第102部分 異類婚姻譚④
第102部分 異類婚姻譚④
えっと…
そうそう、「ヘビさんがニンゲンに変身て来るのってのは意外に難題」であることに気付いてしまったところだった。
私が希っているのは、助けた動物さんが暮夜密かに訪ねてくることである。このあとの展開は、まあ状況次第だろうし、先方の「器量」にも影響されるかもしれない。
まあ贅沢でない程度に願望を述べるならば、若くて美しくて性格も可愛かったりして、できれば機織りなんかの特技なんかもあったら素晴らしいかな。それを言うなら老人で不細工で性格捻曲な貴方はどうなんだよ、という大声も聞こえてくるが、そこんとこは敢えて聞き取れないので御勘弁ね。
まあまあそう怒らないで… 世の中の男性の需要の9割以上はなぜか10~20代の綺麗でかわゆい女性で、ついでに胸が目立つ女性に集中するのだから… だって脳以前に魅力的に見えるんだもん、仕方ないじゃん。そしてそれは私も【胸を除いては】例外ではない…ということ。
ここまでを前提としたうえで改めて異類婚姻譚を考えてみよう。
これでやっと本題に入ったか…
異類婚姻譚とは異なる種類の存在と人間とが結婚する説話の総称である。広く世界的に分布し、日本においても多く見られる説話類型である、という。なお一部には「神婚と異類婚姻」とに分離できるとする見方や、逆に異常誕生譚をも広く同類型としてとらえる考え方もあるのだそうだ。
ただ… 現実のハードルは最高峰と言えるほどに高い。まてまて、難易度から言うとエベレストよりK2峰やカイラス山の方かな… とにかく現実的には不可能なんじゃないかと思えるレベルの準備と技術と知識と注意力等が必須なのだ。
想定される異類の組合せは以下の2通りしかない。それは
⑴ ニンゲン♂(オス) × 異類♀(メス)
⑵ ニンゲン♀(メス) × 異類♂(オス)
である。
日本で「化ける」とされてきた生物は狸、狐、猫、蛇、蜘蛛あたりが典型的であり牛、馬、豚と猪、鼠、熊、穴熊にハクビシンさらに犬などにはそういう傾向が少ないようだ。また蛇と同じ爬虫類でありながらも蜥蜴や家守などはとんと見ることがない。
さらに代表的であるはずの狸、狐たちは枯れ葉を頭に載せる等の「術を用いて化け」せいぜい酔っ払いのニンゲンをダマしたりする程度で、まあ底のしれた可愛い化け方であることが多いようだ。この場合だって尾が見えてしまったりしてそれが御愛嬌にもなっている。
もはや妖怪の域になってしまうが「九尾の狐」や「肥前の化け猫」騒動なんてオドロオドロしいものもあるにはあるけど、相手を騙し操る手段としての性行為は当然伴うものの、出産や子育てまでに至るものは稀な気がするのだが…
なお、この場合の異類とは、必ずしも実在の生物とは限らないものとするのが通説で、要するにニンゲン以外なら何でも範疇に含めて良いようだ。例えば…龍とか人魚、他には上記の「九尾の狐」や「化け猫」、志那の伝説なんかだと「黒魚の変化」なんかも登場する。アフリカに棲んでいる「キリン」すなわち「ジラフ」ではない方の、つまり想像上の「麒麟」とかもキャラとしては魅力的だけど、「麒麟」との婚姻譚は寡聞にして聞いたことがない。
ちなみに「キリンビ-ル」のキリンはラベルを見る限り「麒麟」であることが明らかであるが、あの「麒麟」のキャラクターの画の中に「キ リ ン」の3文字が小さく紛れているのとかを捜すのもなんかくだらなくて楽しい。ヒントを言うと… 麒麟の上半分、目のやや後ろのあたりからタテガミ、さらに尾にかけて「キ リ ン」のカタカナが順に並んでいる。なお「リ」の文字は横に傾いてるので見落としがち要注意ですな。
「隠れミッキー」なんかは実は単純な意匠であるためにちょいと〇の数と位置を調整すれば「パレイドリア現象」で”それらしく”見えてしまうワケだが… ちなみに「パレイドリア現象」とは、無意味な図形やパターンが、顔や動物など、既知の対象に見えてしまうような心理現象のことを指す。例えば、ちょっとした雲の形の中に目や鼻や耳や口などを連想して人や動物の顔や形らしきものが見えたりするような経験はなかっただろうか。月の中に「杵を持ったウサギ」がいるのはとても有名な話だが、国や地域によっては同じ模様が「カニ」の姿や「少女の顔」だと解釈されるのも興味深い。
まあそれを言うなら星座なんかは典型的を通り越して行き過ぎのレベルまで昇華されたパレイドリア現象の例だろう。まあ「オリオン」とか「北斗七星」、さらに実利的な意味で「北極星」や南十字星とかが大切なのは理解できる。しかし「顕微鏡座」とか「化けクジラ」、果ては「髪の毛座」なんて、ギリシア神話以外何にメリットがあるんだ?
