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少年よ、武器を取れ  作者: もみ揚げ
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第一章 僕らの日常

初めての投稿です。拙い文章ですが、読んでもらえると嬉しいです。

第一章 僕らの日常


季節は四月。まだ冬の寒さが感じられるほど肌寒い登校初日の朝、茅野宗也は学校への道を歩いていた。周りには同じ制服を着て歩いている者や、何やら楽しそうに談笑している近所の主婦の姿もある。

時折冷たい風が宗也の顔を直撃し、思わず眉をひそめた。

「もう二年か・・・」

 そう呟くと、鞄の中から携帯電話を取り出して時間を確認した。

「っと、もうこんな時間か」

 寒さのせいで重くなっていた足取りで歩きながら茅野宗也は歩を速めた。

しばらくすると学校が見え始め、周りにもだんだんと学校へ向かう生徒の姿が多くなってきた。男子は寒そうに身体を丸めながら手をポケットに入れ、歩いている。一方女子はというと、多くがおしゃれなコートを着て友達と楽しそうに話ながら歩いている。

すると急に誰かが宗也の背中を後ろからぱんっと軽くたたいた。

「うわっ」

宗也は軽くびっくりして後ろを振り向くと、少し茶色がかった美しい黒髪の女子がいた。髪は肩までかかっており、前髪はピンで留めている。

「おはよっ」

 そう言うと、彼女は宗也の横に並んで歩き始めた。少し気崩された制服の上からはベージュのコートを羽織っている。

「なんだ、明科か」

 宗也は安堵したように一息つくと、肩から落ちかけていたバッグを肩にかけ直した。

「今日も寒いねー。朝のニュースだとまた一段と冷え込むらしいよ。もう四月なのにね。」

「まったくだ」

 実際、今年の寒さは例年以上に長引いていた。その証拠に、道の至る所にはまだ溶けかけの雪が少し残っている。

「そういえばこの前見た雑誌に、百年前の謎の隕石についての特集が載ってたよ!茅野くん都市伝説とか興味ある?」

「いや、あまり……」

「そっか……」

 宗也と明石瑞穂の共通の話題はさほど多くない。そのため、たまに会っても何を話せばよいか、お互い分からなくなってしまう。

「そういえば茅野くんと私、また同じクラスだったよ!」

「何でもうクラス分けの情報もう知ってんだ?」

「なんとLINEでキョーコちゃんがクラス分けの張り紙の写真を送ってくれたのです」

 えへんとばかりに彼女は得意げな顔をした。

「そうか、キョーコちゃんが教えてくれたのか」

「うん」

(どうせなら学校に着くまでのお楽しみにしたかったぜ・・・っていうかキョーコちゃんって誰だよ・・・)

そんな疑問を感じつつ、宗也は明科とまた同じクラスになれたことへの嬉しさとクラス

分けのネタバレを食らってしまい残念な気持ちが入り混じる複雑な感情を抱いていた。

 すると並んで歩いていた明石永何かを思い出したような仕草を見せた。

「あっもうこんな時間、急がなきゃ」

「何か予定があるのか?」

「これから新入生勧誘のビラ配りしなくちゃいけないんだ」

「そっか。マネージャーだもんな」

「……うん。」

そう頷くと、彼女は少しばつが悪そうに微笑んだ。

次第に二人の間にうっすらと淀んだ空気が流れ込んでくるような気配がした。そうした雰囲気を断ち切るように宗也が口を開いた。

「俺のことはいいから、先急いでいいぞ」

「うん、それじゃまた後でね!」

 彼女は片手を短く振りながら先ほどよりも明るい表情を浮かべると、たたたっと小走りで校門の方へと向かっていった。宗也は短く手を振り返しながら、彼女の姿を見送った。





 学校に着くと、玄関の前に張り出されたいくつかのクラス分けの発表らしき紙の周りに大勢の人が集まっていた。人によって様子は様々で、落ち込んでいる者や落ち込んでいる者、中には泣きながら電話をしている者さえいた。

