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異世界転生贖罪譚  作者: 伊敷 朱色
プロローグ
1/16

適わぬ者

 自分の体を、神々しい光が包んでいた。


 その光を発生させている男は、壇上で自分たちを見下ろしている。


 死力を尽くした。

 作戦を練り、死を覚悟し、身を投げうって、死から舞い戻るような奇跡を経て──


 それでも自分たちの及ばなかった相手が、その男だった。


 死ぬ。死ぬ。自分は死ぬ。

 だと言うのに、心に波は立たなかった。感情は静かで、微笑みすら浮かべることができそうだった。


 自分を包む世界の全ての速度が、緩慢になる。

 自分たちの適わなかった男に、揺らめく大火が何度も焼き尽くさんと押し寄せていた。しかし見えない壁が男を守るかのように、炎の波の一切を男に寄せ付けない。

 視界には金の髪の少女と蒼い髪の青年が、自分をなんとか助けようと、必死にこちらに走って手を伸ばす様子が映っている。


 そのどれもが間に合わないと理解していた。

 それでも心は穏やかだった。なぜこんなにも穏やかなのだろうか。

 諦めだろうか。

 ……いや、違う。


 それは、あるいは自分勝手で、許されないことかもしれない。

 しかし、満足してしまったのだ。この自分の結末に。

 どうしようもなかった自分が、仲間を生かすために死ぬことができる。これ以上の終わりはない。


 何、自分がいなくなったとてそう変わりはない。

 自分はここで終わりだが、きっと、彼ら彼女らならやってくれる。そう信じている。



 最後に、彼女の顔を見ておこうと思った。

 視線を右に動かす。やはり意識や思考だけが加速しているのか、流れる視界は随分とゆっくりだ。

 それでも、視線はどうにか彼女に辿り着く。


 赤い髪の魔法使い。ある時から、いつも自分の隣に立ってくれた相棒とすら呼べる存在。

 彼女も、自分の方を向いていた。その目は最大にまで見開かれ、さまざまな感情がない混ぜになっていた。

 そんな顔をさせてしまったことに、少し、悪いと思う。

 残された時間は少ない。視界の中の、彼女の唇が動く。


 ──まって。


 そういう風に、動いた気がした。

 残念ながら、それは聞けない願いだ。代わりに微笑んで、口を動かす。

 今までの感謝と、これからを任せると願いを込めて。


 「じゃあな」


 届かなかったかもしれない声を残して、オチバはその場から掻き消えた。


 


 

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