第24話 俺、兎獣人達と戯れる。
「ラーティアナ神殿が市場内にあります。情報屋でもある神官ラビウスを訊ねてみるものいいかと思います」
「ん、アンタは神官ウーリン。アンタもここに来ていたのか」
「はい、私はこの村の住人なのでね。アナタ達の後を追いかけて来たのです」
「それはともかく、情報屋がいる? 名前は神官ラビウスねェ。ひょっとしてアンタ達と同じ兎獣人かな?」
「はい、その通りです。ちなみに、この村のラーティアナ教の宗教施設にいる聖職者は、皆、例外なく兎獣人です」
未発見の古代遺跡、そして黄金の埋蔵量が未知数――とウワサされる場所が、兎天原の東方以上だって言われている兎天原南方へと一攫千金を求めて往こうと目論む冒険者達の中継点としても機能する村ことエフェポスエフェポスの村の住人は、その七割が兎獣人だ。故に、兎獣人村だな、ここは。
さて、俺達は今、兎獣人の村でもあるエフェポスの村でもっとも賑わう場所である市場へとやって来る――お、おお、まるで神社のお祭りの会場にでもやって来たって感じだ。そんなワケで売り物のジャンルに問わず数多の露店が立ち並んでいる!
「兎獣人の冒険者が多いな」
「まあ、兎獣人の村ッス。集まってくる冒険者も当然、兎獣人が多いッス」
「よ~く見りゃ他の獣人もけっこういるけどね」
なんだかんだと、ここは兎獣人の村だ。そんな理由かどうかはわからんけど、エフェポスの村に集う冒険者も兎獣人が多いな。まあ、猫や犬、狸や狐等の他の哺乳類型獣人の姿も当然、見受けられる――あ、ああ、当然、蜥蜴や鰐といった爬虫類型獣人、それに鷲、鷹、梟……え、猛禽類はともかく、カラスや鳩のような身近なところにいそうな鳥類型獣人の冒険者の姿も見受けられる。
「ここじゃ別に珍しい光景じゃないぞ。ああ、どうでもいいけど、アレがラーティアナ教会だ。とりあえず、往ってみようぜ」
「ん、あの赤レンガの大きな煙突が見受けられる建物のことかな?」
「そうッス。元々はパン工場だったんスけど、経営者が多額の借金を返済するため兎天原の南方へと冒険者ととして出張ったまま十年以上、戻って来ないんで痺れを切らした管理者がラーティアナ教団に売っぱらったはずッス」
さて、盗賊共のボスの情報を握っているかもしれない情報屋こと神官ラビウスとやらがいるラーティアナ教会という宗教施設の前まで俺達はやって来る――元パン工場かよ。ああ、その名残りが屋根の上にそびえ立つ大きな煙突ってワケだな。
「なんだかんだと、この世界にも宗教は存在しているんだなァ……」
「しかし、人間や獣人——下界に住むモノ達は、あの駄女神を信仰の対象としているのが滑稽だ」
「駄女神!? マリウス、なんだそりゃ?」
「ああ、ラーティアナ教の信者が唯一神として崇めているモノのことさ。フフフ、あの駄女神の奴、多分、知らないだろうなァ。自分は住まいである天界では駄目な女神として有名なのに、その一方で下界に住むモノ達からは、マーテル王国のような巨大国家が国教として定めていたいるとか、同じ天界に住むモノであるアタシが超意外だぜェ! そう言いたくなるほどの多大な信仰を集めているだなんて……」
ラーティアナ教とかいう宗教の信者が崇め奉る最高神とマリウスは知り合いなのか!? ああ、同じ天界に住むモノ同士、周知の仲なんだろうか――。
「ラーティアナ神の悪口を言ってはいけません。あの御方は悪口にトンでもなく敏感だ――という神話がありましてね」
「え、それじゃ悪口を言うと即座にやって来て、そんな悪口を言った対象に天罰を下す……とか?」
「あり得ますね、はい」
「ちょ、即答ォ! ム、ムムム、ヘンな視線を感じるけど、俺の気のせいだよな?」
「ま、まあ、それはともかく、パン工場みたいなラーティアナ教会内へと入ってみましょう」
「お、おお……」
うむ、神様の悪口を言っちゃいけないよな。駄女神とマリウスが言う存在――ラーティアナ教の主神ラーティアナのことであっても……ど、どうでもいいけど、誰かが俺達を見つめちゃいないか? 奇妙な視線を感じるんですけどッ!
