世界の知恵
『……え、えっと?恐怖耐性レベル一を獲得した……よ?』
えらい棒読みで、なにやら頭の痛いことをいっている。
誰だ?……聞き覚えがあるが。
俺は周囲を見渡す。何事もないかのように佇む処刑人。
この声が聞こえているのは俺だけなのか?
エコーが掛かったように聞こえるのは、そのせいか?
『って……ええ?どういう状況?』
声が驚きに満ちた悲鳴を上げると、俺に問うた。
どういう状況もこういう状況だよ。
あんた何者だ?
『ひ、ひどいよ……ユウト君。頑張って探してきたのにさ』
そんなストーカーみたいに言われても。ってかやけに聞き覚えがあるというか。
つい最近、どこかでしゃべったか?
『うん、しゃべったよ。忘れたの……?』
あーあ。悪い。マジで分からない。俺の知り合いに頭の中で会話できるやつはいないから。
超能力者?
何で別世界なのに会話できるの?
『私……勇気だしたのに。ユウト君に告白したじゃん!』
………………………………ほへ?
え、ちょと、はい?
君って俺に告白してきた……ええっと名前は。
『……あ、そっか。私がこうなっちゃったから、名前が失われたのかな。世界の知恵とでも……いやでも可愛くないし』
呼び名なんて何でもいいだろう。
世界の知恵。君は何で俺の頭に会話できるように……。
『……ああ !そんなことを言っている場合じゃないよ。この状況。ユウト君、このままじゃ死ぬよ?』
まあ冥土の見上げって考えておくさ。最後に君と会話ができて良かったよ。
『なに言ってるの、ユウト君!まだ生き残れる可能性があるよ』
な……に。それはどんな?
君が助けてくれるとか、か。男として恥ずかしいけど、ありがたい。
『私も伝えないといけないけど。結局はユウト君自身の力なんだよ?
私は直接干渉できないし……。歯がゆいけど』
俺の力か。見えるようで見えない、曖昧な言葉だな。
『んーんと、んーんと、あった。ユウト君のユニークスキルは……?』
ユニークスキルってあれか。ユニークなあれか。でもさっき試した時、ステータス表なんて出なかったぞ?
ってか、何でそんなことが分かる。それ以前にこの世界に来てたのか!?
『私はユウト君の世界の知恵だから、調べられるの』
さっきも言ってたな。世界の知恵って。俺のスキルがわかるという発言を考えると…… 。
お前……まさか!
『転移、言語理解、完全記憶能力』
転移だって?これだったら、逃げれる。
『転移は座標を設定しなきゃ駄目みたい。派生のランダムテレポートに賭けるしか』
ランダム……。運が悪かったら大空やら、海やらにテレポートしそうだな。
……けど、僅かでも可能性が残っているなら、賭けてみたいって思うのが、人情だろ?
その感情によってどれだけの人が、ギャンブルに金を巻き取られたことか……。
それは置いといて。どうすれば発動できる?
『ランダムテレポートって念じれば、発動できるよ!』
分かった。もし俺が生きてたら、君のこと教えてもらうからな。ええっと、世界の知恵……って呼びにくいな。
セカイ。
「即刻処刑せよ!」
ヒステリックな叫び声に、処刑人が応じる。
巨大な刃を下ろすため、端に掛けてあった紐をほどく
法則にしたがってかなりのスピードと共に、ギロチンが落下した。
「ランダムテレポート!」
その声と共に、俺はその空間から消え去った。
◇◇◇
転移後、俺が見た光景は、遠い大地だ。
「え、えええええ!」
俺は空に転移をした。慣性に従い、抵抗を受けながら、落下していく。
耳元でゴウゴウ音がし、風が目を乾かせる。
地面は目を凝らしてようやく見える。それだけ離れている。
とてもじゃないが、生存できない。
足元から着地したとしても、トマトが潰れるかのように全身がグッチャグッチャになる。
『もう一回、ランダムテレポートを!』
焦ったセカイの声が聞こえ、俺はハッとなった。
「ランダムテレポート!」
今度は地面に寝そべるように着地できた。俺はそのまま荒い息を吐き、セカイにお礼を言う。
「ありがと、はあはあ、うな。セカはあはあイ」
『怖い、怖い怖いよ!体ないけど、襲われそうで怖いよ!』
やっぱりそうなのか。あの召喚の時、何らかの事故があって、俺の中に閉じ込められた……のか?
『分かんないけど、多分そうかな?』
教えてくれ、何があった?
『ええっと、暗闇の中にいて……情報が流れ込んできて、そうしたらこんな場所にって、私も分かんないや』
ごめん。多分俺がセカイに抱きついたからだ。そのせいで事故が起こった。
『ううん、私ねあの時すごい不安だった。いきなりよく分からない現象が起こるんだもん。
でもね、ユウト君がいたおかげで、安心したんだ。それにユウト君がいなきゃ、訳わからない世界に一人でいたことになっちゃうしね』
……そうか。
『それにねぇ、この空間も図書館みたいで居心地良いよ?』
あ、案外セカイって大物だな。
『そうかな?でもこういう状況ってドキドキしない?』
そう思えるのがスゴいんだよなぁ。
『そ、それに、ユウト君とも話ができるようになったしね。そう考えると、チャンスだったり?』
はは……。まぁ俺はこの性格のせいで、積極的に話さないからな。
『わ、私は……?』
裏表のない奴に遠慮なんてしないよ。
『むぅ、バカにされてるようで、複雑。でも嬉しいな』
そっか、なら良かった。
……ち、ちなみにですね。私の過去とかも見れるのでしょうか?
『うーん、多分。ここにある本がすべてユウト君の過去のことだと思うよ』
見ないでください、お願いします。
『人のプライベートを詮索するような趣味してないよ』
良かった。悶絶ものの黒歴史や、アレやコレやがバレなくてほっとした。
『そんなに言われると、見たくなっちゃうな』
お婿にいけなくなるから止めて!
『えへへ~。そうなったら、私が貰うよ。まあ冗談だけどね』
顔が赤くなるようなこと言うな。遠慮ってもんを知ってくれ。
『こうなっちゃったからね。遠慮なんてする方がバカらしいっていうか』
そう……だよな。
『これからどうするの?』
方針を立てていこうか。俺も情報が錯乱してきてわけ分からない。
『じゃあ、始めよう!
第一回脳内会議を!』
俺が頭おかしいと思われるから、その会議名は止めてくれ。
端から聞けば、異常者そのものだぞ。
この度は拙作をお読みいただき、ありがとうございます。少しでも面白いと思ってくだされば、と思いこの作品を書きました。そのため、この作品が面白くないと判断すれば、打ち切ろうと思います。判断基準は二つです。
一つ。『十話までにブクマ30件』
二つ。『感想を一つ頂く』
あくまで目安なので、ブクマや評価によっては続けたいと思います。
最後までお付き合い頂けたらな、と思います。