地球から見れば一見意味ありげな形であっても、それぞれの星や銀河が各自勝手に宇宙の中心から外縁に向かってほぼ光速、すなわち1秒あたり約30万kmもの速度で3次元的に散っていく最中の銀河や星団なのである。つまり星座を構成させられている星や銀河はもともと無縁だし、たまたま地球から見た方向が類似していた…というだけの、ほぼ無関係な他人同士で互いの距離さえもマチマチ。しかもその光の多くは数億年、数十億年前に放出された光であり、いまこの瞬間にはすでに実在しない星かもしれないワケだ。太陽から地球に届きたての光でさえ実際は8分20秒ほど前に発せられたものであり、近傍の月の輝きは8分20秒前の光がさらに月面で反射されてから1秒少々掛かって我らの目に届いたものである。
「星座」と言う概念は地球から「たまたま平面的に並んで見える光をパレイドリア現象的になぞらえた形」であり、こういった立体的奥行的な概念がスポッと抜け落ちているワケで… そう思うと、昔の方々はいざ知らず、少なくとも科学的知識を持った現代人にとって占星術なんてものは迷信以外の何物でもない。何億年前の光が、ちっぽけな地球でつい数十年前に生誕したよりちっぽけなアナタの運命を… まあこれ以上は「言わぬが華」というアレですな。
もう言っちゃったようなものだけど、鰯の頭の信心からって言うからな…
アタマがハゲてるからってわけじゃないけど、貶しついでに書いてしまうと、科学的な態度ってのは基本「帰納的」、すなわち多くの事実を材料にして原理心理を導く態度が重要であり、演繹的にいきなり決めつけてしまうこと控えるべきだ。これは「いけない」と言っているワケではなく、データがないまたは極めて得難くて帰納的な手段が当てはめられないケースでは演繹的に仮説を立て、それを帰納的に検証していけば良いのである。近年および今後の物理学なんかは通常身近な物理現象とはあまりにも乖離しすぎてもはや理解不可解であるが、とりあえず仮説先行で理論を創ったら、あとはていねいにデータを集め帰納的に検証していけば良いだけの話しだ。占星術には帰納的な証拠など何一つない。
おっと興奮して… で、何だっけ(焦)…?
そうだ、「ニンゲンに変身て来るのってのは意外に難題」ってことだったっけ。
ちょっとヘビさんは措いといて、有名な「鶴の恩返し」を例にとって考えてみよう。
若者(♂)が罠に掛かった鶴を助けた、すべてはここから始まる。
当時ツルは食用にもされていた。「ツルの吸い物」とか、かつての料理記録にはちゃんと記載がある。宮廷料理人は長すぎるように見える儀式用の包丁や菜箸を使って作法通りにコイやスッポン、ツルなどを調理したものらしい。
あのとき若者(♂)が
「ラッキー」
って英語じゃないわ、
「これは幸い」
とツルを横取り(罠を仕掛けたニンゲンから)するとか、罠の主に「掛かってたよ」と連絡すればこの物語は始まる前に完結する。若者(♂)は腹が減っていなかったのか生活に困窮していなかったのかは判らないが結果的にツルは助命放免されて空を舞ってどこかに行くのだが…
あとで若者の家を訪ねることから考えると、このツルはあらかじめ若者(♂)の家を知っていたか、または帰途を尾行して突き止めたことになる。
ところで… 若者の家がどんな場所にあったかについての言及はない。よく見る童話集なんかだとのどかな里山が舞台になっていることが多いが、ツルがあんなところで採餌したりほっつき歩いているものだろうか。
ツルの生息地はタンチョウヅルから連想できるように基本水辺や湿原であり、採餌や繁殖も同様な場所で営まれる。巣は地べたに草を主材として皿形や円形積み重ねたもので、直径1メートル以上、高さ60センチメートルになることもあるという。それは良い。
ところで…
主人公たるツル(♀)は本当にツルだったのだろうか。なんか紛らわしい言い方だが、私が疑義を呈するのは「本当は別の鳥だったんじゃないか」という、なんか話の根本を覆すようなことだ。
