第二十一話 盗賊団の実験区画で俺は惨たらしい光景を目撃すると同時に……。
「ん、盗賊団の姿は見受けられないな」
「リドラーの奴はどこかしらね?」
「あの傷じゃそう遠くには行けないはずだ」
むう、あの死霊使いの熊さん――盗賊リドラーの姿を完全の見失ったって感じだ。
奴を追いかけて爬虫類型獣人が囚われていた区画の先へと進んだつもりだったんだがなァ……え、今いる場所は、まだ爬虫類型獣人を捕縛してある区画の一部だって? むう、哺乳類型の獣人達が囚われていた区画よりも広いな。
ああ、そういえば、盗賊共がナニ頭の実験を行っている区画としても機能しているんだっけ、ここって?
ちなみにだが、今いる区画にはリドラー以外の盗賊団の連中の姿も見受けられない。番人としてゴブリンくらいはいてもいいはずなんだが……。
「わ、頭が三つある鼠がいたよな?」
「合成獣ってヤツだな。しかし、生易しいモノだ。アレに比べりゃ……」
「ああ、手術台に拘束されている連中に比べるとね」
「お、おい、そんな手術台に拘束された連中を見ろ。腹を裂かれている上、奇妙な石が埋め込まれているぞ」
頭が三つある犬――地獄の番犬ケルベロスならわかるけど、頭が三つある鼠とはねぇ……ネズベロスってか?
それはどうでもいい! 盗賊団の姿が見受けられない代わりとばかりに俺の双眸に惨たらしい光景が映り込む――手術台に拘束されオマケに腹を裂かれた状態の人間、そして獣人の姿がいくつも……いくつもッ! く、外道共ッ……人体実験とばかりに腸を摘出したのか……ああ、開頭手術を受けた痕跡が見受けられるモノもいる。
盗賊共のナニかしらの研究の犠牲者ってところだろうなァ——さて、裂かれた腹に奇妙な石が埋め込まれているモノの姿も見受けられる。
ちなみに、犠牲者の裂かれた腹の中に埋め込まれている奇妙な石だが、大きさは野球の硬球ほどで透明な水晶玉を思わせる石であるが、中心が赤黒く血管の動脈を連想させる赤い筋、静脈を連想させる青い筋が見受けられるモノだ……う、気のせいか!? 今、動脈、静脈を連想させる筋が脈動したぞ!
「お、おお、生きているッス! ここにいる犠牲者はみんな死んじゃいないッス!」
「ゾンビじゃないよな? 腹を裂かれた状態で生きてるんだぜ?」
「では、早速、助けてあげましょう。ハニエル、拘束具を解いてあげなさい」
「むう、ウーリンさんがそう言うんじゃ仕方ねぇ」
腹を裂かれた状態で拘束されている犠牲者は、みんな死んじゃない!? むう、なんてタフな——ゾンビか、お前らって言いたくなるような生命力だな。
「ハ、ハハハ……ハニ……エル……」
「うお、お前はカシエルじゃないかー! お前も盗賊団に捕まっていたのか!」
「あ、ああ、盗賊共に捕まり、人間共にペットとして売られるところだったぜ。早いとこ拘束を解いてくれ!」
「おう、わかったぜ! ウーリンさんにも拘束具から解放してやれって言われているしな」
「ム、ムムム、待つんだ! 下手に拘束具を外しちゃあいけない! その兎くんの身体の中にある生命の石が落ちてしまう。そうなったら、その兎くんは……」
「生命の石!? その名の通りのモノなのかな?」
「ああ、ソイツはとある錬金術師が開発した例えば――そうだなァ、人形など命を持たぬモノに仮初めの命を与えるモノでね。ゴーレム等の人造生物をつくる際も用いられるって聞く。で、それを人間や獣人の身体の中に埋め込むと、なんと生きたままゾンビと同じ状態になるらしいね。俺はカチ割れて使い物にならなくなった生命の石を持っているから見ればわかる。コイツは本物だ!」
「なんだとーッ! じゃあ、カシエルは生きたままゾンビになっちまったって感じか?」
生命の石!? なるほど、宝石狐ことコンベエの言う通り、その名の通りの代物なのね。だから兄貴のお友達かもしれないカシエルとかいう兎獣人を筆頭とした手術台に拘束され腹を裂かれた状態の犠牲者達が死んでいないのかも。
「石に関しての知識が豊富だ。流石は宝石狐って言われているだけのことはあるわね」
「ハハハ、照れるなァ——とそれはともかく、俺はそんな生命の石を盗賊共から高値で買い取った知人の伝手で、ここへやって来たんだが案の定、捕まっちまったんだ……」
「ああ、だから、アンタは牢獄区画にいたのね」
宝石狐のコンベエが、牢獄区画の哺乳類型の獣人達が囚われていた区画にいた理由は、生命の石を入手するためらしい。ん、その前に盗賊団の連中から生命の石を高値で買い取ったという知人に騙されたんじゃね? 他の哺乳類型獣人と同様、奴らに捕まってしまっていたワケだし。
「し、しかし、危なかったウホ! 俺達も危なく生きたままゾンビにされちまうところだったしな」
「……ですね、否定はできません」
「むう、状況から考えると、奴らは肉体が生きている状態のゾンビをつくる研究をしているのかもね」
「お、おい、ハニエルッ……お、俺はゾンビなのかよ!」
「らしいな。その石のせいで……」
「ああ、ひとつ言っておく。その石が身体の外に出てしまうと君は死ぬぞ……多分」
「な、なんだってーッ! じょ、冗談じゃないッ! ななな、なんとかしろよ、ハニエルゥゥゥ!」
「カ、カシエル、それを俺に言われても無理だな……ナニもできん……ナニも……」
俺達が牢屋の中から助け出さなかったら神官ウーリンを筆頭した哺乳類型獣人達、それにサマエルを筆頭とした爬虫類型獣人も盗賊共に腹を裂かれ腸を摘出された状態にも関わらず生命の石の加護で生かされていた可能性もあるだろう。
しかし、生命の石って凄いなァ——よく見りゃ内臓が空っぽの状態である兎獣人のカシエルが、そんな惨たらしい状態でも生きていられるワケだし。
「ねえ、どうでもいいけどさ。そこで古ぼけた設計図って感じの紙を拾ったわ。ああ、これってもしかして生命の石の製造法を記したレシピだったりする?」
「お、イイモノを発見したじゃんエルフィア。こういうモノを欲しがっている戦乙女の仲間がいるんだ。ソイツに高く売っちまおうかなァ☆」
「あ、それってリルダのことでしょう? 駄目よ、見つけたの私だし、私がリルダに高値で売りつけるわ。アイツのことだから、兎天原のどこかに来てるはずよ。珍品探しって感じで」
「エルフィア、それにマリウス……こんな状況で儲け話? まったく、アンタ達は!」
「まあ、そう怒るなよ☆ つーか、お前も高く売れそうなモノを探しちゃあいなかったか、オリンデェ?」
「そそそ、そんなワケがないじゃん! 私は……うん、盗賊団の連中がどこにいるのか、その手掛かりを探していたのよ!」
「そんなことより、この先にも通路があるぞ。気になるし進んでみようぜ」
生命の石の設計図発見! え、戦乙女仲間で兎天原に来ているかもしれないリルダって奴に高く売るって? よし、俺もナニか探してみようかなァ——が、今は我慢だ。盗賊団の連中の生きたままゾンビをつくる研究(?)の犠牲者達が手術台に拘束されている区画の奥に、次の区画へと続く通路を発見してしまったワケだしね。




