続・悪役令嬢ですが、婚約破棄されたので全力で笑いますわ!
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「悪役令嬢ですが、婚約破棄されたので全力で笑いますわ!!」の続編になります。よければこちらもお願いします。
「ザマァみろ」
とある島国。この国は今、混乱の中にいた。
きっかけはある貴族の家から重要機密の文書の盗難事件だった。
数々の不正や汚職の証拠が新聞に載り、町中にばら撒かれたのだ。
自分達が納めていた税が貴族の私利私欲のために使われていたと知った市民達は激怒した。
暴動が起き、その貴族は屋敷を追い出された。数々の調度品は破壊され、盗まれ、高い衣服も宝石も失くしてしまった。
当主一家は暴動に対応しようとしていた使用人達に全てを丸投げして交流のあった王家へ転がり込んだ。
しかし、その王家も問題の渦中にいた。
次期国王となる王子の婚約者の実家でも不正や汚職が発覚。他にも人身売買や麻薬取引の証拠まで出てきた。
そんな家の令嬢を婚約者にしようとしていた王家の信用は失墜。また、貴族と王家の間で賭け事による多額の資金受け渡しが明るみに出ると積み上げてきた歴史も威厳も地に落ちた。
「くそっ!どういうことだ!!」
「コ、コリン様。わたくしはこれからどうなってしまうのでしょう」
「心配するな。君はオレが守る。なに、軍を使って市民を黙らせるまでの辛抱だ」
しかし、事態は思うように進まない。
国王の剣である軍隊までもが市民側に寝返ってしまったのである。
「父上、これはどういうことなのですか!」
「儂にもわからない。どうやら軍の最高責任者でもあった将軍が革命だと言って市民側についたようじゃ。おのれ、余所者だが有能だからと貴族にまで取り立てやったのに、恩を仇で返すとは!」
「このままでは国が滅びてしまう。そうなればオレの将来が……」
「コリン。そういえば侍女の数名がお主の子供だという赤子を連れてきていたが、あれはどういうことじゃ?」
「知りません。確かにカラダの関係はありましたが、手切れ金を渡し、子を堕ろす手術もさせたはずです!」
「コ、コリン様。その話は本当なのですか?わたくしは……」
「安心しろ。君だけが本命で後は遊びだ」
王子の性事情。国王の怠慢、芋づる式に湧き上がる貴族達の不正。
仮初めの平穏を維持していた島国は瞬く間に混沌の渦を作り上げていった。
そしてその最中、海を挟んだ大陸で最大の力を持つ帝国が侵略してきたのだ。
不干渉条約を結んでいたが、帝国側は島国こそが先に条約を無視したとしてそれを撤廃。圧倒的な戦力で攻め入った。
「 侯爵、これは一体どういうことなのじゃ?」
「申し訳ございません国王様。どうやら奴らに新兵器の開発がバレてしまったようです」
「帝国が作り出し、あまりの危険性と有害性に恐れた戦略兵器……あれさえあればコリンの時代には大陸を征服することもできただろうに……何が国際条約じゃ」
「現在、元妻の関係者を通じて帝国に侵攻を止めるように指示していますが、聞く耳を持ちません」
「お主の家は帝国を崩すための鍵となるはずじゃったのに、そこから瓦解するとはな」
「国王様、これは戦争です。直ちに軍を再編して戦う準備を!」
「無理じゃ。軍の八割は反乱しておるし、帝国は反乱軍や市民を取り込んでおる。勝ち目なしじゃ」
「そんな………我が国は…」
「おしまいじゃろうな」
***
それから数ヶ月後。島国は帝国に対して降伏宣言をした。
それは、侯爵家のとある少女が流刑になってからちょうど一年経った頃だった。
帝国の侵攻は主に貴族や国王の屋敷や城に行われ、農地や港に酷い被害は少なく、市民たちの生活は地獄を見ずに済んだ。
