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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第一章 砂漠の惑星
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魔法の訓練

 

 そうして砂漠の中で、二人きりの魔法修行が始まった。


 サンドスーツより更に重たい宇宙服のようなクールスーツを着て灼熱の砂漠へ出るのもバカバカしいので、日が落ちてから彼らの修行は始まる。


 元々ニアは夜行性だし、コリン自身もずっと朝まで酒場で働いていた。だから行動パターンとすれば、全く問題ない。


 マナを形にするのは、個人の思いだとニアは考えている。ニアの場合は人間になりたいという強い願いが形になった。


 魔法と言えば、ホロムービーで人気のタイトルがある。

 通称WMW、(World Magic War)魔法大戦と呼ばれるこのタイトルは多くの魔法使いたちが二つに分かれて大戦争に突入するというストーリーで、人気ゲームにもなった。


 コリンがケンやシルビアと一緒に野外に巨大スクリーンを作って遊ぼうとしていたのも、このゲームだ。


 ゲームの中の魔法使いは杖を持ち、それぞれが火や水などのうち適性を持つ一つの属性の魔法だけを使える。



 そして複数の魔法使いを束ねて巨大魔法を操るのが、魔導士という存在だ。魔導士は一人であらゆる魔法を操るが、その一番の能力は、数多くの魔法使いの能力を増幅して様々な新しい魔法を創造するところだ。


 個々の魔法使いは短い杖を持ち、自らの魔法を呪文の詠唱により発動させる。

「母なる大地よ偉大なる怒りの鉄槌を、ランドクエイク!」

 こんな感じの奴だ。


 そしてそれらを束ねる魔導士は更に長い詠唱を行う。


「悠久の大地よ、空駆ける風と稲妻よ、しばしその力を我に授け黒き悪魔に制裁の一撃を与えたまえ……ストームクエイク!」

 と、こんな感じになる。


 コリンとニアはそれを真似して、酒場の厨房から持ち出した菜箸を一本ずつ握り、魔法の練習をした。


「永遠に輝く母なる太陽よその力を我に与え、命の炎を輝かせろ……サンバースト!」

 などとやっているうちに、箸の先にボーッと小さな火の玉が現れたりするようになった。


 ゲームの中での魔導士は巨大な木の根のような杖を持ち、更なる派手な呪文を唱えて極大魔法を放ったりするのだが、彼らがその域に達することはなく、地味に何のポーズもなく無詠唱で小さな魔法を生み出すことが目標になった。


 派手な魔法の詠唱は、最初はコリンも面白がってやっていたのだが、面倒だし、ひたすら恥ずかしい。


 ニアは結構気に入っていたのだが、コリンはいつか人前でそんなことをする羽目になったら、恥ずかしくて死にたくなるだろうと思っていた。


(そして、その死んでしまいたいという思いが強ければ、きっと即死の魔法が自分に向けて発動するだろう。それは、最低の死に方だ……)


 ニアは服装もゲームの魔法使いのような長いローブに尖った帽子をかぶり、何故か杖だけは酒場の菜箸のままで本格的な呪文を唱えては、グラスに水を溜めたりティッシュペーパーを宙に浮かせたりしていた。


 結局、魔法の使用には長々とした詠唱も魔法の杖も、どちらも必要がなかった。


 でも二人は今でも箸を握ると、つい片手を前へ振り出して、ゲームの魔法使いがする構えを取ってしまう。


 それは何よりも、そのころ毎日砂漠を走り回って二人で魔法使いの戦闘ごっこをしていた名残である。


 ごっこ遊びと言いながらも、使っているのは本物の魔法である。


 無詠唱で相手の顔に濡れた泥をぶつけたり、腕にピリッと電気ショックを与えて杖を握れなくしたりと、意外と本物に近い模擬戦闘でもあった。


 二人が一緒に学び、共通で使えるようになったのは、ほんの些細な身の回りの魔法からだった。


 昼間の暑さが残る夕暮れ時に、ちょっとした涼しい風を送る。

 砂まみれの汚れた掌に水を流して、手をきれいに洗う。

 すぐに温くなるビールのジョッキを、もう一度冷やしてやる。

 屋上で準備するバーベキューコンロに素早く火を点ける。

 隣のテーブルに置き忘れた胡椒の小瓶を少し宙に浮かせて、手元まで運ぶ。

 暗い夜の砂漠に、小さな明かりを灯す。

 そんな少し便利な、できたらいいな、から始まり、二人がアソートと呼ぶことになる便利な生活魔法の詰め合わせセットのようなものが出来て行った。


 風呂上がりに、コリンが魔法で出した温風で髪を乾かす。

 すると風呂嫌いのニアが、シャワーなしで髪を洗う技を考え出す。

 その次には、服を着たまま体全体を清潔に洗うことが可能になる。

 コリンはそれを真似して、着ている服も一緒に汚れを落とすように工夫する。

 最後に爽やかな石鹸の香りを身にまとう。

 そんな連鎖で、次々と小さな魔法が完成した。


 ニアはどちらかというと近距離系の魔法が得意だった。変身の際には身の回りの物を作り出したり保管したりできる。


 ちょっとした収納鞄を別の空間に持っているようなものだ。


 コリンは遠距離系の魔法が得意で、ニアとの間で遠話を繋げて会話することが出来た。同じように、ちょっとした小物を遠話で繋がった相手へ送り届けることもできる。


 これは便利で、ニアの小物入れに入れておけばいつでも取り出して使えるのだった。


 その他にも出来そうなことは色々あるのだが、二人の得意な魔法は全く違っていた。

 小さな生活魔法の系統は二人で習得したが、それでもう特に困ることはない。たいていのことは、その延長にあるもので間に合ってしまう。


 ニアが苦手な風魔法はコリンの得意分野で、アイオスの移動時に砂塵を巻き上げ姿を隠すのに便利だった。


 こうして二人で補っていると、それほど何でも覚えなければという意識は希薄になっていた。


 コリンは砂漠で目覚めた時のことを思い出す。


 あの時の、あらゆる色が渦巻き混ざり合いながら空を埋め尽くすイメージが、今も頭から離れない。それは様々な色を持つマナの輝きと重なり、魔法の無限とも思える可能性を暗示しているようだった。


(いつか、魔法を使ってあの光景を皆に見せたい。誰もが一瞬で心を奪われ、過去の過ちや悲しみに涙し、そして全てを許し、許され、手を取り合って歓喜の未来を夢見るような、そんな魔法を)



 勿論、二人は魔法の練習ばかりしていた訳ではない。


 ニアがせがむので古いボードを倉庫から出して、サンドボードで遊んだ。

 砂丘の上まで上るために、倉庫のガラクタを集めてサンドバギーを一台造った。

 そして、人間になったニアが一番やりたかったこと、それは町へ出かけることだった。


 どうせなら、行ったことのない大きな町へ行こうと、二人は惑星の反対側にあるエランドで一番大きな町を目指した。


 軌道ステーションへ繋がる三基のゲートのうちの一つを持つ町、ゴールデンタウン。

 そこで彼らは目いっぱい遊んだ。


 食事をして、買い物をして、新しい映画を見て、色々な人と話した。

 砂漠の遊覧飛行をして、スカイダイビングも試した。

 サンドバギーのレース場へ行き、ギャンブルもちょっとだけやってみた。


 そして最後にニアが願ったのは、二人で再びお店を始めることだった。


 時間をかけて、盗賊の攻撃で破壊された建物を修復し、一目で『砂丘の底』とは分からぬように、建物を改装した。



 


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