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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第一章 砂漠の惑星
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逃走と銃撃

 

 ドーム内にはジュリオが残って三人を待ち、コリンは一人で格納庫へ先行する。走りながら、通信妨害を兼ねた砂交じりの旋風を、常に周囲へ放ち続ける。


 コリンの誤算は、まだ砂嵐がこの場所へ到達していないことだった。


 嵐の中であれば、このままアイオスにドームへ突っ込ませて、混乱に乗じて姿をくらます、そんな芸当も不可能ではないと考えていた。


 嵐の中でどうやってワームのボディを登り、酒場へ入るかという問題が残る。


 だが、あの巨体をこの中へぶち込んでしまえば、あとは魔法で何とかなりそうな気がしていた。


 しかし今の状態で接近すれは、アイオスは嵐による防御幕もなく、無防備なまま迎撃されることになる。きっとアイオスは酷い集中砲火を浴びることになるだろう。


 アイオスの本体は無事でも、その上に乗る酒場は、きっと無事では済まない。


 何とかして自分たちがここから脱出し、砂漠の中で合流して逃げきるしかない。

 コリンは自分でも笑ってしまうほどの雑な計画だと思ったが、もはや他に良い知恵も浮かばない。


 あとは、砂嵐の到着を待つのみ、というところだ。


 コリンがジュリオから聞いて目星をつけていた小さな格納庫に、数台の新しいバギーがある。


 そのうち二台のエネルギーパックがフルチャージされているのを確認し、他の車両は内部の防塵カバーを引きちぎり、水魔法で主要な電気回路を破壊した。


「(ニア、バギーの準備ができた)」

「(うん、もうすぐ着くよ)」


 再びニアの魔法で姿を消しながら、廊下を走る四人。


 格納庫の扉から顔を出して手招きするコリンの元へ、四人が合流した。


「シルは隔壁をこじ開けて、車路の確保を頼む!」

「もうやってるわ。任せなさい!」


 五人は二台のバギーに分乗して、ゲートへ続く通路を疾走する。


 シルビアがハッキングツールで閉鎖された隔壁とゲートを強引に開き、二台のバギーはフルスロットルで基地の外へ出た。


 すぐに、外壁の上に待ち受けていた戦闘員から銃撃を受けるが、距離が離れていて当たらない。


 基地の外は、いつもの砂漠と様子が違っていた。


 強い風が舞い、砂埃に太陽が霞む。直射日光が遮られて、昼間なのに薄暗く感じる。ついに、嵐の前触れがやって来たのだ。


 だが、それで助かった。コリンはサンドスーツを着ていたが、捉えられていた三人は白い囚人服のままだ。普通の砂漠の暑さだったら、すぐに参ってしまう。


 逃げる二台を追って、基地の中から武装したクロウラーやバギーが次々と飛び出す。

 その中には、エリックの姿もあった。


 しかし、激しい銃撃の中で、エリックは子供たちに傷をつけるなと狂ったように攻撃を止めようとしていた。


 逃げる二人乗りのバギー二台に、四人と猫が一匹乗っている。


 前方のバギーはケンが運転し、シルビアが後ろにしがみつく。後方のバギーはコリンが運転し、後ろにはジュリオが乗る。ニアは猫の姿で、コリンの肩に乗っていた。


 ケンとシルビアを先行させて、ニアはコリンとジュリオの周囲に防御結界を張っている。おかげで砂塵を防いでくれるが、銃器による攻撃を防ぐほどの強度はない。


 それを追って、武装したバギーやクロウラーが走る。



 追手の先頭に立ったのは、エリックの乗る特別製の快速バギーだった。


 後ろから続くクロウラーが発砲するのを必死で遮り、止めようとしている。エリックはヘッドセットに向けて怒鳴り続ける。


「威嚇射撃だけだぞ、絶対に誰も傷つけずに捕えろ!」

