第28話 甘党死霊使い自爆する。
「見つかってしまったぞ、おい……」
「むう、打って出るか?」
「当然! 即、魔法攻撃ができるようにしておこう!」
赤い仮面の女――露出狂な死霊使いネクロリリー、そして元名門騎士団であったが現在は盗賊家業に身を落としたモノ共こと聖イリアーナ騎士団のボスである盗賊姫に、ヨモツヒラサカ共同墓地の背の高い雑草が密生した茂みの中に潜んでいることがバレてしまったようだ。
で、連中は三体の兎獣人のゾンビを蘇らせる——コイツらに俺達を襲わせる気かもしれないな。
なんだかんだと、すぐにでも魔法を使えるようにしておこう……呪文の詠唱だ!
「ハーッハッハッハァァ! そこに隠れているモノよ。よ~く聞くがいいッ――お前らも我がゾンビ軍団の一員に加えてやる故、死ねィ……って、おいィ! イタタァッ……コラァァ! 私を齧るンじゃないィ!」
「ちょ、ナニやってんのよ……ギャッ! このゾンビ兎、今、私の左の小指を齧ったわァァ!」
ん、もしかして仲間割れ!? とにかく、露出狂な死霊使いネクロリリー、それに盗賊共のボスに対し、三体のゾンビが襲いかかる!
「ウム、自爆ダナ。サテハ死霊使イニナッテ間モナイ新人カナ?」
「オイオイ、弟ヨ。使イ魔トシテ蘇ラセタぞんびニ反逆サレルタァ新人以下ダロウ。素人れべるッテやつダナ」
「元天使ゴブリンズがそう言うんだし、間違いないんだろうなァ……」
「まあ、なんだかんだと、今のうちにやっちまおうぜ! ウオリャーッ!」
醜悪な小鬼――ゴブリンの姿になってしまったとはいえ、元天使を自称するハーゲンとゲハルス兄弟の言う通りかもなァ。コイツは一応、死霊使いだし。
さぁて、仲間割れの最中だし、今のうちに奴らをぶちのめしてもいいよなァ——って、マリウスも同じ考えだったようだ。そんなわけでナニかしらの魔法を即、発動させられるようにセットアップした状態であることを物語る右手にプラズマを迸らせながら突撃する。
よし、俺も一緒に――魔法でぶっ飛ばしてやる!
「痛ぁぁぁい! 齧るなんて酷い! せっかく生き返らせてやってのに……ギャアーッ!」
「く、ゾンビに齧られてしまった。早く解毒剤を飲まないと下手すりゃ私もゾンビになってしま……ウギャーッ!」
「悪いな。ぶっ飛ばさせてもらったぜ」
「ヨシ、今ノウチニ捕縛ダ!」
「兄者、縄ナラココニアルゼ!」
「う、ううう、無念ッ――って、誰よ、アンタ達ィィ!」
「ネクロリリー……す、済まない。コイツらは私を追いかけてきた冒険者だ……多分」
「にゃんですとーッ! アガガガ、痺れるゥゥゥ~~~ッ!」
俺は衝撃波を、そしてマリウスは電撃の魔法をネクロリリーと盗賊姫に向けて放つ――不意を突くカタチで。
ん、俺は手加減する方法を知らないんでフルパワーで放ったつもりだったけど、直撃した瞬間、威力が分散された気がする――バリアみたいなモノを張ったのか!? だが、マリウスの放った電撃の魔法の前にはナニも出来ずって感じだった。
そんなワケでネクロリリーと盗賊姫を捕えることに成功したけど、どうするかな、コイツらを。
「何故、私を捕える!? 私はナニも悪いことなんて――寧ろ頼まれたから墓場に眠る死体を蘇らせただけなんですけどォ……」
「く、ネクロリリー! アンタ……裏切る気ね! ゾンビ軍団をつくって、この村に居を構える数少ない人間――アヴェン卿の屋敷を襲撃するって話はどうするのよ!」
「う、裏切るって……つーか、まだナニもッ! まったく話を飛躍させすぎィ!」
「ええい、もうアンタなんかを頼りになんかしないッ――アヴェン卿には、私が復讐する! アイツのせいでッ……アイツのせいで私は盗賊家業に身を落とすハメになったになったワケだしッ!」
むう、今度はネクロリリーと盗賊姫が仲間割れを始めたぞ。やれやれ、ナンだァ、コイツらは……。
「仲間割れかよ、おい……わ、わお! 忘れていたぜ。ゾンビが三体いたことを!」
「おい、やめろ! 俺だよ、俺、分からんのか? うわ、危ない。齧られるところだった……」
ネクロリリーと盗賊姫は捕まえたゾ! だけど、兎獣人のゾンビが三体いることを忘れていたぜ――ん、そういえば、仮にコイツに齧られたらゾンビ菌(?)に感性してしまうんだろうか!? で、ゾンビ菌に感染した場合、当然、生きたままゾンビになってしまう可能性があるかも……ナニ気に面倒くさい奴らだな、まったく!
「太陽の光で浄化するか?」
「いや、無理だろう。今は昼間だ。あの盗賊ゾンビ共とは、コイツら……勝手が違う! 太陽光を浴びても消滅しないしな」
ウサヤマ、ウサバヤシ、ウサベ――だっけ? そんな三体の兎獣人のゾンビは、太陽の光を浴びても浄化されて消滅ということはないようだ。おいおい、ウサルカ文明の古代遺跡の地下空間で遭遇した盗賊共のゾンビとナニか違うぞ!?
