適わぬ者
自分の体を、神々しい光が包んでいた。
その光を発生させている男は、壇上で自分たちを見下ろしている。
死力を尽くした。
作戦を練り、死を覚悟し、身を投げうって、死から舞い戻るような奇跡を経て──
それでも自分たちの及ばなかった相手が、その男だった。
死ぬ。死ぬ。自分は死ぬ。
だと言うのに、心に波は立たなかった。感情は静かで、微笑みすら浮かべることができそうだった。
自分を包む世界の全ての速度が、緩慢になる。
自分たちの適わなかった男に、揺らめく大火が何度も焼き尽くさんと押し寄せていた。しかし見えない壁が男を守るかのように、炎の波の一切を男に寄せ付けない。
視界には金の髪の少女と蒼い髪の青年が、自分をなんとか助けようと、必死にこちらに走って手を伸ばす様子が映っている。
そのどれもが間に合わないと理解していた。
それでも心は穏やかだった。なぜこんなにも穏やかなのだろうか。
諦めだろうか。
……いや、違う。
それは、あるいは自分勝手で、許されないことかもしれない。
しかし、満足してしまったのだ。この自分の結末に。
どうしようもなかった自分が、仲間を生かすために死ぬことができる。これ以上の終わりはない。
何、自分がいなくなったとてそう変わりはない。
自分はここで終わりだが、きっと、彼ら彼女らならやってくれる。そう信じている。
最後に、彼女の顔を見ておこうと思った。
視線を右に動かす。やはり意識や思考だけが加速しているのか、流れる視界は随分とゆっくりだ。
それでも、視線はどうにか彼女に辿り着く。
赤い髪の魔法使い。ある時から、いつも自分の隣に立ってくれた相棒とすら呼べる存在。
彼女も、自分の方を向いていた。その目は最大にまで見開かれ、さまざまな感情がない混ぜになっていた。
そんな顔をさせてしまったことに、少し、悪いと思う。
残された時間は少ない。視界の中の、彼女の唇が動く。
──まって。
そういう風に、動いた気がした。
残念ながら、それは聞けない願いだ。代わりに微笑んで、口を動かす。
今までの感謝と、これからを任せると願いを込めて。
「じゃあな」
届かなかったかもしれない声を残して、オチバはその場から掻き消えた。