 校内の桜の木はまだ満開とはいかないものの美しいピンク色の花を咲かせており、春の到来を予感させていた。宗也は群衆の外から貼り紙を一瞥して自分の名前を確認した後、玄関に入り、自分の教室へと向かった。

 宗也の通う公立峰城高校は、阿神町の生徒数500人を越える県内有数の進学校である。また部活動にも力を入れており、数々の部が全国で優秀な成績を収めていた。宗也がこの高校を選んだのも。大学進学を望む両親の影響があったからだった。

 二年生のクラスはA~Eの五クラスに分けられており、各クラス教室を結ぶ廊下には多くの生徒がたむろしていた。

 宗也は廊下で談笑している生徒たちを横目に見ながら、まっすぐ自分の教室へと向かった。自分の教室の前まで行くと、宗也は廊下で話している二人の見知った男子生徒を発見した。一人は周りの生徒よりも背が高くがっしりとした体格の生徒で、もう一人は細身で宗也よりも少し背が低い生徒だった。二人とも宗也が高校一年のときに仲良くなった友達だった。宗也が二人の近くまで行き、おう、と声をかけると二人の生徒が宗也に気付いた。

「あ、茅野くん来た。久しぶり」

 背の高い男子が宗也を見て優しく応えた。すると今度はもう一人の背の低い男子が先程まで一緒にいた背の高い男子にからかい口調で言った。

「飯山、こいつのことは宗也でいいって言ったじゃろ?」

「別に呼び方なんてなんでもいいじゃねぇか、岡谷。」

 宗也は呆れたような顔をしながら言った。岡谷と呼ばれる男子は中学まで山奥の田舎で暮らしてたせいか、都市余地のような口調が特徴的だった。

「駄目じゃ、駄目じゃ。俺たち知り合ってもう一年じゃぞ?ずっと苗字で呼び合ってきたが、そろそろ次の関係に進むときが来たんじゃ」

「恋人みたいなこと言ってんじゃねぇよ、気持ち悪い……」

 宗也は若干引き気味に言って頭を掻くと、飯山に目配せをした。

「まぁ俺もいきなり名前呼びはハードル高いかな。徐々に名前呼びにしていったらいいんじゃないか?」

 飯山はそう言ってはにかんだような笑顔を見せると、何かを思い出したような表情をして言った。

「そういえば俺たちクラスバラバラになっちゃったな。一年の時のように二人と同じクラスになりたかったよ」

「まぁ残念じゃがな。お前らも寂しいじゃろうが頑張れよ!」

「岡谷が俺と別のクラスでちゃんと友達作れるか心配だなl」

 宗也はにやにやとしながら言った。

「なんじゃと宗也!お前こそ一年の時、俺がいなかったらぼっち確定だったじゃろうが!」

「まぁまぁ二人とも。休み時間にはこうやって会えるんだからいいだろ?」

 飯山が二人をなだめていると、チャイムが鳴った。

「そろそろホームルームか。じゃあ俺戻るわ。またな」

 二人に軽く告げると

は自分の教室に戻って行った。

「じゃあ俺も教室戻るわ」

 そう言って宗也も教室に戻ろうとすると、岡谷が急ににやっとした表情をした。

「そういやお前、明科瑞穂とまた同じクラスになったんじゃな」

「それがどうかしたか?」

「いや、なんか運命だなーって思っただけじゃ」

そう言うと、岡谷は一目散に自分の教室に戻っていった。

「あいつ、後で覚えてろよ……」

 宗也は拳を固く握りしめた。





 登校初日の学校は半日で終わった。宗也のクラスのA組は放課後になると2日後には美活動説明会が行われるため、二年生は一通りのガイダンスが終わると放課後は一年生の勧誘に向けて各部が準備を始めていた。宗也は一度背伸びをした後帰り支度を始めた。すると明科瑞穂が宗也に声をかけてきた。

「ねぇ茅野君、この後って予定ある?」

「いや、特にないけど」

 宗也は一瞬ホームルーム前に岡谷に最後に言われたことが頭をよぎった。宗也は友達が少ないせいか、女子と話すのもあまり慣れてなかった。ましてや、明科のような容姿端麗な女子相手ならばなおさらだった。

