第四話 どうやら俺は獣人の村へとやって来たようだ。
俺達がいる兎天原という場所は、トンでもなく広大な盆地なんだとか――。
そんなトンでもなく広大な盆地を人間の領域と獣の領域のふたつ区分されている。
で、当然の如く人間の領域には、人間が住んでおり――おっと訂正だ。人間に限りなく近い姿をしたエルフやドワーフといったモノ達も数多、暮らしているとか。
エルフにドワーフ――幻想世界ではポピュラーの種族だ。この異世界にもいるようだな。
その一方で獣の領域には、その言葉の通り、獣——そして獣と人間の両方の特徴を持つ獣人が暮らしている。
自称、物知りなヤスの話だと、鳥人や魚人なんかも――多種多様な区域だ。
さて。
「あ、人間だニャ!」
「わ、お前ら! 尻を撫で回すなァ!」
「ハハハ、このスケベアニマルめ☆ うお、誰だ、今、俺の尻を撫でたのはー!」
「猫の獣人共は人間が大好きなんスよ。特に人間の若い女性が……」
「なあ、俺とマリウスって戦乙女なんだよな? 天使みたいなモノかな?」
うーん、俺やマリウスは戦乙女だ――人間に限りなく近い姿をしているが、多分、別物ってところだろう。そんなワケだから天使って呼んでくれ!
それはともかく……こ、このスケベアニマル共め! 俺やマリウスの尻を撫で回しやがって!
「ここはニャオーダ村、猫獣人の村ッスね」
「猫獣人の村? じゃあ、あの服を着た狐――狐の獣人どうなんだよ。あ、狸の獣人もいるぞ……ん、他の動物も多々!」
「れ、例外もあるッス」
「そういうことにしておいてやるぜ」
「さ、なんだかんだと、エフェポスの村へ往くには、この村を中心にどっちの方角へ向かえばいいのか訊いてみようぜ」
ここはニャオーダの村は猫の獣人のようだ。ああ、だから見かける村人の大半が猫獣人なワケね。
だが、ヤスは語るように実際のところはそうじゃないのかもな。村人の中には、狐や狸の獣人の姿がチラホラと見受けられるしね。
「ヤヤヤッ……人間! ん、もしかしてマーテル王国から派遣されてきた討伐隊の方々ですか?」
ん、マーテル王国から派遣されてきた方々? 俺にナニがナンだかわからんけど、ニャオーダの村の住人のひとりが話しかけてくる。ちなみに、黄金色の双眸を持つ黒い猫の獣人だ。
「マーテル王国?」
「自称、兎天原の支配者である王政国家さ」
へえ、自称、兎天原の支配国家ねぇ――とまあ、そんな国から派遣されてきた討伐隊だと思われているっぽいなぁ。だが、残念ながら違うんだよ、俺達は。
「ああ、残念ながら俺達は、そのマーテル王国から派遣されてきたモノじゃなかったりして」
「え、そうニャんですか? うーん、困ったニャア……」
「おや、ナニかお困りのようですね? 私で良ければ、お手伝いしましょうか?」
「おいおい、オリンデ! 面倒くせぇコトに首を突っ込むなよ。無視しやがれっての」
「そうッスよ。無視を決め込むッス」
「まあまあ、そう冷たいことを言わずに☆」
黒猫の獣人は何かしらのトラブルに巻き込まれているっぽいぞ。
しかも、そんなトラブルの規模はデカそうだ。自称、兎天原の支配国家であるマーテル王国からの討伐隊とやらの派遣を待っていたワケだしねぇ。
まったく、オリンデの奴、余計なことを言う――まさにトラブルメーカーである!
まあ、困ってるんモノを見過ごすことなんて無理! という正義感がなせる業ってところかな……かな?
「ああ、申し遅れましたニャ。ボクはソルレオン。ニャオーダの村の村長ニャオウスの息子ですニャ」
「村長の息子?」
「まあ、そんなワケですニャ。ボクの家に来てください。なんだかんだと、説明はそこで」
俺達をマーテル王国から派遣されてきた討伐隊と見間違えた黒猫獣人の名前はソルレオン。ニャオーダの村の村長ニャオウスの息子と名乗る。
「ソルレオンさん、ここに居ましたか! また……またです! また奴らに村の子供が攫われましたッ!」
「ニャんだとォ! ああ、ニャんてことだーッ!」
「村の子供がさらわれた?」
「はい、今、この村に人攫い共が潜んでいるのですニャ……」
「人攫いっつうか猫攫いじゃないのか? ここは猫獣人が中心の村なんだろう?」
「そんなツッコミはともかく! なるほどォ……故にマーテル王国からソイツらを捕まえるために結成された討伐隊がやって来る予定なのね」
ああ、そういうことか――だからマーテル王国から人攫い……訂正、猫攫いを討伐隊がやって来る予定なのか!
むう、それじゃニャオーダの村に潜んでいる猫攫い共は、一体、何人いるんだァ!?