帝国からもたらされた技術や道具は島国より何年も進んだものが多く、また帝国の陛下は民に優しいと評判だったのであっさりと馴染んだ。
島国はそれまでの統治をすっかり捨てて帝国随一の観光名所へと進化していったのは後々のことだった。
「あら、ごきげんようお父様」
降伏宣言からしばらくして、私は故郷である島国の元王城へとやってきた。
外観はボロボロだけど、今は帝国軍の司令部が置かれている。
その玉座の間にはロープで拘束された元国王や元貴族が転がされていた。
その中には血の繋がった父もいたわ。
「ア、アリシア⁉︎」
「お久しぶりですわ。コリンに国王まで」
「どういうことだ、アリシアは国外追放されたはず。とっくに死んだものだと思っていたのに……しかも、そのドレスはなんだ、そんなもの持っているはずが」
「僕が与えたんだよ」
ゆっくりと、低く、威厳のある声で皇帝陛下が話た。
「アリシアは今、アリシア・ユーバッハとして僕を支えてくれていてね」
「………はぁ?」
ポカンと間抜けな顔で父が固まる。
それもそうでしょうね。死んだと思っていた娘が海の向こうの帝国で皇后になっているのだから。
「アリシア!貴様、この国を裏切ったのか!!」
「裏切るもなにも私はダーリンの味方よ。そうね、六年前に貴方が無理矢理関係を迫ってきた辺りかしら?『君は俺の物だ、ならその体も俺の好きにさせろ!!』ってね?十二歳の発想じゃないわよ。思い出すだけで悍ましい」
「コリン王子!あなたは私の娘にそのようなことをしようとしていたのか!!」
「黙っててお父様。貴方も同罪よ。賭けに負けたからって私をお金の代わりに差し出すなんて親のすること?そんなんだからそこのババァと子供達に骨の髄までしゃぶられるのよ」
「アリシア!!母に向かってなんですかその口の利き方は!」
「お姉様、私は巻き込まれただけです!だから助けて!!」
「お姉ちゃん、僕は悪くないんだ!」
ぎゃーぎゃーと喚き出す継母、義妹、義弟。
うるさいうるさい。醜い顔が更に醜くなっている。というか、最後に見た時よりも肥えてるわね?それだけ他人の幸せを奪ってきた証拠ね。
「将軍、その三匹を黙らせてくれ」
「はっ!!」
ダーリンの指示で猿轡をつけられる三人。ぶーぶーと言って余計に家畜っぽくなってしまって笑いを堪えるのが大変だわ。
将軍も楽しそうね。早々に国を裏切ってこちら側についたのは大正解よ。予想以上にすんなり征服できたのは城の隠し通路や軍の行動パターンを将軍が手土産に教えてくれたからこそ。
「アリシア、よくもこんなことを!」
「幸せだったでしょ?可愛らしいご令嬢から言い寄られて。ねぇ?婚約者ちゃん」
さっきから私と一切目を合わせないようにしていたコリンの婚約者がビクッと肩を揺らす。
「ど、どういうことだ!」
「その子が貴方の妻になりたいって言うから協力してあげただけよ?コリンの好きな仕草、好きなタイプ、好きな顔まで教えてあげたら整形までしたんだから」
愛が深いのは悪くはないけど、相手がこれじゃあね?婚約者が出来てからも女遊びはやめてなかったようだし。
「整形だって⁉︎……そんなの俺が一番嫌いな奴じゃないか!俺を騙していたのか!!」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
泣いて土下座して謝る少女。可哀想だとは思うけど、その整形に必要な費用は彼女の実家が人身売買で得たお金だし、彼女もそれに加担していたから手に負えない。
「アリシア嬢……君に頼みがある」
次に発言したのは元国王だった。
