第80部分 言(こと)の葉(は)遊び
第80部分 言の葉遊び
一口に「言の葉遊び」と言っても、実にいろいろなものがある。たとえば
①竹藪焼けた
②仏像銅像
③手袋
④二重におりてくひに掛ける数珠
⑤青巻紙赤巻紙黄巻紙
⑥10回シリーズ
⑦比較シリーズ
⑧咎なくて死す
⑨替え歌
などは皆様も一度は聞いたことがあるフレーズではなかろうか。(⑥⑦⑨は除く)
耳タコでも、ここは形ばかりの解説を入れておこう。
①「竹藪焼けた」は「タケヤブヤケタ」で、上から読んでも下から読んでも同じ文になり、これを回文という。短ければ「トマト」「しんぶんし」などという単語にもその例がある。長いものでは「ママが私にしたわがまま」とか「夜すき焼きするよ」なんて秀作もありほとほと感心してしまう。
その昔、
「上から読んでも山本山、下から読んでも山本山」というキャッチフレーズをTVで大々的に流していた
某ノリのメーカーがあった気がするが…これは回文の内に入れて良いものだろうか。そういえば最近…どころかここ数十年はこのCMを見た記憶が無い。はて、どうなったことやら。
②「仏像銅像」は、まず相手に「自分が仏像と言ったら、キミは銅像と言ってね」とネタを仕込んでから「ぶつぞう」と唱え、何も気づかなかった相手が「どうぞう」といったところで許される程度に相手をシバクのである。要は「打つぞ、どうぞ」という会話を模した形で相手を騙し討ちにするのだ。これと似た形式のもので「ねぇ、ちゃんと風呂入った?」と澄ました顔で相手に訊ね、否定をすれば「わぁ不潔!」と返すものもある。しかしそれが真の目的ではなく「うん、入ったよ」と返事をすると「ええええっ、わぁえっち、お姉ちゃんと風呂入ったんだ!」と罠に掛けることを狙うのである。
③「手袋」は知らない人にはまず分らないものだ。「てぶくろ」と言う言葉を逆さまに読むように要求しておいて、相手がひらがなを思い浮かべながら「ろ、く、ぶ、て」と言い切った瞬間、赦してもらえる程度にポコポコポコポコポコポコッと6回打つのである。「痛っ、あにすんだよ」と言われたところで澄まして「だって六打てって言ったじゃん、しかも命令形で…」
この発展バージョンとして「手袋巡査」というのもあるが、相手もさすがに36回打つのを待っていてはくれない。そもそも逆読みにもちょっと無理があるし…
④二重におりてくひに掛ける数珠
ずっと以前には「電報」という郵便物があり、なにより速達性が重視されていた。任意の郵便局からほぼ即時に離れた郵便局まで和文モールス符号を送ることができたし、その上配達も専用バイク便等で即刻届けてくれる。そのかわり料金もべらぼうに高価かった。文面はオールカタカナで、それでいて字数次第で料金が決まるために、送信者はなるべく短文で送ろうと知恵を絞るのである。それでも「チチキトク」とか大学合格の「サクラサク」などならまず誤解は起こり得ない。
しかし濁点や半濁点、撥音である小さい「ッ」や「ュ」やスペース等も送れないがために、送信者が意図しない意味で受信者が誤解したり意味を取り違えてしまう事態もしばしばあった。
「カネオクレタノム」、つまり「金送れ、頼む」と、なけなしの最後のお金で救援の電報を打ったはずなのに、受け取った側は「カネ遅れた、吞む」とは何事か…ってな具合である。まさか…
ここに挙げた例は電報の電文ではないが、ある意味カタカナだけが句読点もない状態で羅列された場合に「どんな捻くれた読み方ができるか…という遊びにも繋がるものがある例である。ちなみに小文字は大文字と同じに表記するので、「病院」と「美容院」のカタカナ表記は同一の「ヒヨウイン」となる。
さて、「フタエニオリテクヒニカケルシユス」は「二重に折りて、首に掛ける数珠」なのか「二重に折り、手首に掛ける数珠」なのか… う~~ん…
似たようなものに「ナニカヨウカイ…何か妖怪」とか「キョウフノミソシル…恐怖のみそ汁」とか「アクノシユウシカ…悪の十字架」とかを挙げても良いかも知れない。みんな複数の意味に解釈できるもので、「何か用かい?」、「今日麩のみそ汁」、「開くの十時か?」と書けば別に怖さを感じることもないだろう。
⑤青巻紙赤巻紙黄巻紙は早口言葉ですな。有名なものでは「東京特許許可局許可局長」とか「生麦生米生卵」とか「バスガス爆発」とかで、3回続けてとか、10回連続でとか相手の練度によっていろいろなバリエーションを創れるのも面白い。ちなみにガス動力で動く実用バスはないし、特許庁は国の所管であるので「東京特許許可局」という省庁も施設も存在しない… な~んて堅いこと言うなよな!
