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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第一章 砂漠の惑星
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複雑な再会

 

 コリンは慌てていることを悟られないように、慎重にそのパーツを持ち直して、店主の方を見る。


「ねえ、この部品の出どころも、キャラバン隊なの?」


 店主は一瞬驚いたような顔をしてコリンの顔を見直したが、すぐに首を横に振って答える。


「さあな。うちは直接キャラバンから仕入れてるわけじゃねえ。地下のプラントやゲート経由のあちこちのゴミから、ガキどもが競争でパーツをはぎ取っちゃあ売りに来るからな」


「そうなんだ」

 コリンはがっかりして肩を落とす。確かに、ジャンク屋というのは仕入れ先を明かしたがらないものだ。


 そこで、ニアが他にもそんなパーツがないかを調べていると、別のパーツから再びよく知った匂いが感じられた。


「(今度は、ケンの匂いだよ。あいつらひょっとしたら、生きてるのかもしれない。この匂いはさっきのよりもっと新しい気がする)」


 それは内装材が一体化している冷却装置の一部で、特徴的な紋章が刻まれていた。


「おじさん、これをもらうよ。あと、これの高圧用は置いてない?」


「今うちにあるそのサイズの電子冷却フィンはそれくらいかな。それだったら五十でいいぞ」

「ありがとう」



 コリンはそのパーツを入手して、町でちょっとした聞き込みを行った。


 そこに刻まれていたのは確かにこの町に住む商家の紋章で、町外れにその交易商人の屋敷を見つけた。


 地上にあるその屋敷の正面は、何故か大勢の人で賑わっていた。

「今日は何があるんですか?」

 ニアは近くにいた若い男に尋ねた。


「おお、ちょうど今、この商会のキャラバンが戻ってきたんだ。たった二週間の旅だったが、俺の弟の初めての仕事だったんでな」


 男の指差す先に、彼に似た少年が集まった群衆に手を振っている。


「すごい騒ぎだね」

「おう、当たり前よ。今回は、例の盗賊団騒ぎで帰りが遅れたからな」


「へぇ、そうだったんだ」

「それによ、今回は砂嵐から逃げるのも大変だったらしい」


 店の表には人がごった返していて、とても近寄れない。それほどに、厳しい旅だったのだろう。


 コリンとニアは、屋敷の裏へ回り、地上には何も見当たらないのでそこから地下へ潜った。


 屋敷の地下も共用通路と繋がり、一部が店舗になっていた。

 その通路に面した奥に、がらくたが山と積まれている区画がある。それは、どこかで見たような光景だった。


 近くで見ようと二人で顔を合わせて足を踏み出した時、背後から思いもかけない声がした。


「おい、小僧ども、誰に頼まれてここを嗅ぎ付けた?」


 二人が体を固くして振り返ると、目付の鋭い三十年配の朝黒い肌の男が腕組みをして仁王立ちしている。


「おっと、動くなよ」

 男は咄嗟に片手を懐に入れて、武器を隠していることを臭わせる。


「ここは人通りも少ない裏道だ。大きな声を出しても、誰も助けには来ねえぞ」

 男は顎をしゃくり、二人に右の路地へ入るように促す。


 コリンはそれに従わずにニアを後ろへ庇って男の前に出た。


(まだこの町に「天の枷」の残党が残っているとは思っていなかった。完全に油断をしていた……)

 コリンは唇をかむ。


(いざとなれば、ニアは猫の姿で逃げることができるかもしれない。だが、この男が銃を持っているのなら、無理をするのは危険だ)


「人を探しているんだ」

 コリンは男の注意を逸らすように首を回し、視線を自分の背後にちらりと向けた。


「ああ、知ってる」

「何故だ?」

 コリンは眉間にしわを寄せて男を睨んだ。


「ジャンク屋で妙なことを聞きまわる小僧がいるって話を小耳に挟んだもんでな」


(なるほど、あのジャンク屋のオヤジは盗賊たちと関係があったのか!)

 コリンは顔をゆがめて考えた。


(だとすれば、あの紋章の商人も天の枷の仲間なのだろう。ジュリオとケンが生きていても、盗賊団に捕えられている可能性が高い……まさか、自分たちの身元も既にバレているのだろうか?)

 コリンは急に大きな不安に襲われる。


「ここは俺たちドーベル商会の縄張りだ」

 男は服の襟につけた徽章を見せる。ジャンク屋で見たパーツについていた刻印と同じ、商会の紋章だった。


「ここで勝手な真似をされては困る」

 男は低い声で一歩前へ出て、再び二人を路地へと促す。


 コリンはニアを庇いながら、仕方なく横へじりじりと動いた。


「てめえら、天の枷の連中の好きにはさせないぞ」


「えっ?」


 コリンは思わず聞き返してしまった。


「だから、薄汚い盗賊野郎の思い通りにはさせねぇって言ってるんだよ!」


 その時、コリンの後方で、若い少年の元気な声が響いた。


 コリンが声のする方へ振り返ると、ジャンク品の山を背にして油の滲んだジャンプスーツを着た背の高い女性が、同じように背の高い少年と話をしている。


「……新型の可変ダンパーと制御回路はどの船にも有効だったよ。サンプルにもらったEMRも試したけど、かなり燃費が上がったな。今度、全部の船のシステムをシルに書き換えてもらおうかなぁ……」


 そう話しながら、女性は店の奥にいる少女に目を向けた。

 別の男の声が、それに続く。


「ああ、シルビアが書いた新しい姿勢制御プログラムはすごかったぜ。高速域での安定度がぐっと増して、お前の可変流体ダンパーと合わせれば、最高速が一割増しだ」


 背の低い白髪交じりの男がそう言いながら笑っている。男は更に語る。

「……おかげで船団が嵐から無事逃げ切ったよ」


「それじゃあ頑張って出発に間に合わせて良かったね」


「ところでお前ら、これをうちだけで使うのはもったいないと思うんだが……セットで汎用品に対応させれば、きっといい値で売れるぞ」


「でも、システムはまだ完成してないのよ。積み荷によって変化する車体重量のバランスや周囲の環境変化を読み取り、最適な動力と姿勢制御を学習しながら予測して進化するの。機能単体での運用には限界があるからね……」


 そこまで聴いて、コリンは確信して、大声を上げた。


「おい、ケン、シル、いるんだろ。コリンだ。助けてくれ!」


 パーツの山の間で話をしていたケンとシルビアが、びっくりして顔を上げた。

 二人は声のする店の外を見る。


「コリン!」

 走って来た二人が、コリンに抱き着く。


「大丈夫、マリオさん。この子は友達なの」

 シルビアが目つきの悪い男へ手を振って答える。


「どうなっていやがんだ?」

 男は棒立ちになってそれを見ている。


 二人はコリンの手を引いて、店に入って行った。

 当然ながら、二人が人間になったニアに気付くことはない。


 コリンと思いがけずに出会った興奮で、近くにいるニアのことなど目に入っていなかった。


 わかっていたことだが、ニアはショックを受けて、マリオと呼ばれた男の隣で同じように立ちすくんでいた。


 頼みのコリンも、他人の目がある場所で、ニアの正体を明かすことなどできないだろう。


 ニアだって、早くケンとシルビアに飛びついて再会を祝いたい。でも、今のこの姿では、それは無理なことだった。


「(ニア、大丈夫か?)」

「(うん。でも、このままじゃ二人には、わたしだってわからないよぉ……)」



 


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