「どうか国を返還してくれ、帝国への協力は惜しまないし、賠償金の支払いにも応じよう。君が望むのならばここにいるコリンの婚約者や君の元家族の処刑もしようじゃないか!」
「「「国王様っ⁉︎」」」
手でゴマを擦りながら愛想笑いをする。だが、その瞳は本気だ。私が国を返すと言えばこの王は必ずやってのけるし、足を舐めろと言えば喜んで舐めるだろう。……気持ち悪いからさせるつもりはないけど。
「へぇ、それは面白いね」
隣で玉座に座るダーリンが不敵な笑みを浮かべる。……これはマズイ。
「皇帝陛下、なにとぞ御慈悲を……」
「いいよ。じゃあ、そこいる君の息子を殺してその婚約者と子作りしなよ」
「ひっ⁉︎」
「な、何を⁉︎」
うわ、エゲツない。コリンと婚約者が固まってるわ。
「…………………それをすれば」
しかも本気でそれを実行しようとするこの爺。生き意地汚いというか、子供の為に自分の命を差し出そうなんて考えはないのかしら。
「ふざけるな父上!そんなこと俺は認めんぞ!!」
「王はワシじゃ!後継なんぞ今から作ってもどうとでもなる!!じゃが、国は戻らんのだ!」
親子で罵り合う様は滑稽を通り越して吐き気がする。もう、いいかな。
「ダーリン、そろそろ」
「そうだね。国王、さっきの話は無しだ」
私の心情を察してくれたのか、シビルが頬を撫でてくれた。くすぐったいけど、ドロドロした奴らのせいで荒んだ心が安らぐ。
「なんだと!公的な場で嘘をつくなど王のすることではない!!こんなことが他国に知られれば帝国の信用は落ちることになるぞ!!」
「他国?大陸の統一は殆ど済んでいる。この国を手に入れた以上、他国の意思は関係ない。僕が絶対的な法であり君主だ。……王はいらないんだよ」
「そんなのは無理だ!たった一人の人間が大国を纏めるなんて、ワシでさえこの国を治めるのにどれだけ苦労したか!それを貴様のような若造にっ⁉︎」
パンっ!と音が鳴る。
音は私の足から。
「蹴った……父上を蹴り飛ばした⁉︎」
そう、加減することなく思いっきり私は目の前にいた愚王を蹴った。
「さっきから黙って聞いてれば。ダーリンとアンタみたいなクズを一緒にするな。さっきの話、ダーリンは弟を殺しているし、ダーリンのお母さんは帝国に負けた国の元王妃だったわよ」
私が聞いた話だ。
それまでは自分が一番不幸だとは思っていたけど、ダーリンは、帝国は私が思っている以上の魔窟だったのにそれをシビルは一人で纏め上げた。生まれながらの天賦の才もあるが、彼がそれだけ統治に邁進していた方が大きい。肥え太った老害ではない。不正をひた隠しにし、貴族の横暴によって人々が苦しめられているのを見て見ぬ振りをする人じゃない。
「ハニー、僕のために怒ってくれてありがとう。だけど、こんなことのために君が暴力を振るう必要はないよ」
「私がやりたくてしたことよ心配しないで……それより、気分はどう?お父様」
俯く者、未だ自分の弁明をしようともがく者。
私が問うのはただ一人。
「実の娘がわざと婚約破棄をされるように仕向け、家を出て帝国に嫁いで仕返しにやってきて家族も家柄もプライドも全部、全部滅茶苦茶にされた気分はどうよ!!」
我慢する。湧き上がる感情を必死抑える。まだ言っていけない。
父の、この男からの直接の言葉を聞くまでは。
「……最低の気分だ。ここまで家族を憎いと、自分の運の無さを呪ったことはない!お前なんて産まれなければよかった!!お前が産まれなければ妻は、アリーシャは死ぬことが無かった!私は幸せだったのに!お前の、お前のせいで!!」
それは父上ではない、一人の男の叫びだった。
嘘偽りのない慟哭が玉座の間に響いた。
情けなくも号泣し、頭に血が上って真っ赤になっていた。
その父だった男に向かって私は言った。
「ザマァみろ」