⑥10回シリーズは一時期猖獗を極めたアレである。
「ピザって続けて10回言って!」
「ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ」
「ここはなんて名前?」 …身振りで腕の「肘」を指しながら問いかけると相手はつい、
「膝」と答えてしまうワケで、これは人間の先入観と錯覚心理をうまく突いたゲームであった。
他にも
「カレーライス」を10回言わせてから、世界1早い(当時)短距離ランナーは誰?と訊ねるパターンも存在した。
「あははは、引っ掛かんないよ、カールルイスでしょ」と答えると、
「残念でした、ベンジョンソンで~す」
なんてな高等なテクニックもあったりして、ありゃ楽しかったなあ…
ちなみにベンジョンソンは1987年世界陸上ローマ大会100メートルでルイスを破り、9秒83の世界新記録で金メダルを獲得、1988年ソウル五輪100メートル決勝でも9秒79の世界新記録で金メダルを獲得したカナダの選手である。しかしレース後に筋肉増強剤の使用が発覚してメダルも記録も過去に遡って抹消され、その後もドーピング検査に引っ掛かって永久追放処分となっている… みんなの夢をぶち壊してくれたよな…
⑦比較シリーズとはたったいまサティが命名したのだが…
「カレー味のうんことうんこ味のカレー、どっちが良い?、その理由は?」
みたいな感じの問いで特に正解はなく、「応答の機知」を楽しむものだ。
「私はカレー味のうんこかな… だってうんこ味なんて想像できないけど、カレー味ならイケるかも」
「俺はゼッタイにうんこ味のカレーだな。だってどんな味でもカレーはカレーだし、でもうんこはどう味付けしても所詮はうんこだろ?」
「でもうんこ味だよ、食べれる?」
「そりゃ、がんばって… ああ、でもさぁちょっと待って… うんこ味ってことは、一度は誰かが誰かのうんこを味見してるってことだよな、ぐええええ」
あ、お食事中の方、どうもすみませんでした。
⑧咎なくて死す…これはかなり高尚で優雅なコトバ遊びになる。ちなみにこういうときは古式ゆかしく濁点「”」は書かないので、正しくは「とかなくてしす」と表記する。
さて、「いろはにほへと」は当然日本人ほぼすべてが御存知だろう。日本語で使う…いや、過去の日本語において用いられていた47字すべてを過不足重複なく並べた極めつけの傑作とも言える文字列である。
いろはにほへと ちりぬるを …色は匂へど 散りぬるを
わかよたれそ つねならむ …我が世誰ぞ 常ならむ
うゐのおくやま けふこえて …有為の奥山 今日越えて
あさきゆめみし ゑひもせす …浅き夢見し 酔ひもせず
なんかところどころに馴染みの薄い仮名が混じってるけど、サティの祖父母の世代までなら「ゐ」や「ゑ」の文字を使った名前の方も確かに存在した。そういえばサティの幼少期に隣家のオバサンは表札上の表記は「なみゑ」で、サティはずっと「なみる」さんだと信じていたっけな…
この「いろは歌」にはどことなく厭世的でもの悲しさを帯びた語調を感じてしまう。ちなみにこの文字列を七字区切りで表記し、以下のように各行の最後の文字を拾って読むと、「とかなくてしす」即ち「咎無くて死す」とも読めるという。
古文を研究するヒトはいろいろな区切りとか逆さ読みとかで出世のネタを考えるんだろうなぁ…
いろはにほへ「と」
ちりぬるをわ「か」
よたれそつね「な」
らむうゐのお「く」
やまけふこえ「て」
あさきゆめみ「し」
ゑひもせ 「す」
ちょっと最後の行は力技な気もするけどね… 47文字だから仕方ないか…
この「咎無くて死す」は「罪を犯すことなく生を終えた」という意味だという説もあれば、「(無実なのに)罪無くして自分は死なされるのだ」という「誰かから誰かに向けた遺文暗号」だと解釈する説もあって… いやぁ、おヒマですなぁ
ただ、おヒマを持て余した往時の「貴族」とやらはこういう言の葉遊びに興じたようで… えっと古文の授業で習ったぞ… なんだっけ、あ、「米なんとか、銭少し」だった。
調べてみました。
AIによると、
”「よねはなし、銭少し」は、兼好法師と頓阿法師がやりとりした折り句の一節です。兼好法師が「よね(米)給え」「銭も欲し」と頼んだのに対し、頓阿法師が「よね(米)はなし」「銭少し」と返したものです。兼好法師と頓阿法師の歌のやりとりは歴史に残る名作として知られています。
折り句とは、和歌の技法の一種で、言葉遊びの一種です。文章や詩の中に、別の意味を持つ言葉を織り込むことで、頼みにくいことを伝える遊び心があります。”
だそうでして…
うん、名作であることは仮に解ったとしても、こりゃ解読方法を別送しなきゃ気付かれないほどの手の混みようだな。
だって… その元詩がこれですぞ。
よもすずし ねざめのかりほ た枕も ま袖も秋に へだてなきかぜ
A B C D E
J I H G F
これが送信者の吉田兼好ね。
57577の語調の先頭AからEで、「よねたまへ」
後尾F~Jで、「ぜにもほし」か、なるほど。
しかし気付くかね、この凝り過ぎ暗号に… サティならあっさりすっきりスルーするよ。
それに頓阿法師が返したのが、
よるもうし ねたくわがせこ はてはこず なほざりにだに しばしとひませ
A B C D E
J I H G F
だそうですが…
まあ見事、と言っておきましょう。俺のコメやゼニを「取んな」、ってとこですかなね、頓阿法師だけに…
まどろっこしいのが「京風のブブ付け」に「教養」のスパイスを利かせたようで、とうてい好きにはなれませんな、ははは。わたしは庶民で充分結構でございます。
ああ、⑨の替え歌まで書きたかったのに…
また余計な話ばっかりで書き損ねてしまったけど、明日朝は早いので今宵はここまでといたしまする。
みなさま、おやすみなさいませ。