そう、当時の田んぼあたり、すなわち里山の環境に馴染むのはむしろ「鸛だったんじゃないか」という疑問である。コウノトリの巣はアカマツ等の大木の枝が交差するあたりに枝を組み合わせて作られる直径約2メートルにも及ぶような大きなもの。日本産のコウノトリは1971年にいったん野生絶滅したが、今は中国産の同種を兵庫県で繁殖させて野生に戻す試みが成功したため、数は少ないながらもしばしば全国的に観察されることも報告されている。コウノトリの生態は佐渡島の朱鷺とよく似ており、里山のニンゲンとある程度の関係を持ちながらの方が生きていきやすうだった鳥であるが、両種共に繁殖に必要なのが大きな木。これは現代社会ではなかなかの贅沢な難題である。さらにドジョウやタニシ、その他昆虫などのエサが農薬で壊滅的な打撃を受け、今では共存どころかとても珍しい存在に「ニンゲンによって仕向けられた」鳥類である。
ちょっと両種の特徴を比較してみよう。
【ツル】
・ツルは棲息繁殖共に湿原で一夫一妻制。一度ペアになると生涯を共にする傾向(浮気難)にある。
それから連想すると、恩返しのツルは家庭をもっていなかった… すなわち処女だった可能性が髙い。
・雑食性で、植物の種子や昆虫などを食べる。ニンゲンとは餌付けを除いて親密な関係にはない。
・外見の特徴は… 日本に棲む…または飛来するツルの多くはタンチョウヅル、ナベヅル、マナヅルであり、
実は後者2種の羽根の色は多くの部分が灰色であるのに対してタンチョウヅルは基本白色。ゆえに
後に販売用に「輝くような布」を織り上げたのは例のツルはタンチョウヅルだと比定することができる。
しかし… ちょっと待って! タンチョウヅルが棲息するのは現在の日本では北海道しかないはず。
とすると… えっ? ってなりませんか?
江戸時代ですら主に棲んでいた方々はアイヌだし、江戸時代中期くらいまでの松前藩は漁獲メインで、
基本米作はしていなかったはず。米は本土から輸入してたんだから。(←司馬さんの「菜の花の沖」からの知識)
とすると… 物語は根底から覆ってしまいそうな…
まあ昔の話しだからって妥協しても良いけど、なんかしっくりこないなあ。
・タンチョウヅルの全身は白く、翼と尾羽は黒、頭頂部は赤い皮膚が裸出(それが丹頂の由来)
体長は約140cm、翼を広げると約240cmにもなり、体重:約7~10kg程度。
・生態や形態はトキというよりサギに類似するが、ツルは飛行時に首を伸ばしサギは曲げる。
蛇足ながら、以前秀逸な「詐欺被害防止」のポスターを見掛けたので紹介しておこう。
白い羽毛で首が長く、クチバシだけが黄色い鳥が電話を掛けている、そんな場面だ。
そしてこの鳥が「オレオレ、ツルだけど…」と話しているシーン。
その下に「サギです!!」との注意書き。
確かに、ツルのクチバシは黄色くない… とするとこの鳥はダイサギだろう。
コサギのクチバシは黒いけど、体長が約60cm、翼を広げて約1m程度で、ツルとは大きさが全く異なる。
さらい蛇足ながら、学問的にはシラサギという和名の鳥は存在しない… 特急電車はあるけどね。
【コウノトリ】
・コウノトリは…水田、湿地、河川などを好んで棲息するが繁殖は人里近くの大木の上。
・魚類、カエル、ネズミ、貝類、昆虫などを食べる。特にペアについての言及なし(浮気可?)
・全身は白く、翼の先端と風切羽は黒。くちばしは黒色で長く太い。足と目の周囲は赤色。
体重は3~5kg程度で全長約110~115cm、翼を広げると約2メートル。
声帯がなくて鳴けない代わりにクチバシをカタカタと打ち鳴らす「クラッタリング」をおこなう。
その意味でも朱鷺や「動かない鳥」として有名なハシビロコウはコウノトリの仲間。
ちなみにトキは漢字のとおり朱色…トキ色をしているので容易に見分けがつく。
こうして比較するとサティが疑問を感じるのも察していただけるように思うが…いかがでしょうか。
またまた興奮して… で、本論は何だったっけ??(苦笑)
ひとまずツルの恩返しも措いといて… まったく幾つ措いといたら気が済むんだい?
ちゃんと筋道を計画してから書かないからこういうことになるんだよね。
で…