数日後、金曜日
けーちゃんと付き合うことになった日から四日がたった、金曜日の朝。私はいつも通りけーちゃんと一緒に学校に行くためにけーちゃんの家に来ていた。チャイムを鳴らす。しばらくすると、磨りガラスがはめられた玄関扉の向こうにゆっくりとこちらに向かってくる人影が見えた。そして玄関が開く。
「おはよう美緒」
「おはようけーちゃん!」
いつも通り挨拶をする。付き合うことになったとはいえ、普段の生活はほとんどかわらない。もともと二人で行動してきたんだから当然といえば当然ではある。毎日けーちゃんの家に寄ってから学校に行くというのも前からやっていたことだ。だけど変わったこともある。今の通学中にもささやかだが変化はあった。私はいつも通りけーちゃんの手を握る。これまではこの時、握手をするような感じで普通に握っていたのだが、今はお互いの指と指を絡めた恋人つなぎになっていた。これは付き合うことになった次の日にけーちゃんから提案された。恋人同士になったのに手のつなぎ方がこれまで通りでいいのかと言われたのだ。案外積極的なけーちゃんに正直私は驚いたが、同時にすごくうれしかった。どんなことも興味なさそうでそっけなかったけーちゃんが、言ってしまえば自分から恋人つなぎをしたいと言ってくれたのだから。その日はうれしすぎて、腕を組み身を寄せて登校したが、次の日からは恋人つなぎで登校するようになった。
「むふふ」
「どうしたの、気持ち悪いけど」
「あ、ごめんごめん!けーちゃんから恋人つなぎをしたいって言ってくれたのがうれしかったなって思って!」
「別に恋人つなぎしようって言ったわけじゃないし」
「あれ、そうだったっけ?まあ同じようなこと言ってたしいーじゃん!」
思わず気持ち悪い笑い声が漏れてしまったが、照れて不貞腐れてしまったけーちゃんを見れたのでヨシだ。けーちゃんは頬を少し赤くしてそっぽを向いている。かわいくてついいじりたくなる。
「えいっ」
けーちゃんの頬をつんとつついた。
「やめてよね。怒るよ」
「ご、ごめんて。でもさ、けーちゃんからああいうこと言ってくれたのはほんとにうれしかったんだよねー」
「・・・」
「普段そっけないし、恋人らしいこともあんまり興味ないかなーって思ってたから、けーちゃんから求められて私はうれしいよ」
「変な言い方やめて」
「あれ、照れてる?照れてる?」
「・・・怒った」
そんな話をしながら今日も学校に向かう。
学校では、朝礼、授業、お昼休みといつも通りの時間が流れる。けーちゃんと私もいつも通り、つまり付き合う前と同じような感じで学校では過ごしている。けーちゃんと私が付き合ってることはお母さん以外の人には話していない。離島という狭いコミュニティだと、色恋沙汰の話はすぐ広まる。同性ともなればよっぽどだろう。そうなれば嫌悪されることはないにしろ、異色の目でみられることは簡単に予想できる。それが嫌だったからなるべく人の目があるところではいつも通り過ごし、付き合っていることも話さないようにしようと、けーちゃんと話し合っていた。
「学校ではあんまりけーちゃんといちゃいちゃできないからさみしいな~」
お昼休み、私とけーちゃんだけになった教室で駄弁る。机を挟んで向かい合って座っていた。けーちゃんは本を読みながら返事をする。
「家でさんざんくっついてくるんだからいーでしょ」
「そうだけどー」
私は本に目を落とし下を向いているけーちゃんの頭をなでりなでりと撫でる。しばらく撫でていると、けーちゃんがちらりとこちらを見て、
「私、美緒に頭撫でられるの好きなんだよね。ぽかぽかして安心する」
といった。
「ふぅん、うれしいこと言ってくれるじゃん!」
めずらしくけーちゃんから好きといわれて心底嬉しくなる。けーちゃん好き好きメーターが振り切れた私は、椅子をけーちゃんの横にもっていき、ぴたりとくっついて座った。
「けーちゃん!」
「ん?」
「ちゅっ!」
呼びかけにこたえてこちらを見たけーちゃんに軽くキスをする。けーちゃんは少し驚きながらも、また本を読み始める。
「そんなことして、人が来ても知らないよ」
「でもうれしかったでしょ?」
「・・・」
無言で頬を少し赤らめるけーちゃんを見て胸がきゅんきゅんとする。なるべく外ではこれまで通りすごそうと言い出したのはわたしだけど、けーちゃんを見ているとどうしても我慢できなくなるのだ。けーちゃんもけーちゃんで、全然いやそうにしたり拒否したりしないから、このままでは本当にいつか誰かにばれるかもしれないと内心思う。何度もそう思うが、かわいいけーちゃんを目前にするとすぐ忘れてしまう。きをつけないと。
「あーあ、早く学校終わんないかな~」
そう言いながら、残りのお昼休みを過ごし、午後の授業に臨むのだった。
私が実際に離島に住んでいるので、リアルな事情やデート風景などをかけていけたらいいなと思っています。