「な、なんでそんなこと聞くんだ?」

緊張のせいか、宗也の声が少し裏返ってしまった。しかし明科は笑ってそれには触れず、少し恥ずかしそうに言った。

「よかったら一緒に帰らない?ちょっと話したいことあるんだ」

「あー、この後知り合いに借りてた漫画返さなきゃいけないんだけど、それが終わってからでもいいかな?」

「もちろん、いいよ!じゃあ玄関で待ってるね」

 明科は嬉しそうに言った。宗也は一言お礼を言うと、C組に向かった。

 宗也がC組について扉の外から中を覗くと、まだ多くの生徒が教室に残っており、雑談に興じていた。宗也は教室の中でひときわ大きな人だかりを発見し、その中心にいる飯山を見つけた。飯山の周りでは数人の男女が楽しそうに話していた。飯山は教室に入口にいる宗也に気付くと、周りの生徒に一言告げてから宗也の元へ向かった。

「ごめん、待たせたかい?」

 飯山は申し訳なさそうに顔の前で両手のひらを合わせた。

「いや、俺も今来たところだ」

 そう言って宗也は飯山を見た後、飯山が先ほどまでいた集まりの方を見た。

「相変わらず人気者だな。登校初日なのにもうクラスの中心じゃないか」

「そんなんじゃないよ。皆、俺の身長が高いから珍しくて集まっているだけさ」

 宗也が感心して言うと、飯山は恥ずかしそうに答えた。宗也の高校一年からの友達である飯山柊人は人当たりが良く、背の高さも相まってよく人気者になっていた。そんな飯山を宗也は常に羨ましく思っており、同時に何故スクールカースト上位の飯山が自分や岡谷のようなスクールカースト下位の人間とよくつるんでいるのか、不思議だった。

「今日もこの後陸上部の練習か?」

「いや、部活じゃないんだけどちょっと人に会う予定があってね。」

 宗也は借りていた漫画を返すと、飯山は周りの人を確認して内緒話をするように小声で言った。

「昨日陸上部の先輩から聞いた話なんだけど」

「何かあったのか?」

「実は剣道部の諏訪が二日前から部活を休んでいるらしいんだ」

「諏訪……」

 宗也はその名前を聞くと、思わず眉をひそめた。

「それで噂によると、どうやら諏訪は病気の類や家庭の事情で休んでいる訳では無い

らしいんだ」

 宗也は少し意外な顔をして、生唾を飲み込んだ後言った。

「じゃあなんで休んでるんだ?」

 飯山ははっきりとした口調で言った。

「実は諏訪が行方不明になっているらしいんだ」





飯山と別れた後、宗也は玄関に向かった。向かう途中は様々な考えが宗也の頭の中を駆け巡った。飯山から聞かされた諏訪の行方不明の噂。宗也は高校一年の時を振り返り、思った。

(もう俺は剣道部とは無関係の人間だ。首を突っ込むべきじゃない)

そして宗也は考えるのを止めた。

宗也が玄関に着くと、ロッカーの前で待っている明科瑞穂を発見した。制服の上には朝と同じコートを羽織っている。宗也は靴を履き、外で待っている明科に声をかけた。

「悪い、待たせた」

「あ、茅野くんもう幼児は終わったの?」

明科は宗也に気付くと寒そうにしながら言った。

「ああ、さっき終わった。どこか寄ってく?」

「じゃあ駅前の喫茶店行かない?」

「駅前ね。OK」

そう言って、二人は駅に向かって歩き始めた、道中、宗也は緊張しっぱなしだった。明科と二人きりで帰ることも初めてで、何を話していいか分からなかった。傍から見ると俺たちは付き合っているように見えるのだろうか……と宗也は思い、明科の方をちらと見ると偶然明科と目が合ってしまった。途端に宗也と明科は目をそらして、顔を赤らめた。

(いかんこんなんでは精神が持たん、こういう時こそ冷静にだ)