 大声で厳命する。


 エリックの言葉により銃撃は車体を打ち抜いて止めようと足元に集中するが、体をかすめるような銃弾も多い。


 ジュリオは振り向いてニアから渡された麻痺銃で応戦しているが、十メートルにも満たない射程の武器では、全く歯がたたない。


 しかも、それを見た盗賊の攻撃が、ジュリオへ集中した。


「ちっくしょう、こんな銃じゃ焼け石に水だぜ」

 首をすくめたジュリオが叫ぶ。


 コリンは追撃の先頭に立つハロルド、いや、エリックのバギーに狙いをつけ、振り向きざまに、マジックキャンセルの魔法を放った。


 やはりエリックのマシンは特別なMTパーツにより、能力をブーストしていたのだろう。瞬時にバギーは制御を失い、砂丘に頭を突っ込んで停止した。


 砂から抜け出したエリックは、後続のバギーに乗り込み、必死に後を追う。


 エリックはバギーの速度が出ないと苛立ち、同乗する兵士を突き落とした。


 コリンは銃弾を避けるために、小さな砂丘へ回り込むようにバギーを蛇行させた。


 回り込んだ砂の丘から出て、次の斜面をアクセル全開で登り始めた時、突然ジュリオが左肩から血を吹いて、バギーから落ちた。


 ジュリオの落下に気付いたニアが、コリンの耳元で大きく鳴いた。

 コリンも急に軽くなった車体に気付いて振り返り、斜面を転がり落ちるジュリオの力のない体を見た。


 ジュリオを救い出そうとバギーを大きくターンさせて戻るコリンよりも早く、全力で追って来たエリックが、倒れているジュリオの元へ到着した。


 遅れて二人の元へ駆けつける、コリンとニア。


 傷口からは大量の血が溢れ、白い服と褐色の砂に吸い込まれる。

 血まみれで意識のないジュリオを抱き上げ、エリックが涙を流している。


 エリックは丸めたスカーフでジュリオの傷口を押さえて、必死に止血しようと努力している。


 その前に、コリンが立った。

「どうして泣いているんだ。エギムの町ひとつ、一万人を虐殺したあんたが、何故泣いているんだ、ふざけるな!」


 コリンはエリックの偽善的な涙に怒っていた。


 コリンに襟首を掴まれジュリオから引きはがされて、エリックは砂の中に放り出された。それでも、エリックはジュリオの方へ這い寄ろうとする。その顎へ、コリンの靴がめり込む。


 コリンの後ろでは、ニアが人間の姿に戻り、ジュリオの傷に手を当てている。目を閉じて、周囲の喧騒も耳に入らぬほどに集中している。


 ニアの掌からピンクゴールドの輝きが広がるのを、コリンは見た。


 それは、コリンがエギムの森の精霊魔術師、スー・シュルムに捻挫の治療をしてもらった時に見えた光と、同じだった。


 ニアはその時に見たマナの輝きを思い出し、それを脳裏にくっきりと思い描いている。


 コリンの足を治したスー・シュルムの治癒魔法と全く同じ色の光を作り出し、両手に再現する。


(お願い、傷を治して。出血を止めて!)

 目を閉じて、ニアが祈る。


 コリンはジュリオの元に駆け寄った。

「ニア、すごいぞ。血が止まった!」


 ニアが即席で使った治癒の魔法により、奇跡的にジュリオの出血が止まっている。

 コリンは喜ぶと同時に唇を強く噛んで、自分の行為を恥じた。


「ありがとう、ニア。君はすごく冷静で、賢いよ。ごめん、僕は頭に血が昇って、馬鹿なことをしてしまった……」


 立ち上がって両手を強く握りしめるコリンをニアは見上げて、にこりと笑う。そしてすぐにまた真剣な顔で、ジュリオの傷口に集中する。


 ニアの魔法で出血は止まったが、ジュリオの意識は戻らない。

 出血量が多すぎた。


 だが、あと少し弾丸がずれていれば、心臓を直撃して即死だったろう。


 コリンは、自分の思慮浅い行動がジュリオを傷つけてしまったことに、戦慄した。


 


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