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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第一章 砂漠の惑星
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中央ドーム

 

「(アイオス、何かわかるか?)」


 コリンは左指にはめた指輪を使って遠話を送る。ニアとお揃いの金の指輪は、二人のマナによりアイオスと繋がるもう一つの端末だった。


「(室内の通路は不明ですが、コリン様の右前方七十メートルほど先に、取り上げられた五台の端末の反応があります。近くに、人間二人の生体反応が確認できました。そこを中心に半径五十メートルの範囲には、他に人間の反応はありません)」


 アイオスからの返答は、コリンとニアにしか伝わらない。


「(よし、アイオス、まずは端末の接続を断ってくれ)」

「(はい、五台の端末を切断いたしました)」

「(そこにいるのは二人だけか。よし、行ってみよう)」


「(コリン様、先程ブレスレット端末にマナを用いたアクセスを感知しました。周辺にも薄いマナを探知しています。ご注意を)」

「(マナだって?)」


「みんな、こっちだ。行こう!」

 今度はコリンを先頭にして固まったまま、一行は移動を始める。不思議なほどに、静かな廊下だった。


 やがて彼らは、両開きの大きな扉の前に出た。

「この扉の中に僕らのブレスレットがあるらしい。開くかな?」

 コリンの言葉に続いて、躊躇なくジュリオとケンが左右に開く。


 中は狭い前室になっていて、奥には強化樹脂素材の半透明の密閉扉があった。扉の内側からは、明るい光が漏れている。


 内側の軽い密閉扉も難なく開いた。五人はムッとする湿気に包まれる。


 扉の向こうには広い空間が広がり、その壁際の途中に設けられた回廊に五人はいた。十五メートルほど下に床があり、全体は鬱蒼とした熱帯樹林のようだった。


 見上げると、吹き抜けになった巨大なドームの屋根にスリット状の透明な窓が開けている。外から見えたドームの内部だろう。コリンは外観の全体像を思い返す。


 ドーム内には大小様々な種類の樹木や花がびっしりと並んで、むせかえるような濃い緑に囲まれている。


 壁面は太い柱と梁に支えられ、中央には滝のある川が流れて、巨大な淡水魚が悠然と泳いでいるのが見える。



 彼らがドームへ入る少し前のこと。

 ドームを流れる川の滝壺前に置かれたブロンズのテーブルセットで五台のブレスレットを調べているのは、精霊魔術師のクライフェルトだった。


「この端末はマナに反応している。少しだけマナを流すとディスプレイが光り、こうして初期画面が現れる」


 クライフェルトは向かいに座る首領のエリックにブレスレットを見せながら、解説している。


 これは希望が持てそうだと二人が表示を追っているうちに、突然プツンと画面が消えて応答しなくなった。

 指輪を通じたコリンの指示により、アイオスが自から接続を断ったのだ。


 それからも二人は反応のなくなった端末を興味深そうに調べ続ける。

 実は画面は消えてもアイオス側からのセンサーは一部が生きていて、室内の様子や他の場所のスキャンが五台の端末により全方向に向けて盛んに行われていた。


 彼らのいる中央ドームの広い室内には簡易型の転移ゲートが設置されていて、装置に接続された特殊な機器には僅かながらもマナが充填されている。

 それだけで、人間数人を転送できる量のマナが常に蓄えられているのだった。



 コリンたちが中央ドームへ入ると、アイオスはスキャンして得たこの情報を、コリンへ報告した。


 コリンたちのいる場所からは、エリックたちのいる場所は見えない。

 指輪からの遠話を受け取ったコリンは、状況を他の四人へ説明する。


「連中は、マナを流して端末を調べていたみたいだ。でもアイオスの方からメインの接続を切断した。今は独立したセンサーだけを生かして、可能な限りこの部屋の中をスキャンしてくれている。あそこを見てくれ」