と心の中で念じていると、気付いたら駅前の喫茶店に着いていた。宗也と明科は互いに顔を見合わせてなにごともなかったかのように微笑んで、喫茶店の中へと入った。

 駅前の喫茶店はおしゃれで、店内には峰城高校の成否区を着た学生も何人かいた。宗也と明科は窓際の席に座ると、明科が言った。

「茅野くんとこうやってじっくり話すのも久しぶりだね」

「そういやそうだな」

「前はよく話してたのにね」

「まぁ同じ部だったしな」

 宗也はそう言って遠い目をした。

 宗也は高校一年の頃、剣道部に入っていた。同じ時期にマネージャーとして入部した明科とは仲が良かった。そして剣道部でかつて宗也のライバルだったのが。当時同じ一年で現在行方不明中と噂の諏訪俊介だった。お互いに小学生の頃から 剣道を続けており二人の実力は部内でも屈指の実力だった。また二人は部活外でもよくつるもほど仲が良かった。そんなある日、悲劇が起きた。宗也がけがをしてしまった影響で、しばらくの間部活を休まなければいけなくなった。その間に諏訪は一年ながらレギュラーの座を勝ち取り、部内では敵う者が誰もいないほどの実力者になった。そして宗也が怪我から復帰する頃には二人の実力差は埋めがたいほどの大きなものになっていた。それでも諏訪は宗也の復帰を待ち続けた。もう一度宗也とライバル関係になれる日が来ると信じて。しかし宗也の復帰後は、諏訪の圧勝だった。最初は怪我によるブランクの影響かと思われたが、何度対戦しても宗也は諏訪から一本も取ることができなかった。そして諏訪は知ってしまった。自分と宗也は以前のような対等なライバル関係にはもう戻れないのだと。もう誰も自分と高めあえるような友達など存在しないのだと。諏訪は宗也に勝って言った。

「お前はもう俺のライバルだった宗也じゃない。お前は一体誰だ?」

 それは宗也にとっては屈辱的な言葉だった。

 宗也は怪我から復帰しても伸び悩み、諏訪との実力差は広がる一方だった。二人の仲も疎遠になり、言葉も交わさくなった。次第に強くなっていく諏訪を見るのが辛くなっていった宗也は高校一年の冬、剣道部を辞めた。顧問の先生や首相、マネージャーの明科など部の仲間たちとは別れの挨拶はしたものの、諏訪とは一言も交わすことなく逃げるように部を去ってしまった。

 その頃のことを思い出してぼーっとしていると正面にいた明科に心配そうに見つめられた。

「大丈夫?」

「あ、悪い考え事してた」

 宗也はふと我に返り、コーヒーを一口飲んだ。すると明科が優しい口調で言った。

「あの、もしよかったらもう一度剣道部に戻ってきてほしいんだけど、どうかな?」

 宗也はその提案に驚いたが、残念そうに答えた。

「気持ちは嬉しいけど、俺のあの場所での時間は終わったんだ」

「でも茅野くんが戻ってきたら、きっと部のみんなは歓迎するよ?私はもちろん、諏訪君だって……」

 明科はそう言って次の言葉を探そうとしたが見つからなかった。きっと明科は後味の悪い辞め方をした自分をずっと気にかけてくれていたのだろう。宗也はそう思った。すると宗也も優しい口調で言った。

「俺は剣道部に未練は無いんだ。自分でもやりきったと思ってる。それに……」

宗也は一呼吸置いてから、続けて話した。

「諏訪は、あいつは俺をただ強い相手が好きだっただけなんだ。だからあいつのライバルだった頃の俺ならまだしも、今の俺なんてあいつは興味ないさ」

「茅野くん……」

 明科は宗也の方を向いてそう言ったが、すぐに下を向いてしまった。そしてふと何かに気付いた宗也は明科に言った。

「そういえば諏訪って今休んでいるらしいけど何か知ってるか?」

「そうそう、顧問の先生がただの風邪だって言ってたんだけど……なんか先生の歯切れが悪くて、ちょっと心配なんだよね」

 明科は顔を上げて言った。そして何か思いつくと、嬉しそうに言った。

「風邪ならマネージャーとしてお見舞いに行かないとだよね!あーでも諏訪くんの住所分からないなー、諏訪くんあまり友達いないからどこかに仲良くて住所知っている人いないかなー?」

