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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第一章 砂漠の惑星
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一万人を見殺しにした男

 

「だから、お願いだ、君たち三人には、私に手を貸してほしい」



 ジュリオは信じられない面持ちで、ハロルドを見ている。

(これが、町の全住民を見殺しにして、自分だけ逃げ出した男の顔か?)


 ただの柔和な老人ではないと思ってはいたが、まさかハロルドが盗賊団の首領だったとは。


 ジュリオにとってハロルドは、兄のような、父親のような存在だった。

 ジュリオがまだ若かった十五年前、乗っていた恒星船がこの星に来た時にトラブルに巻き込まれて船を降りた。


 軌道上にあるゲートステーションの廃棄物処理セクションで働いている時にハロルドと出会い、意気投合して一緒に惑星へ降りることになる。


 以後エギムでジャンク屋稼業を続けていた。


 ハロルドは親友で、店のお得意様で、良き相談相手だった。

 ジュリオは昔の伝手を生かして軌道ステーションから使えそうなゴミを安く仕入れている。


 軌道へ製品を上げるには転移ゲートを使うが、ジャンク品は町の近くの砂漠へ密かに投下させることにより、安価に入手できる。


 これはある種の密輸のようなものだが、しょせんはゴミである。


 実はハロルドはその中へ本当に密輸品を隠して運ばせ、それをジュリオから安く買うことで自分は何もせず安価に非合法品を入手していた。


 いつからかジュリオもそれに気付いていたが、ハロルドの研究に必要な資材の入手方法の一つとして協力しているのであれば、悪い気はしなかった。


 まさかそれが盗賊団の資金源になっていたとは。


 ステーションの監視と惑星の治安部隊の警戒網をくぐって、エギム近くの砂漠へ廃棄物の入ったカプセルを落下させるのは至難の業で、年に一度くらいしかそのチャンスはなかった。


 しかしケンとシルビアのハッキング技術と隠蔽された降下物を安定して目的の場所へ到達させるカプセル誘導技術の向上により、月に一度は投下が可能となった。


 更にそれを密かに回収、運搬するための技術も二人によるものが大きく、三人の存在が盗賊団には絶対に必要だったのだろう。


 投下されたジャンク品の回収には貨物クロウラーが必要で、三人が町を脱出したクロウラーもその技術を応用した人荷用の新しい機体だった。


 町からより遠くの安全地帯へ降下させた希少な品物を回収するために、遠距離運搬用のクロウラーが必要だったのだ。


 ゲートを通して軌道から購入する正規品の廃棄物は、ダミーの一山いくらの本当のジャンク品なのだが、ジュリオが入手する密輸品には恒星船由来の高価なパーツが大量に含まれていて、辺境の惑星にとっては宝の山である。軌道上ではただのガラクタだが……


 エギムでも、地下プラントの緊急時に維持管理にも使える良質の資材を何度もジュリオが調達していたので、プラントから出る廃棄物からも、かなりの良品を下ろしてもらっていた。


 そんな懐かしい日々がジュリオの脳裏をよぎる。しかし、自分はともかくこの二人の少年少女を、盗賊団の手先にするわけにはいかなかった。


「悪いが、うちの子二人には明るい道を真っ直ぐ堂々と歩かせてやりたいんだ。薄汚い盗賊の手助けは、させられねえ」


 ジュリオの回答を聞いたハロルドは、盗賊の首領エリック・ゲレツの顔に戻って不敵に笑う。


「残念だが、それが答えか。まあ、もう少しだけ時間をやることにしよう。君たちのお友達ももうすぐやって来るだろうしな」


 三人が顔を見合わせる。


 ハロルドは、三人の持っていたブレスレットをテーブルの上にどさりと置いた。


「これが、サンドワームを操るためのコントローラーなんだな?」

 予想していたことではあったが、ハロルドの口からサンドワームという言葉が出て、三人の顔に動揺が走る。


 三人はためらいながら、黙って首を横に振る。


「黙り込んでも無駄だ。君たちがサンドワームを操り、動かしていることはお見通しだ」

 ハロルドは身を乗り出して、三人の顔を覗き込んだ。


「コリンか?」

「……」

「それとも、もう一人の少女の方か?」

 そこまで言われて、ジュリオは歯を食いしばった。ハロルドがどこまで知っているのか、恐ろしくなって背中に冷たい汗が流れる。


「なるほど、酒場の二人の秘密ってことだな?」

 ハロルドが続けて三人に迫るが、三人は誰も答えない。


 沈黙の中、その問いに答えるようにテーブル上に置かれた端末の一台から仮想スクリーンが展開し、空間に映像が投影された。


 ホロスクリーンに、コリンとニアの姿が浮かぶ。


「聞いていたよ、ハロルド」

 突然のコリンの言葉に、その場が色めき立つ。


「それなら話が早いな、コリン」

 ハロルドは薄笑いを浮かべて、コリンに対する。


 コリンは勇気を振り絞って言った。

「僕らはは友達だよね。馬鹿なことは止めて、三人を解放してよ!」


 だがハロルドはコリンの言葉に耳を貸すつもりはない。

「さて、三人を返してほしいのならば、お前がここへ来るんだ。ここがどこだかわかるんだろ?」


「言われなくても、今そっちへ向かっているところだよ」


「この施設は我々天の枷の基地だ。多少見つけにくいとは思うが、もう近くまで来ているな。知っていると思うが、もうすぐ特大の嵐がやって来る。その前に、門の前までやって来い!」


「だめ、コリン。来ちゃだめよ!」

「そうだ、コリン、来るんじゃない。オレたちは大丈夫だからっ」

「コリン、短気を起こすな。こんな場所へ来るんじゃない。そのまま離れて様子を見ていろ。俺たちがきっと何とかする!」


 三人が口々に叫ぶが、それもハロルドにとっては都合がよかった。


「お前が早く来ないと、うちの武闘派の連中をいつまで押さえられるか自信がないぞ。エギムの一万人を見殺しにした俺が、たった三人の命をどう考えているかなど、お前ならわかるだろ?」


 ハロルドはコリンの映像に向かって不敵に笑う。


「わかったよ。すぐに行くから、三人に手を出すなよ!」

 ブレスレットの映像が消えた。



 コリンは隣にいるニアの手を強く握る。


 三人がその場所へ到着してからブレスレットの生体反応が消えていたが、これは単に腕から外されたことを意味する、とアイオスは言った。


 外されたブレスレットは三台とも同じ場所にあって、おそらく三人もそこに監禁されているのだろうと思われた。


 それからブレスレットのエネルギー残量を気にしながら一台ずつ順に音声モニターを起動して様子を見ていた時に、端末の向こうで話すハロルドの声が聞こえたのだった。



 


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