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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第一章 砂漠の惑星
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新たな手掛かり

 

世間の注目を浴びないように極力宣伝をせずに営業の許可だけを取り、ゲリラ的に二、三日店を開けては次の町へ、というサイクルで動いた。


そんな中でも、天の枷に関する噂は何故か急激に増えていた。

噂話の内容は、一貫している。


「どうやら、この一年の間ずっと、盗賊団は何かを探しているらしい」

最初に立ち寄ったある町では、そんな噂を聞いた。


更に別の町では、もっと物騒な話を聞く。

「移動営業をしている酒場を探している連中がいるぞ、気を付けろ」と。

「探しているのは、十代の子供と中年オヤジの三人組って聞いたぞ」

「注意しておいたほうがいいぞ、人相の悪い連中だった」


接客している三人が共に、似たような話を客から聞いていて、青ざめた。

コリンは、エギムの町が襲われたあの日の出来事を思い返した。


町の中で爆発が続き黒い煙が立ち上るエギムの防壁の外を、突然動き始めたアイオスに命じて何周か動き回った。そして、それを見た賊から攻撃を受けていた。


あの日はその後、町から逃げる盗賊団のバギーやクロウラーを追いかけまわしたりもしている。そのうちの何人かは、サンドワームの上に乗っている『砂丘の底』の姿を見ただろう。


だから、今でもそのワームがどこかに隠れていると彼らが考えていても、不思議はない。そして今、彼らはそのワームに強い興味を持ち、探しているようなのだ。


似たような話が店の客から、ぽつぽつと聞こえるようになっていた。


あの日エギムの町から脱出した少年少女。

それがケンとシルビアのことなのか、どこかの町で営業していた時に見たコリンとニアのことなのかは、不明だ。


同時に話題に上る、移動営業の酒場。それに、人の意のままに動くワーム。

共通するのは、それを探している人相の悪い大人たち。

間違いなく、あの盗賊団の関係者だろう。


だが、これほどまでに噂話の中へ人相の悪い男が頻繁に登場すると、やはりそこに天の枷の存在を感じてしまう。


「これって、逆に僕らが盗賊団に追い詰められているってこと?」

コリンは慌てた。


「この店に三人を呼んだせいで、目立ってしまったのかな……」

だが、ジュリオはその考えを否定する。


「そうじゃない。この間の隊商の遠征にケンとシルが提供したのは、二人が開発中だった移動最適化システム(SVOS)のほんの一部だが、それだけでも世間の注目を集めちまった。遅かれ早かれ、俺たちはあの町を出ることになっただろう」


「そうね。私が我慢できず、つい手を出しちゃったからねぇ」

「うん、オレもだ」


「でも、町から逃げ延びたジュリオとケンとシルビアの三人については、その脱出行動自体を、ハロルド本人以外は誰も知らないんじゃないかなぁ」

コリンの呟きを聞いていたジュリオが、はっとして顔を上げる。


「まさか、ハロルドが生きているのか?」

ジュリオはそう口に出して考える。

(待てよ。もし俺たち三人がロワーズを出て行くことになったら、どこへ行った?)


そして、ジュリオはあの日の騒乱の中で博士から教えてもらった、ある人物のことを思い出した。


「そういえば、もう一人いるな。ハロルドがあの時、俺たちのことをある人物に知らせていた可能性がある」


結局その人物の所へ三人は到達できず、身を寄せることもなかった。三人ともその存在を忘れていて、連絡すらしていない。


そこへ行けば、何か手掛かりが見つかるかもしれない。


(だが、そうだとすると、その人物が俺たちの情報を天の枷に売った可能性が高い。最初から盗賊団の一味なのか、買収されたのか、或いは脅されるか捕まって吐いたのか。最悪の場合、既にこの世にいない可能性だってある……)


ジュリオは目を細めたまま動かず、両手を強く握り締めていた。



「盗賊団が酒場のことまで知っているとすれば、俺たちは当分町に近付かない方がいいだろうな」

ジュリオは砂漠の中の安全地帯に一旦身を隠した後、四人にそう言った。


「しかし、ハロルドの手掛かりを探すために、ブラウンヒルという町に住むビル・チルデンという人物を訪ねてみたい」


「誰なの、それは?」

「ああ、コリンには言ってなかったか。俺たちがエギムを脱出する時に、ハロルドから教えてもらった知り合いだ。町を出たらこの男を頼れ、と教わった」


「そうだった。その人なら、何か新しい情報を持っているかもしれないな。すっかり忘れていたよ」

ケンは頭を掻く。


コリンは、あの日一緒にケーキを食べに行く約束をしていたケリーの赤い髪を思い出していた。そして壊れた防壁の隙間から見えた町の、最後の光景が蘇る。


幾筋もの煙が立ち上り崩れて陥没した瓦礫の下に、コリンの知る多くの人を含む一万もの人物が、今も眠っているのだ。


暗い表情になったコリンに気付いて、ニアが無理に明るい声を上げた。

「じゃあ、次の目標はそのブラウンヒルっていう町だね。でもさ、コリン、わたしお腹が減ったんだけど~」


「よし、すぐにご飯の支度をするよ。移動は明日からだね」

「ねえコリン、わたしパエリヤが食べたい」

ニアがコリンにすり寄る。


「ねえコリン。わたくしはでっかいお肉がいい」

とジュリオが真似をして腰をくねらせる。


「ねえコリン、デザートはレモンタルトがいいな」

シルビアも真似をする。


「ねえコリン。なんでもいいから早く食べた~い」

ケンも大げさに体をくねらせて高い声を出した。


「いいけど、誰か手伝ってよね!」

コリンは大股で歩いて、地下のヴォルトへ材料を集めに行った。


「わーん、みんながわたしの真似をするよ~」

ニアが三人をきつく睨んでから、両腕を振り回してコリンの後を追う。


「ジュリオ、気持ち悪いんだよ」

「バーカ、お前の方が遥かに不気味だぞ、ケン」


「私はいいの?」

「シルビアは、可愛いから許す」

「よしよし、ジュリオは今日も良く空気が読めました」

「……」




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