 明科はそう言って、宗也の方をニコニコしながら見た。

「すっげぇ棒読み……分かったよ。一緒に行きゃいいんだろ?」

 彼女は可愛い見た目からは想像できないほどの策士だった。宗也はこのときほど明科瑞穂が悪魔に見えた日はなかったという。(本人の後日談)





 諏訪の家は、駅からさほど遠くなく徒歩でも行ける距離にあった。宗也は諏訪の家に行ったことがあったため、明科と一緒に喫茶店を出て諏訪の家へ向かった。道中、宗也は明科の方を見て言った。

「念のため言っておくが、俺は諏訪の家まで案内するだけだからな」

「えー、せっかくだから諏訪くんの顔だけでも見ていきなよ。会うの久しぶりでしょ?」

「いや、やめとくよ。あいつも俺の顔なんて見たくないだろうし」

 先ほどまでは明科に振り回されていた宗也だったが、このときだけは頑として譲らなかった。明科も宗也の強い意志を察してか、素直に説得を諦めた。二人はそれ以上諏訪の話題を話すこともなかった。

 しばらくすると、諏訪の家の前まで着いた。諏訪の家はごく普通の一戸建ての家で、庭の車庫には二台分の車を停めるスペースがあり、一台の車が停まっていた。結局宗也は家の外で待つことにして、明科だけが諏訪を訪ねることになった。明科が家のインターフォンを押すと、数秒してから一人の女性が扉を開けて出てきた。

「どなたですか?」

 諏訪の母親らしき女性は、すらっとしていて厚化粧をしており明科をじろっと睨みつけた。その迫力に一瞬気圧された明科は恐る恐る尋ねた。

「あ、あの私諏訪くんの所属している剣道部のマネージャーの明科瑞穂です。諏訪くんが今日風邪で休みって聞いて……」

 そこまで聞くとその女性は急に明科の言葉を遮った。

「うちの息子は今いませんが」

「え?」

 明科はぽかんと口を開けて、その場に立ちつくした。諏訪の母親は続けて言った。

「息子に用があるならまたの機会にしてください」

 そう言って彼女は扉を閉めようとした。すると会話を聞いていた宗也が物陰から咄嗟に出てきて言った。

「諏訪がいないってどういうことですか?」

「あなたは確か俊介の……!」

 すると彼女がイライラした様子を見せながら、強い口調で宗也に言った。

「だから三日前から家出しているっていうだけです。ほっといたらそのうち戻ってきますから」

 宗也は彼女の質問には答えず、続けて言った。

「ほっといたらって、親として心配じゃないんですか?もう三日も帰ってないんでしょう?」

「うちは本来共働きなので、自分のことは自分でやるようにしてるんです。俊介だってもう高校生なんですから、家出の一つや二つあっても自分でなんとかしてるはずです。じきに戻ってきますから」

「いや、でも……」

 宗也が反論しようとすると諏訪の母親はさらにまくしたてた。

「そろそろ帰ってもらってもいいですか?私も忙しいので」

 そう言うと、諏訪の母親は勢いよく扉を閉めた。明科と宗也は一気に緊張が解けたかのように肩の力を抜いた。

「やっぱり諏訪くんの行方不明の噂って本当だったんだ」

 明科が呟くと、宗也もうなずいた。

「やっぱり明科もあの噂のことは知ってたのか。まぁあの母親の言う通り明日になればひょっこり戻ってくるかもしれないしな」

 すると明科が心配そうに言った。

「警察とかに届けなくていいのかな……?」

「あの母親も言ってたけど、諏訪はああ見えて結構しっかりしてるやつだ。きっとあいつにも考えがあるんだろ。あまり大事にせずに今はしばらく様子を見ようぜ」

「うん、そうだね」

 二人はそう言って、夕陽が沈む茜色の空を見上げながら帰路を辿った。




読んでいただき、ありがとうございます。

作品の感想など、お寄せいただけたらありがたいです。

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