなどのエネルギー兵器類は屋外での効率が悪い。


 その分、砂嵐で視界の利かない中、人間の勘を頼りに可搬式の有線誘導ミサイルを打ちまくっている。


 ベテラン兵士の勘は恐ろしく正確で、何発ものミサイルがワーム上の建物に命中していた。


「こんな骨董品を隠し持っていたのか」

 ケンは驚きを隠せない。


 それは昔、北の国の内戦時に、山岳地帯に潜んだゲリラが使っていた兵器だった。


 髪の毛より細い光ケーブルをナノファイバーで補強した特殊な有線誘導兵器で、モスの影響を受けにくい構造になっている。その分射程は短いが、ヘッドセットの視線誘導で確実に目標へ命中させることが可能だ。


 この盗賊団のルーツが、これでわかる。

「ハロルドの言っていたことは、本当だったんだな」


 ケンは、頭上の爆発音を聞きながら、不安が膨らむのを感じた。


 酒場の造りは、元は恒星船のブリッジとは言え戦艦のような頑丈な作りではない。


 何発ものミサイルの直撃を受ければ、店ごと吹き飛ばされるかもしれない恐怖を感じた。


 コリンとケンが、意識のないジュリオの重い体をエレベーターに乗せている。


 シルビアは敵から奪ったヘッドセットをもう一度解析して、戦闘システムに侵入しようとハッキング作業を始めた。


 しかし、爆発は激しさを増している。店ごと破壊されることを恐れて、五人は地下のヴォルトへと避難することにした。



 ヴォルトのベッドに横たえられたジュリオの呼吸は弱々しい。


 ニアがもう一度治癒魔法を使おうとするが、こんな状況で集中力が乱れて、上手くいっていない。仕方がなく、熱を持ったジュリオの額に冷えた濡れタオルを乗せている。


 白昼堂々とこれだけの騒ぎを起こしているのだから、いくら巨大砂嵐が接近中とはいっても、治安部隊が動かない筈がない。


 その場合、嵐に耐える重武装の部隊が派遣され、天の枷に勝ち目はないだろう。


 コリンたちが脱出した盗賊団の基地は、制御系に大きなダメージを受け破壊され、当分偽装用の迷彩システムも動かないし、内部の転移ゲートも沈黙した。


 それどころか中央ドームのテラリウムの制御機器を復旧できなければ、基地を放棄することになりかねない。


 コアのエネルギー施設は生きているので、最低限の生命維持に支障をきたすことはないだろうが、精霊魔術師は、これから巨大砂嵐を前にして、防御結界の維持に必死になるだろう。


 果たしてその結界も、まともに機能しているのか疑わしい状況だが。


 ここから一番近い町まではそれなりの距離があるし、小さなバギーでどこまで逃げ切れるかは怪しい。


 あとは、コリンたちが治安部隊の到着まで持ちこたえられるか、という勝負になっていた。



 



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