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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第一章 砂漠の惑星
30/123

降格

 

 エリックの話が途切れたのを見計らったように、大型の電動サンドバギーがコリンたちの後方から静かに走り寄って、エリックの脇へ停止する。


 バギーの四角いキャビンの中から、両手を縛られたジュリオ、ケン、シルビアの三人が引き出された。


 三人が腕に着けていた端末を、エリックがコリンに見せる。


「これを使ってワームを操っていたことまでは、判っている。だが、その原理も操作の方法も、さっぱりわからない。どうやら、君たち二人でないとワームの操作はできないような雰囲気なのでね」


 そこでエリックは、初めてニアを見つめる。

 ニアは怯えて、コリンの後ろへ隠れるように、一歩下がった。


「そちらのお嬢さんとは初めて会うが、もしかして、君があのワームを連れて来たのか?」


 そうしてエリックの部下が、ジュリオたち三人の胸に銃を突きつける。

「当然、私たちに協力してくれるよね」


「冗談じゃない!」

 歯を食いしばったニアが一転してエリックを威嚇して、更に暴れようとするのを抑えて、コリンが大人しく両手を上げる。


「人質を取られていても、あんたに協力はできない。これ以上父さんや兄さんみたいな犠牲者を増やすくらいなら、僕らもここで死んだ方がマシだ」

 エリックは手を振って部下の銃を下げさせた。


「威勢がいいのには感心したよ。では少し考える猶予を与えよう。仲間と一緒に頭を冷やしてよく相談してみるといい。君には他の選択肢などないってことがよくわかるだろうさ」


 コリンとニアは他の三人と同じようにブレスレットを取り上げられ、後ろ手に縛られてバギーへ乗せられた。


 残ったエリックは、大きく息を吐く。

(五人から奪った腕輪を詳しく調べる時間が欲しい。どのみち嵐が通り過ぎるまでは、何もできない。それまでにこの端末の操作さえ可能になれば、子供たちは不要だ。彼らをこれ以上巻き込まずに開放するには、それが一番いい)


 ブレスレットに隠されたテクノロジーを解析することに、エリックは強い興味を抱いている。


 銀河に広がるこの世界の文明は、一度崩壊している。

 人類が銀河系に一大文明圏を築いたのは、魔法と科学の融合により技術が飛躍的に進んだ時代であった。


 以後純粋な科学の進化は止まり、魔法と融合した魔法科学技術により人類の技術は革新的な進歩を遂げて、宙を駆け、銀河を巡った。


 それが、ある時を境に、魔法が消えてしまった。

 いや、消えたのは魔法を使う魔導師と呼ばれた人々だ。


 魔法を失った人類は衰退し、かろうじて精霊魔術師の行使する転移魔法により当時構築した転移ゲート網を守り、文明を維持している。しかし、マナを利用するそのコアの技術は今でもブラックボックスのまま、科学では解明されていない理論である。


 以後千年以上の月日が流れるが、魔導師時代の文明の繁栄には遠く及ばない。魔導師が世界から消えて以降を暗黒時代と呼ぶが、それは現在も続いている。


 魔法科学技術は潰えて、既に古代文明の産物と化していた。


 人類は必死で科学の力を再興して、この難局を乗り切ろうと努力している。


 これをMT(Magic Technologyマジックテクノロジー・ブラックボックス化している古代魔法技術の残滓に対する略称)に対して純粋科学(PS=Pure Science ピュアサイエンス)またはPST(Pure Science Technologyピュアサイエンステクノロジー)の復興と呼んでいる。


 エリックも、そのPSを信奉する技術者の一人であった。だからこそ、この端末の謎を解き、ワームを自らの手に入れたい。


 エリックは端末を大事に抱えて、迎えの車に乗った。


 五人が両手を体の後ろに縛られたまま運ばれたのは、砂塵やモスが床に積もっているような汚れた部屋だった。


 先に三人が目覚めた白い部屋やエリックと面会した応接室に比べると、かなり自分たちの立場が低下していることをジュリオは痛感する。


「まったく、お前ら二人が来たせいで、急に部屋のグレードが下がっちまった。こりゃ倉庫だぞ。俺たちゃもう人じゃなくてお荷物扱いってことだ。ひでぇもんだぜ」

 ジュリオがコリンに向かってぼやく。


「それはさ、ジュリオが格好をつけて、ハロルドを怒らせるようなことばかり言ったからだろ。せめてこの縄はほどいてほしいよな」

 ケンは縛られている両手をもぞもぞ動かしながら、ジュリオを睨む。


「ねえ、シル。大丈夫? なんか変なことされなかった?」

 ニアが鼻先でシルビアの胸をつつく。


「大丈夫。別に何にもないわよ」

「そうか、よかった。ねえ、コリン、安心したら、おなかが減ったよ」

「さっき食べて来ただろ」


「あーあ、あのサンドイッチは美味しかったな~」

 シルビアが残念そうに眼を閉じる。


「ハロルドがおはよう、って言ってたけどさ、オレたちが起きたばかりだからなのか、それとも本当に今は朝なのか?」

 ケンがコリンに向かって尋ねる。


「うん、まだ朝早い時間だよ」


「てことは、俺たちはずいぶん長く寝ていたんだな。どうりで体中痛いわけだ」

「うん、どうりで腹が減るわけだ」

「そうね、だからあんなにサンドイッチが美味しかったんだ~」


「えー、わたしもサンドイッチ食べたーい!」

 ニアは口を尖らせてコリンに体当たりする。

「はいはい、帰ったら作ってあげるから」


 二人の呑気なやり取りに、ケンが呆れて声を荒げる。

「コリンお前、家に帰って飯を作る心配するよりも、他に考えることがあるだろ!」

 そう言われて、コリンは考える。


(このモスに汚染された部屋は基地の奥ではなく、きっと出入口に近い側だろう。それなら逃げ出しやすい。確かにシルビアやケンのようなハッキングの達人を、無暗に基地の奥へ入れるのはハロルドだって怖いだろう……)


 一歩間違えば重要なシステムを乗っ取られて、施設を全部支配されてしまう。


 となると当然、この汚い部屋の内部も厳重に監視されている可能性が高い。

 それも、複数の監視装置がありそうだった。


「(ニア、僕たち五人をまとめて魔法で隠してくれる?)」

 コリンはニアに遠話で合図をする。

 それに応えて、ニアはそっと魔法を使った。


 それは、監視の目から五人を守る隠形結界おんぎょうけっかいだった。

 瞬時に周囲から五人の姿は見えなくなり、声も、気配も感じられなくなる。


 当然、監視カメラからも姿が消えて、真面目な監視者が見ていればきっと慌てているだろう。


「ニアの魔法で僕ら五人の姿を隠したから。今なら何を話しても大丈夫」

 コリンは他の三人にも伝えた。


 


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