告白されたって浮かれてたら異世界召喚された件について
────拝啓。この手紙読んでいるあなたは、どこで何をしているのでしょう。
十七の僕には誰も話せない、悩みの種があった……のです。
それをこいつらが、ぶち壊しにしてくれました。
さて突然ですが私、幸崎ユウトは、遥か異郷の地で死刑宣告されました。
私の頭上には、それはもうキレイに磨かれた刃が輝いています。心なしか、眩しいくらいに。
見物台で騒いでいる、デップリと太ったカエルみたいな男が原因です。顔を真っ赤にして怒っていますが、こちらも怒り心頭でございます。
ってか、マジでどうしてやろうか、あいつ。
す巻きにして玄関に飾ってやろうか。
ついでに「私は鬼畜でロクデナシです」って落書きしてやろうか。
その場合、鬼畜は俺になるけどな。
俺はため息を一つ、何でこうなったと憂いた。
◇◇◇
人生の最大の幸運ってのは、等しくあるらしい。
そう思ったのは、落ち葉舞う放課後の校舎裏だった。
俺の真正面には顔を紅葉色に染め、胸元をキュウと押さえた美少女が立っていた。
「もう一度、言ってくれるか?」
聞き間違いのないようにもう一度、と要求する。
俺は焦らない。デーテーじゃないからな。嘘です、ごめんなさいデーテーです。
「す、好きです。ユウト君!」
そう。学校一のマドンナと言われている美少女に、俺は告白されていた。
まったくもってなぜか分からない。
普段ろくに会話をしないせいで、スクールカースト底辺だし、アニオタだし、ヒキニートってバカにされているのが俺だ。
対して相手は、成績優秀、眉目秀麗を地でいくチートスペックの人物だ。
ゲームなら、途中参加で途中離脱する強キャラだ。アニメなら、絶対に主人公の味方にならないチートキャラだ。
そんな文字通り異次元の相手に、俺は告白されている。
マジで、どこでフラグを立てたか分からない。
こんな美少女を助けたとなれば、覚えているだろうに。 最重要事項として、海馬がタグ付けするだろうに。
可能性があるとすれば、何かの罰ゲームで俺に告白してきたとかだな。
その場合、近くでニヤニヤしているやつがいるはずだが。どこにもいないな。
試しに聞いてみようか。
「あの……何かの罰ゲームですかね」
「え……?」
美少女は何を言われたか理解できていない。その後、俺の言葉の意味が分かったのか、肩をプルプル震わした。
おお……う。怒ってらっしゃる。
「ひどいですユウト君。私はこんなにも本気なのに」
今度は泣きそうになっているな。
彼女の雰囲気を見た限り、本気と書いてマジと読むらしい。
だからこそ分からん。俺に好意を持つ意味が。
恋は理屈じゃないとはよく言うが、それは相手がイケメンに限ることだろう。一目惚れとかさ。
けど自慢じゃないが、俺の容姿は平々凡々ボンボン。
人様に誇れる特技はないし、休日はポテチを片手にゲームをしているやつだ。
「え、えっとごめん。俺なんかに告白なんて考えられないから」
「そ、そんなこと無いです!わ、私の本気証明します!」
何やら不穏な気配が漂った。俺は早々にこの話題を絶ち切ろうとしたが、遅かった。
美少女は目にも止まらぬ速さで、俺の首に手を回す。
そのまま顔を近づけ、キスをした。
ちょおおおおおお!んな!
温かい、柔らかい、いい匂いする!
コレガキッス、コレガカンジョウ。
お、落ち着け俺。ファーストキスが何だって言うんだ。ここは深呼吸。ってこの状態で息を荒々しく吐いちゃダメなんじゃ。
「ん」
美少女が離れ、太陽に染まった顔を俺に見せる。
俺も多分、同じような色になっているだろう。きっと夕日のせいだ。二人とも、だからな。
ハー、なんかすごいなこの子。胆力があるってか、妙に大物なんだなぁ。
これで、疑いようがなくなった。彼女は俺のことが好き……好きなんだよな。
「え、えっと。何で俺が好きになったか聞いても?」
「は、恥ずかしいです。
その……ぶっきらぼうに見えて優しい所だったり。頭がいいところだったり」
お褒めの言葉の連続に、俺の顔は真っ赤になったと思う。
何これ羞恥プレイかなにか?
「…………ダメ、ですか」
美少女の上目遣いが炸裂した。コウカバツグンだ。
この表情に絶えられる男はいるか?
いや、いない!断言しよう。
思えば苦労ばかりしてきた人生だ。
誰のせいかとは言えないが、家庭崩壊してしまい、敵意と疑心の嵐。
学校ではボッチになり、どこにも居場所がなかった。
もうそろそろ、報われてもいいんじゃないか?
俺は美少女の瞳を真っ直ぐ見つめる。澄んだ黒色だ。
不思議な瞳。色自体は平均的だが、惹き付けられる「何か」がある。
単純に彼女が美少女だからか、それとも別の要因があるのか。
分からない。
それを解明したいと思った。このくすぶるような気持ちを。
けど、好きとは多分違うと思う。そんな曖昧な状態で、彼女の覚悟を汚すのは違う。
口に出す言葉はもう決まった。
俺は一抹の覚悟を胸に、口を開こうとした。
────ザザザッザッザザアザザ。
壊れたテレビの音がし、両耳を押さえた。彼女の足元にキカガク模様が浮かび上がり、発光している。
不味い!
俺はなろうで得た知識を元に、この現象が何であるか理解していた。
異世界召喚。異世界トリップとも言われる現象だ。
「────さん!」
俺は大声で叫び、怯えて動けない彼女に咄嗟に抱きついた。
俺は側にいる。だから安心してくれ。
そう言い掛けた時、地面の光は目が潰れるほど瞬いた。
俺の意識はそこで途切れた。