それはともかく、元パン工場だっていう巨大な煙突が屋根の上にそびえ立つ赤レンガの建物――ラーティアナ教会の中へ入ってみよう。
「あ、人間だッ! ゾンビマンの仲間か、お前らーッ!」
「ちょ、ゾンビマンってなんだよ!
む、むう、ゾンビマンってなんだァ? ラーティアナ教会内に足を踏み入れようと出入り口の扉のドアノブに向けて右手を伸ばそうとした瞬間、屋根の上から右手に長剣、左手に円型の盾、そして鎧兜を身に纏った武装した黒毛の兎獣人が飛び降りてくる。
「神官戦士のクロウサヒコ。私ですよ。神官のウーリンです。お忘れですか?」
「や、やややッ――間違いない……ア、アナタはウーリン猊下! これは失礼しました!」
「いえ、突然、ここへやって来た我らにも問題があります。さて、ゾンビマンとは一体?」
「あ、はい、説明します。近頃、エフェポスの村を騒がしている死霊使いのことです」
猊下? 高僧に対する敬称だったかな? ウーリンってそんなにお偉いさんなのかァ。
それはともかく、またゾンビに遭遇しそうな予感がする――ゾンビマンなんて呼ばれるモノが、今、俺がいるエフェポスの村を騒がせているっぽいしね。
ん、そのゾンビマンって奴は、もしかして元聖イリアーナ騎士団ことウサルカ文明の古代遺跡の地下空間を根城に悪逆行為を働いている盗賊共のボスのことかもしれんない。
確か盗賊姫って呼ばれている一方で、ソイツはあの盗賊熊さんことリドラーと同じく――確証はないけど、死霊使いらしいからなァ。
「ム、小鬼……ゴブリンが二匹ッ! ウオリャアアアーッ!」
「マ、待ルンダ! 俺達ハ人間ダ!」
「ソノ前ニ悪イごぶりんジャナイゾ!」
「問答無用ッ!」
「「ウワアアアーッ!」」
ああ、そういえば、自称、元天使であるハーゲンとゲハルス兄弟は、盗賊共のボスが行使するナニかしらの変化系魔法によって邪悪で醜悪な小鬼ことゴブリンの姿に変えられたままだったな。
つまり見た目は魔物ってワケだ。そんなワケだし、退治してやる――とクロウサヒコの正義感を逸らせたんだろうなァ。
「ウウ、何故、コンナ目ニ……」
「集団りんちトイウやつダナ……」
「ゴブリンは悪! ゴブリンは人畜有害!」
「中には良い個体もいるんだぞーッ! わしらみたいな……ゴ、ゴブウウウ!」
「ハハハ、お前ら目のカタキにされてるぞ、おい」
ん、クロウサヒコと同じ兎獣人の神官戦士達が、元パン工場であるラーティアナ教会から飛び出してきてハーゲンとゲハルスに殴りかかる。
ハハハ、ゴブリンというワケで目のカタキにされちゃいないかァ、コイツら……。
「ん、外が騒がしいと思ったらウーリンじゃん。しばらく姿を見なかったけど、どこにいたのかな、かな?」
「ラビウス殿、居ましたか。とりあえず、あの二匹のゴブリンは敵ではありませんよ――と神官戦士達にお伝えください。アレはゴブリンの姿に変化させられた人間でしたね」
一対の翼が生えた兎といった感じのオブジェが先端についている杖を右手に握る眼鏡をかけた兎獣人が現れる――コイツが神官であり、同時に情報屋でもあるラビウスのようだ。
「さあ、なんだかんだと、教会内へ入ってくれ――君達はウーリンが連れて来た冒険者なんだろう? 何気に依頼したことがあってねェ」
俺達を冒険者と勘違いしちゃいないかァ? まあ、それはいい――とりあえず、教会内へ入ってみよう。ラビウスに事情を話せば、ナニかしらの情報を教えてもらわないとね。
無論、盗賊共のボス――盗賊姫のことをね。




