お昼ご飯、そのあとで
それからしばらくして落ち着いてきた私たちは、ほぼ裸の状態だったことに気づき急いで着替え、お昼ご飯を食べるために下の階に降りて行った。リビングの机の上にはすでに焼きそばが準備されていて、けーちゃんのお母さんがテレビを見ながら待っていた。
「もう、遅かったじゃない。冷める前にたべちゃいなさい。あら?美緒ちゃんなんだか目が赤いけど大丈夫?」
「だ、大丈夫大丈夫!ごめんなさい遅くなっちゃって!わーおいしそうな焼きそば!いただきまーす!」
「いただきまーす」
勢いでごまかし、焼きそばを食べ始める。するとけーちゃんがいきなり、
「ねぇお母さん、私美緒と付き合うことになったから」
と言った。私は思わず食べる手を止めけーちゃんのほうを見る。
「け、けーちゃん・・・?」
「隠れて付き合うより堂々としてたほうが気が楽でしょ」
確かにそうかもしれないけど、女の子同士だし、もう少し慎重になったほうがいいんじゃないか。けーちゃんのお母さんはどう思うんだろう。もし反対されたらどうしよう。せっかく恋人になれたんだし、お母さんにも認めてもらいたいけど。しかし、私の思いとは裏腹に、
「あらーそうなの!それで二人ともいつもと違う雰囲気だったのね!めでたいわね~!」
と喜んでいた。その様子を見て私は一安心する。
「美緒ちゃん、これからもけーちゃんのことをよろしくね」
「は、はい・・・あの、ありがとうございます」
顔が真っ赤になっているのを感じながら、お昼ご飯をせかせかと食べ終えた。
「ごちそうさま!けーちゃん、私先に部屋行ってるから!」
そう言って食器を片付け、部屋に急いだ。
「あらあら、照れちゃってかわいいわね~」
「うん」
「よかったわね、美緒ちゃんと両想いで」
「うん」
「あらなにけーちゃん、照れてるの?顔が真っ赤じゃない!」
「ごちそうさま」
「けーちゃん、お母さんは応援してるからねー!」
部屋でけーちゃんが来るのを待っていると、けーちゃんのお母さんの照れくさくなる応援メッセージが聞こえてきたあと、けーちゃんが入ってきた。ベッドの横で体育座りをしていた私の横にけーちゃんも座る。
「おまたせ、美緒。やっぱりお母さんに言うんじゃなかったな」
「でも、応援してくれてるみたいだしいいんじゃない?」
「まあそうだね」
二人で短く笑った。
「それにしてもけーちゃんと付き合うことになるなんてなぁ」
「美緒がもっと早く告白してくれていればずっと前から付き合えたのに」
「じゃあ私たちずっと両想いだったんだ。だとすると、関係性はそんなに変わらないのかな」
私がそう言うと、けーちゃんはこちらを向きおもむろに右手を伸ばした。その手が私の頬に触れる。さらりとした、そしてあったかい感覚が私の顔の左を覆う。鼓動が高鳴るのがわかる。けーちゃんは私に触れている手をゆっくりと動かし、顔を撫でる。私は目を瞑り、甘えるようにすりすりと顔を動かす。胸のあたりが、甘い、ふわふわとしたもので満たされていく。しばらくするとけーちゃんは手を動かすことをやめた。私が目を開けると、けーちゃんとぱっちり目が合う。
「これでも、何も変わってないと思う?」
けーちゃんが私の胸の高鳴りを読み取ったかのようにそう聞いた。私は無言のまま、目線で答えを返す。自分の顔がだらしなく蕩けているのがわかる。けーちゃんの手が、私の顔を伝い首の後ろにまわされた。気づけば、どちらからともなく顔が近づいていく。お互いに目を閉じる。けーちゃんの静かな息遣いが聞こえた。そして次の瞬間には、お互いの唇が触れ合っていた。ふんわりと柔らかく、吸い付くようだった。さっきまで胸のあたりにあったふわふわとしたものはどこかへ吹き飛び、熱く、吹き出す火山のような激しい気持ちが暴れている。しかしその気持ちも甘く、心地いい。これも幸せという感情のひとつなんだと気付く。頭のてっぺんから爪の先まで幸せで満たされている。そして、何時間とも感じたキスから唇を離し、けーちゃんの顔を見る。けーちゃんも私の顔を見ていた。
「けーちゃん、すき・・・」
「私も好きだよ、美緒」
ファーストキスだった。相手がけーちゃんだったことがとても幸せ。半分諦めていた。女の子同士でつきあうことなんてできないと思っていた。でも今こうしてけーちゃんとキスをした。泣きそうになる。うれしかった。
「なんか、焼きそばの風味がしたね。やっぱり昼ご飯のすぐあとだからかな」
唐突にけーちゃんが言った。雰囲気もなにもない、素直すぎる言葉に私は思わず笑ってしまった。
「あはっ、けーちゃんムードなさすぎ!あはは!」
「ごめんごめん、それじゃドラマみよっか」
「もー、あっさりしてるなぁけーちゃんは」
けーちゃんと私の、お昼のデートがようやく始まった。
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