 コリンが指差す先へ、四人が視線を送る。

「あの小部屋の中に小型の転移ゲートがある。しかも、マナが充填された機器が接続されていて、魔術師抜きでの自動転送がスタンバイしている可能性もある。たぶん、緊急脱出装置のようなものだろう」


 彼らが見下ろすドームの中心にある滝から十数メートル離れた立方体の上部に、ゲート装置が置かれた小部屋が見えている。透明な樹脂パネルの覆いで囲まれている内部には、びっしりと機械装置が収まっていた。


 この多量のマナを蓄えるデバイスは希少な古代テクノロジーの産物で、辺境の惑星では珍しい。


 こんなものは正規ルートで流通してはいないので、ジュリオのジャンク品を隠れ蓑に使い軌道から直接送られた密輸入品のひとつなのだろう。


(それだけじゃない。ブレスレットにマナを流していたのは、精霊魔術師だろう。このままでは、また転移によって逃げられてしまう……)


 コリンは、ロワーズから逃げたという盗賊たちの話を思い出す。

 ここから逃げる前に、ゲートを使えないよう基地内の装置を破壊する必要があった。


「ニア、ケンとシルにあれを渡してくれ」

「うん、わかった」


 コリンの言葉に応えて、ニアが両手をケンとシルビアの前に突き出す。ニアが魔法の収納鞄から取り出したのは、携帯型のツールセットだった。小型のアナライザーと電子工作用の機器を集めたものだ。二人の得意な作業に使う、ハッキングツールだった。


「わお、これは助かる」

 ケンとシルビアが歓声を上げる。


「ごめんね、二台だけで。ジュリオの分はないんだ……」

 ニアが言いにくそうにジュリオを見上げた。

「いいよ、どうせ俺は何にもできない役立たずさ……」


 悲しい顔をしたジュリオを見て、ニアが考え込んだ。

「じゃあ、ジュリオにはこれをあげるね。ゴールデンタウンのお土産だよ」

 ニアが代わりに差し出したのは、小さな金色のオカリナだった。


「これで俺にどうしろと……?」

「あ、それならこっちかな」

 次にニアが渡したのは、護身用の小さな麻痺銃だった。

「まぁ、無いよりはましか……頼りがいのない用心棒だな、俺は」



 一方、団長のエリックは、奪ったブレスレットがマナに反応したことに驚きを隠せない。


 マナの力を使ってワームをコントロールするとは、あまりにもハードルが高い。


 精霊魔術の呪縛により惑星表面へ縛り付けられている状況から、科学の力で脱出しようとこれまで生きて来た生粋のサイエンティストであるエリックには、認めたくもない方法だった。


 しかも、一瞬反応したディスプレイはすぐに沈黙して、それから応答がない。どうやらマナを使えない者には扱えないらしい。


(あの五人の中の誰かが、魔術師なのだろうか。そんなことは考えもしなかった。少なくとも、ジュリオであるはずがない。だとすると、あの子供たちの中に魔術師がいるのか?)


 可能性が一番高いのは、コリンと一緒にいた見慣れぬ少女だった。あの小柄な娘がワームを手なずけているのだとすれば、納得がいく。


 それにしても、まずいことになった。エリックは唇を噛む。

(あの娘が魔術師だとすると、この部屋へ逃げて来られたら魔法を使われてしまう。ここにゲートがある以上、それが逃走の手助けに転じる可能性がある……危険だ!)


 エリックは慌てて部下へ指示を出して、監禁部屋の監視を強化するように伝えようとした。


 そして左腕を上げて自分の通信端末を見て慌てる。そこには、部下からの緊急メッセージが大量に届いていた。


「なんだこれは!?」


 五人を監禁した後に、クライフェルトと二人で誰にも邪魔されずにドームでじっくりとブレスレットを調査すべく、全ての呼び出しを切っていた。


 この施設は基地とはいえ、砂漠の中に隠された異郷である。

 外部からの侵入者など想定しておらず、内部のセキュリティーにはあまり気を使って来なかった。


 


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