第五話 人攫い――いや、猫攫いに遭遇する。
外見は犬や猫などなど獣そのモノであるが、人間の強みでもある二足歩行、そして同等の知能を持つモノ――それが獣人という連中だ。
故に――というか、当然、知的生命体の証と言っても過言ではないだろう言葉を有し、言葉を介し、他者に自分の意思を伝達することも可能なワケだ。
さて、なんだかんだと、獣人と呼ばれるモノの中でも狼男が特に有名だろうか?
そんな狼男は、俺がいる兎天原にもいるんだろうなぁ――いや、間違いなくいるはずだ。
狐や狸の獣人も多々、住み着いているようだから、ニャオーダの村のどこかにも狼男――訂正、狼獣人がいそうだなぁ。
おっと、それはさておき。
今、現在、ニャオーダの村で今、人攫い事件が起きているようだ。
詳しいことはわからんが、被害者は猫獣人の子供ばかりらしい――人攫いというか猫攫いじゃん。
むう、そんな面倒くせぇ事件に首を突っ込もうとしているんだよなぁ、俺達――いや、ピンク色の小さなドラゴンの姿になってしまった戦乙女のオリンデのせいで……。
「ウフフフ、これは僥倖かも☆」
「僥倖?」
「上手くいけば、アレを大量に天界のワルワラ宮殿に送ることが出来そうだし……」
「だが、悪人のアレを受け入れるだろう? 特にブリュンヒルデが五月蠅いぞ」
「俺にナニがなんだか……」
「皆さん、到着です。ここが猫攫い対策事務所――いえ、ボクの家ですニャー」
「へえ、煉瓦造りのイイ家じゃないか! ん、鎧兜を装備した物騒な連中がいるぞ」
「ああ、冒険者の方々です」
さてさて、ニャオーダの村の村長の息子である猫獣人のソルレオンの自宅の前までやって来る――お、煉瓦造りの堅牢だが奥ゆかしい建物だな。
ん、冒険者だって? ああ、ソルレオンの自宅の前にいる鎧兜を身に纏った連中のことか? そんな連中がいるってことは、恐らく人攫いならぬ猫攫いを捕まえて多額の賞金を得ようって魂胆なんだろう……うん、多分そうだな!
ああ、ちなみに、ソルレオンの自宅前にいる冒険者達も例外なく獣人である――獣の領域というワケで。
「あ、シャツとパンツだけの無防備な人間がやって来たでヤンス」
「ひょっとして俺のこと?」
「お前さんしかいねぇーっての! まったくゴブリンとかに遭遇したらどーするんでヤンスか!」
「むう、確かに無防備かもなぁ……って、おいィ! 俺の尻を撫で回すんじゃない。このエロ狸が!」
狸獣人の冒険者が近づいてきて、そんな忠告を――ま、確かに俺の格好は確かに無防備だ。それを指摘されても仕方がないっつうか――だ、だからといって俺の尻を撫で回すのはどうかと思うんだが……とりあえず、蹴飛ばしておくかッ!
「グ、グベボッ!」
「むう、鎧兜で身を固めているわりに弱いな、コイツ」
「アタタタ……挨拶代わりにお尻を撫でただけなのに蹴飛ばすとがヒドいでヤンス……う、うおー! 蹴飛ばされたことで思い出したでヤンス……俺っちの相棒のテンコさんが猫攫いに捕まったでヤンスゥゥゥ~~~!」
俺は軽く蹴飛ばしたつもりだったけど、ギュルンを弧を描きながら吹っ飛んだぞ、狸獣人の奴。
ハハハ、まあ、なんだかんだと、セクハラ狸にゃ当然の報いだぜ☆
とそんな狸獣人だが、相棒のテンコとやらが、件の猫攫い共に捕まってしまったようだ。
恐らくは猫攫い共を捕まえようとして返り討ちに遭ったんだろう。
「ソルレオンさん、救出隊の派遣を要請するでヤンス! 早めに助けないと毛皮を剥がされてしまうでヤンスゥゥゥ~~~!」
「け、毛皮を剥がされる!? ぶ、物騒だなぁ……」
「テンコは狐獣人だったニャ……ああ、思い出したニャ。確か狐獣人の毛皮は、人間達に高く売れるって聞いたことがあるニャ。ああ、なるほど、それで……」
「狐の毛皮は、異世界でも人気があるのか! 考えることは変わらんなぁ……」
「まあいいニャ。村の子供達の件もあるし、そのテンコとやらも一緒に救出をお願いしますニャ。旅の御方――」
「はい、喜んでッ!」
「ちょ、オリンデ!」
うへぇ、オリンデの奴、また余計なことを――むう、このままだと、俺達が猫攫い共を捕まえにいくハメになりそうだ。オマケにテンコって冒険者の救出も兼ねているっぽいし。
「で、件の人攫い……いえ、猫攫い共は、どこに?」
「奴らは村の北側に出現するとウワサを聞きましたニャ。被害も、そんな村の北側が多くて……」
「なるほど、それじゃ出張ってみましょうか!」
「ちょ、マジで行くのか?」
「当然! アレの入手――いえ、獣人助けのために」
むう、この調子だと、本当に猫攫い共を捕まえに出張るハメになりそうだぞ――って、おいィィ! 俺を置き去りにするカタチでオリンデやマリウスは、件の猫攫い共が出没するという話のニャオーダの村の北へと駆け出すのだった。
ここは追うべきか、それともソルレオンの家の前に留まるか――ダ、ダメだ!
なんだかんだと、出張るしかないッ――この世界のことをナニもわからんことだし、今、マリウスやオリンデと離れるワケにはいかないし……。
「ええい、四の五の言っていられるかッ――ま、待ってくれェ!」
覚悟を決めた――俺も往くぞ! 猫攫い共が出るというニャオーダの村の北へ! あ、ああ、その前に――。
「鎧兜と武器を……剣でも槍でもいいから貸してくれ!」
むう、なんだかんだと、武器防具が必要だよね――ん、だが、その前に人間サイズの武器防具はあるだろうか!? ここは猫獣人を筆頭とした小型の獣人の村だし。
「人間用装備? ああ、思いだしたニャ――要らないモノがあるからタダで譲るニャ。そんなワケだニャ。ちょっと待っててくれニャ!」
お、人間用の武器防具があるっぽいな! え、武器防具屋へ出張って買った方が早いんじゃないかって? まあ、そうだろうけど、ソルレオンが自宅内へ駆け込んだし、ナニかあるんだろう――タダほどありがたいモノはない!
「待たせたニャ! はい、これだニャ。これをアンタに譲るニャ」
「ん、剣と槍じゃなくてペンダント? うへぇ、気色の悪い笑顔を浮かべた髭のオッサンの顔が刻んである太陽を模したモノだな、うん……」
「はい、以前、戦乙女と名乗る人間が忘れていったモノです」
「ナ、ナニィ……それは本当か!? あ、ありがたく受け取っておくぜ」
ソルレオンが自宅内から戻ってくる——ん、太陽を模したペンダントを投げ渡してきたぞ……って、うげげげッ! 気色の悪い笑顔を浮かべた髭のオッサンの顔が刻んである!
だけど、かつてニャオーダの村に訪れた戦乙女が置き忘れていったモノらしいので、そのうち役に立つ時が来るだろう。俺は戦乙女だしね――っと、なんだかんだと、マリウス達を追いかけよう。