「ニャハハハ、同じ死霊使いでもヘタクソな奴の手によってゾンビ化したモノなら太陽光が弱点だったりするけど、この私のような天才の手にかかれば太陽光という弱点を克服したゾンビをつくるなんて造作もないわァ☆」
「だが、弱いぞ。ウサヤマの顔面をぶん殴ったら頭がもげちまった……」
「あ、兄貴、グロいッス……だ、だけど、ウサヤマさんはゾンビ化した知り合いなだけに複雑な気分ッス」
ナ、ナニーッ! 死霊使いの腕前によって太陽光も弱点じゃなくなる!? あ、ああ、だからウサヤマ、ウサバヤシ、ウサベというゾンビとして蘇った兎獣人は、日中ということで当然、太陽光が燦々と降り注ぐ中でも平気でいられるのかー?
だが、その一方で腐った身体は、さらに脆くなるようだ。兄貴が軽く殴っただけでボロッとウサヤマ――ゾンビの一体の頭が地面に落っこちたワケだし。
「アガガガ……俺ノ頭ヲ元ニ戻せ……ハ、ハニエル!」
「ちょ、俺のことを覚えているのかよ! だ、だけど、オラーッ!」
「オ、俺ノ頭ヲ蹴飛バスナ! 恨ムゾ、ウガアアアッ!」
「う、うおあッ! もげた頭を空中浮遊……こ、こっちに来るな!」
むう、もげて地面に転がっているウサヤマという兎獣人のゾンビの頭が、フワリと空中浮遊――とその刹那、空中から地上の獲物に狙いを定めるかる猛禽類の鳥の如く空中を飛び交いながら襲いかかる! わお、ウサヤマの空中を飛び交う首とは分離状態である胴体も一緒になって兄貴を襲撃するのだった。
「私はゾンビ製作のプロよ――従って胴体と頭、どちらも自律行動が可能な改造ゾンビをつくれて当然なんだー☆」
「え、そうなの? 私も死霊使いだけど、あんなゾンビつくれるなんて知らなかった……ホントにホントに? 偶然的なモノじゃないの?」
「と、当然じゃん! 天才に不可能はないのだー……ウギャーッ! 私の耳を齧るな!」
「他の二体のゾンビの頭が胴体から分離し、ネクロリリーに襲いかかった!? ちょ、制御はまるで駄目じゃん! こここ、こっちに来るな!」
胴体と頭が分離した状態であっても、どちらも自立行動が可能な改造ゾンビだって!? むう、だけど、制御は無理――ってなワケで、ウサバヤシ、ウサベというゾンビは、操屍術で蘇られせた張本人であるネクロリリーに対し、胴体から頭がゴキンという音と発すると同時に分離し、オマケの空中を飛び交う猛禽類の鳥の如く襲いかかるのだった。
おいおい、完全な仲間割れってヤツだな、こりゃ……。
「うう、こりゃいかん……ちょ、くくく、薬を飲まなくちゃ不味い……」
「く、薬…だと!?」
「ゾンビに齧られたモノはゾンビになってしまう! ううう……ウウウウ……ウガガガッ!」
「ちょ、仮面の女の様子が変だッ――ゲ、ゲェーッ! 生きたままゾンビになってしまったっぽいィ!」
ん、ゾンビに齧られたモノ――ゾンビに襲われた犠牲者は生死に問わずゾンビになってしまう!? とにかく、ネクロリリーの様子が変だ。全身がガタガタと震わせる一方で顔面が真っ青……あ、ああ、両目が真っ赤に充血し……うへぇ、大量の血が……血の涙を流し始める!
コ、コイツ……生きたままゾンビになってしまうのか!? で、その兆候ってヤツ?
「ガアアアアーッ!」
「わ、わあああ、コイツッ! 縄を引き千切った!」
「うわあああ、齧られるッ……あ、あれぇ、どこへ行くんだ?」
む、むう、ゾンビ等の不死者の親玉のみたいな存在である死霊使いなのに、使い魔として蘇られたゾンビに齧られるという自爆をしてしまったネクロリリーがゾンビ化してしまう! その身を縛る縄を引き千切る――ゾンビ化で脳のリミッターが解除され怪力を発揮した結果という感じか?
そんなゾンビ化してしまったネクロリリーだが、禍々しい大声を張りあげながら、シャッ――とどこかへ立ち去ってしまうのだった……ちょ、どこへ行く、お前ッ!
「ネクロリリー……ここから立ち去るなら私も一緒に連れて行けっての!」
「む、置き去りにされちまったようだな。とりあえず、コイツだけでも……」
「こいつヲ捕マエルコトガデキタダケデモイイジャナイカ」
「ダガ、アノ仮面ノ女ノ行方ガ気ニナルナ。ぞんび化する前ニナントカスベキダッタカモナ」
ネクロリリーはいなくなってしまったけど、盗賊姫は捕らえることができたし、それはそれで――ん、そういえば、コイツもゾンビ兎獣人に齧られてなかったかな? だが、ゾンビ化する様子は見受けられない――もしかしてゾンビに齧られたモノもゾンビになるってことは、たまたま起きる偶然だったりする?
「アイツどこへ!?」
「クククク、追いかけた方がいいわよ。犠牲者が出ないうちに……」
「んなこたぁわかっている!」
なんだかんだとネクロリリーを追いかけるべきだろう。ゾンビ化したモノに襲われたモノもゾンビと化す――とまあ、そんな悪循環的な連鎖を止めなくちゃいけないしな。




