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第54部分 臥薪嘗胆(がしんしょうたん)

第54部分 臥薪嘗胆がしんしょうたん


首領、とう 金平こんぺいのいう「広く長い目」というのは、糖が書記長を務め、事実上独裁している央華人民共和国の国民性でもある。彼らは面子めんつを重んじ、自身の1代よりも数代の家系で物事の損益や成否を考えようとする性格を持っている。


いささか悪い例を出してみよう。

昔々のホワ国の王が死ねば、当然ながら豪奢ごうしゃを極めた墓に入ることになっていた。そしてそれはいざ必要な時に間に合うように生前からコツコツと造っておく必要がある。極秘のうちに土地を確保し、嘘っぱちの名目で地元民を使役しえきしながら造営していくことになるが、気付く者はやがてその本当の目的に気付いてしまう。するとその集落を巻き込みつつその未来の墓所からはるか離れた場所に一庵いちあんを作るのだ。


目的は何か… むろんそこから墓所に向かって坑道を穿うがっていくことである。おそらくその知恵者1代では王墓には届くまい… そんな遠い場所である。その息子の世代でも無理かもしれないが、いつかは届く。届いてしまえば副葬品の宝石や金銀財宝や朱(水銀)は一族や集落のモノになる。ただしこうした盗掘がいつもうまくいくとは限らない。政権側に気付かれたり裏切者に密告されたり、場合によっては造営関係者のほぼ全員が殉死という名目で秘密を守るために消されたりするリスクもあるのだから、地元民とも政権側とも虚々実々… いや虚々虚々虚々虚々虚々(きょきょきょきょきょきょ)とも言うべき駆け引きを成功させていかねばならないワケだ。

こうした発想と子々孫々(ししそんぞん)に渉る行動力は、遠くエジプトあたりのピラミッドの副葬品を狙った盗掘者とよく似ている性格だと言えるだろう。

そしてこういう思考系統こそが、一朝一夕に結果を求め、性急に物事を進めようとする和人にほんじんとは決定的に異なる民族的性格だと言えるのだろう。


今の尖閣せんかく諸島、すなわち日本の領土を強奪せんとする計画を廻る状況を日本人はこう考えている。

『華国はあつかましい。天然ガスや石油が出る可能性がわかった途端に華国は領有権を主張しだしたし、近頃は接続海域まで入ったり出たりするようになった。いやいやときどき領海侵犯までしているんだって… 最近では砲を装備した艦艇まで派遣してくるようになっている。いつの間にか航空母艦まで持ってるし、よっぽど尖閣諸島がほしいんだな』


しかし… 尖閣諸島などは華国にとっての真の狙いではない。

『そうさ台湾だろ、知ってるよ』 

いやそれでも読みが浅すぎる。

『えっ、じゃあ沖縄?』

いや、まだまだだ。


この辺の思考は犯罪や推理小説の心理戦と似ているところがあるようだ。

どういうことで誰がどんな損をするのか。

逆に誰がどんな得をするのか。


そう、尖閣諸島から考えるからわかりにくいのだ。


華国が好き放題にふるまおうとするとき、もっとも邪魔な国はどこか。

それは美国アメリカであり、これに疑問の余地はない。


人権だ、航海の自由だのと華国の目の前の海を我が物顔に「第七艦隊」なる巨大な戦力を展開して、正義面していちいち注文を付けてくる。そもそも蒋介石しょうかいせき率いる中華民国(台湾)が台湾海峡を渡って逃れたときに中国共産党の八路はちろ軍が追撃できなかった理由は、美国が台湾海峡に第七艦隊をズラリと並べたからだったではないか。さらに十年ほど前にもアメリカの武力による威嚇いかくに屈せざるを得なかった苦い歴史があったではないか。

あれを教訓に、そのわだちを踏むまいとギリギリと歯ぎしりを繰り返しつつ臥薪嘗胆がしんしょうたんを積み重ねてようやく今日こんにち辿たどり着いたのだ。


臥薪嘗胆とは古き中国の書「春秋戦略」にある次のエピソードに由来する故事成語である。


時は春秋時代、呉王の闔呂こうりょは越王の勾践こうせんに敗れて戦死、さらに。闔呂の息子である夫差ふさは越王の奴婢ぬひ、つまり奴隷として働き、賄賂わいろを部下から贈らせた甲斐あってやがて許されるが、その間にも父の仇を忘れないように固いたきぎの上にして眠り、食事ごとに熊の肝をめたという。まきの上に寝れば痛いし熊の胆嚢たんのうは苦い。その痛みや苦みで復讐の志を忘れないようしたのだ。

結果を見ると見事、三年後に会稽かいけい山で勾践を降伏させたが、このときは夫差は勾践の助命嘆願を許さなかったという… 当然だろな、うん。つまりもともと臥薪嘗胆とは「自身を苦しめることで復讐の志を奮い立たせること」を表していたのだが、現代ではそれが転じて、「目的を達成するために苦心し努力を重ねる」といった意味で用いられているワケだ。


華国の立場もまた同様である。あれから惨憺さんたんたる思いで人民を搾取さくしゅし、他国への合法・非合法的活動まやくみつばい などで資金を集め、いまようやく航空母艦3隻に極超音速ミサイルを備え、美国の武力に対抗する手段を持つことを得た。それだけでなく美国の国債を大量に購入し、報道各社に多数のシンパを養成し、大小さまざまな企業の管理職を操り、ユダヤ資本や華僑かきょうと結び、多数の工作員とスリーパーを潜ませて… ようやくあなどられないだけの発言力を有するに至ったのだ。


「そのとおりだよ、ふふふ… まあその辺がせこい要求を繰り替えす乞食癇国家とは違うんだけどね。長い目で実力を積み上げるのが我々華国のやり方で… そして我が意思を世界と協調しながら【民主的に】反映させていくだけさ。ああ…でもひとつ、これだけはしっかり言っておきたい。我々は美国を邪魔な敵などとは思ってなどいない。仲良く共生すべき相棒だよ」

そう糖首領はコメントするだろう。

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