それもまた、心の底から嘘偽りなく出てきた全てを奪われた者へ言いたかった言葉だった。
私とシビルは玉座の間を後にする。後ろでは交渉の決裂に絶望する者達の嘆きや悲鳴がしばらく響いていた。
「ここ、覚えている?」
「もちろん、僕と君が初めて出会った場所だね」
来客用の部屋に私達は滞在することにした。本来なら国を支配した時点で王族の部屋に移ることができたのだけど、色々と曰く付きだったので止めた。
「懐かしいわ……あれからかなり経つわね」
「悲しかったかい?実の親からハッキリと嫌われて?」
「そうでもないわね。スカッとはしたけどそれだけ。嫌われているのはわかっていたから」
お母さん。元から体は強くなかったけど私を産んでから体を崩して亡くなった。
思い出は乳母のカナンからよく聞いてはいた。とても素晴らしくて美しい人だって。だから、私もそんな風になりたかった。
「実は君にサプライズプレゼントがある」
「何かしら?私が好きだったこの国のお菓子とかだったら嬉しいわ」
持ってきてくれ、そうダーリンが言うと執事のセバスと私の乳母だったカナンが二人掛かりで布のかかった何かを持ってきた。
カナンはこの国に進行が始まった時に真っ先に帝国の軍隊に保護されていた。私が旅立つ前に渡していた私物が役に立ってくれた。ペンダントはまた私が身につけている。
ニコニコ笑顔でカナンが布をめくると、そこには私によく似た、けれどももっと上品そうで柔和な笑顔の女性が描かれた肖像画があった。
「君のお母さんの絵だ。この城の宝物庫に。あんな父親でもこれだけは手放さずに持ってきていたらしい」
「実家の屋敷が燃えて、もう二度と見ることができないと思っていたのに………嬉しい。ありがとう」
このペンダントと同じ、私がお母さんを感じる事ができる数少ない物。子供の頃から、寂しい時も辛い時もこの絵を見て我慢してきた。
虐められた時も、理不尽な暴力を振るわれた時もこの絵のような人になりたいと思ってきた。
シビルに出会って、帝国に行くその直前までこの絵を眺め、話しかけ、祈ってきた。
骨と魂はお墓に眠っているはずなのに、私にはこの絵がお母さんの全てに思えたからだ。
「久しぶりにあの人の顔を見たけど、やっぱり君に似てとても美しい」
「逆よダーリン。私がお母さんに似ているの。やっぱりお母さんの方が好き?」
「いいや。仕返しをして悲しそうな君やこの絵を見て泣きながら喜んでいる、僕の隣にいるハニーの方が何倍も何十倍も好きだし、愛してる」
…………もう。
いつの間にかセバスとカナンは部屋から出ていた。気がきくのかお節介なのか。
「ねぇ、帝国に戻ったらすぐ国一番の絵師に肖像画を描かせましょう?この絵のお母さんに負けないくらいとびっきりの笑顔でラブラブなのを」
「いいねぇ。真面目で堅苦しい肖像画しか僕は描かれてないからそういうのが欲しいよ。帝国の歴史に名を残すおしどり夫婦って題名でどうだろう?」
その日は夜まで二人でこれからのことを話し合った。欲しいものややりたいこと、カナンやセバスへの恩返し、お母さんのお墓の移動やこの島国の活用方法、新しい家族の話。
この夜に愛し合ったおかげで、かけがえのない宝物が新しく増えた。
余談だけれど、お母さんの肖像画は私が産まれた後に私を抱いている状態で描かれたらしい。
後の世でこのお母さんの絵と同じ状態で描かれた私の肖像画は国宝として大切に保管されたのだけど、それは私の知らない未来の話。
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「転生したらモブキャラだったので推しキャラCPを幸せにして眺めたいです!」という異世界転生ラブコメを連載しています。