入国審査
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通行証を持っていないため、あのパーティーとは別行動をした。今現在、詰め所で書類を提出されたのだが……。
何を書いているのか分からない。
言語理解っていうスキルがあるらしいから、てっきり読めると思ったんだけど。
セカイ、どっこと?
……。まだ、調べ物をしてるのか?
言葉は理解できることから、スキルにもレベルがあるのか。
「すみません。文字が読めなくて」
そういうと門兵は、不思議そうな顔をせず、「なら口頭で」と言われた。
この世界での識字率はそれほど高くないようだ。
様々な質問がされた。
「入国した目的は?」
「出身地は?」
「名前は?」
等々。目的とかは最悪嘘つけるが、出身地なんて分かりはしない。
少しずつ言葉に詰まっていく俺に、門兵は訝しげな目を向けた。
「悪いが、これでは通すわけにはいかんな」
そう言われた時、毛深いおっさんが詰め所に入ってきた。
「彼は怪しいものではない。見ず知らずの私達を助けてくれた」
こいつ誰だ、と一瞬怪しむが思い出す。確かあの馬車の御者だ。
「ふーむ、兄貴が言うなら俺は疑わないが……門兵としては認めれないな」
どうやらこの門兵と、御者は兄弟らしい。
うん全然似てない。
「どうするか。何か身分を証明出来るものがあればいいんだが。何か無いか?民族特有のお守りとか」
「ないです」
つい今日転生させられたんだ。そんなもの用意できない。
「証明っていうか、服装は民族特有のものですがね」
「ふむ、相当変わった服装をしているな」
門兵が俺の服を触り、考える素振りを見せた。
「素材もものすごく上等のものだ。使われる技術もすごい」
大絶賛ですよ、日本の皆さん。未発達な世界において、地球の技術はオーバーテクノロジーなのだろう。
「そうでしょうそうでしょう、……うお!」
俺は若干得意になりながら、肯定すると、俺のズボンに手を掛ける門兵。
「あの……何をしているんですか」
「中がどういう構造になっているのか見たい。知的好奇心だ」
男のストリップショーとか誰得だよ。こういうのは女子にやれ。もっとも豚小屋にぶちこまれると思うけどな。
俺は全力で抵抗した。
「止めてください!」
「ん……ハッ!すまない。知的好奇心が爆発したようだ」
門兵は頭を下げ、反省の意を表した。
悪い人じゃないけど、発火するような人らしい。
門兵は片足をつくと、慇懃に俺へと頭を垂れた。
そこまで礼を尽くさなくてもいいんだけどな。
「通行しても問題ありません!ユウト殿!」
もはや、どっかの貴族と接するような態度になってるんですけど。
悪い気はしないけど、流石に止めた方がいいか。
「あの、門兵さん?その態度はやりすぎと言うか、大げさですね」
「高貴なるお方には相応の態度をしなければいけません」
高貴なるって。中流家庭の長男ですが。カップラーメンで飯を済ます、健全男子ですが?
この服のせいか。オーバーテクノロジーだから金持ちと勘違いされたと。
「俺は高貴じゃありませんし、呼び捨てでも構いません」
「っは、分かりました」
こりゃ誤解解くのは時間かかるな。ま、もう会わないだろうしいいか。
俺は門兵から通行証を貰うと、詰め所から出た。
「弟が言っておりましたが、貴族じゃないのですか?」
俺についてきた御者が、敬語で聞いてくる。むさ苦しいおっさんが敬語で話し掛けてくれるのは新鮮だな。
「まさか、弟さんの勘違いですよ」
「よ、良かったぁ。もし、本当に貴族だったら、今頃私達の首は飛んでいるでしょうからね」
怖いことをさらりと言ってくれる。この世界の貴族はそんな認識なのか。近づかないようにしよう。
俺は密かに決めた。
「お、終わったのかい、ユウト」
中性的な青年が俺を見つけると走ってきた。
「どうしたんだ。なにか俺に用があったのか?」
「そうそう、君に分け前を渡すの忘れてたんだ」
分け前と言ったら、キマイラの討伐のか。
俺も一体倒した……とは言えないが、そのようなことをした。なら、分け前を貰うのは正当だ。
青年は甘い香りを振り撒きながら、俺にコインを渡した。
銀貨が4枚銅貨が6枚。
日本円に換算するとどれくらいになるのか。
「じゃ、僕はこれで」
青年はそういうと、いずこへ走り去っていった。
「私も仕事があるのでこれで」
御者も会釈をし、門側にノシノシ歩いた。
これで完全に一人になったわけだ。
新天地。今日この時、この瞬間からここで暮らしていく。
は収入の安定。
最終目標は二人揃って帰る!
そしてリア充ライフを満喫してやる!