第二十話 俺、不定形の怪物と遭遇するのだが、どうやらソイツは。
クトゥルフ神話的な要素も加えたいなァー。
ハハハ、馬鹿だなァ——ちったぁ、仲間を大事にしろっての!
大事にしないから裏切られるんだ。んで、尻をブスッ――と短剣でぶっ刺されてしまうんだ。
例え醜い小人、小鬼? とにかく、そんな仲間がゴブリンであっても……。
「ウギャアアアアッ! し、尻が熱いィィ! ガアアアッ……熱いッ……痛い……か、痒いィ!」
さてと、仲間であるゴブリンの一体に尻を短剣でぶっ刺された死霊使いである熊獣人のリドラーは、悲鳴をあげてのたうち回っている。そりゃ尻を短剣で刺されたワケだし……ん、別の理由もあるな。あの苦しみ方を見ると……。
「熊さん、凄く苦しそうだな」
「多分、毒だな」
「毒? あのゴブリンがリドラーの尻に突き刺した短剣の刀身には、ナニかしらの毒が塗ってあったんだろうよ」
「毒? アハハ、私が齧って更に毒で苦しめてやるのもいいかも☆」
あ、ああ、なるほど、それで異常に苦しんでいるね。熊の獣人なだけに短剣で尻を刺された程度じゃ分厚い皮膚のおかげで重症とまではいかないはずなんだろうけど。
「ギギギギ、ザマァミロ! 俺達ヲナメルト、コウイウ目ニ遭ウンダ……ガ、ガアアッ!」
「ううう、この下等生物がァ! 支給された短剣に毒を塗りやがって……ゴ、ゴフッ……ガフッ!」
リドラーは身体中に回った毒のせいで何度も血を吐くが、瀕死の重傷というワケではない――自分を刺したゴブリンに対し、まるでナニもなかったかのように下段からの熊パンチをお見舞いし、瞬殺しているしな。
ん、そういえば、ゴブリンがもう一匹いたけど、いつの間にか、その醜い姿が消え失せている。逃げたんだろうなァ、きっと――ま、アレについてはどうでもいいかな。
「このままでは不味いッ……解毒剤を取りに行かねば……私はまだ死ねん……死ねんのだッ!」
「う、煙いッ……わ、巨大でデカいシルエットが煙の中に……な、なんだ、アレは!?」
「うへぇ、気のせいかな? 触手みたいなモノをウネウネとくねらせていないか、あのシルエット……ま、禍々しいわね」
なんだかんだと、解毒剤があるのね。それを取りに向かおうとリドラーが、ダッと勢いよく駆け出す――コ、コイツゥ、吐血をするほど毒が全身に回った状態なのに、あんなに素早く動くだなんて……タフな奴だぜ。
とそんなリドラーが地面に投げつけると同時に、ホワイトアウトとばかり周囲の光景を一瞬で真っ白く染めあげてしまうかの如き大量の煙を発生させる玉――煙幕弾玉ってヤツだな。それを投げつけるのだった。
んで、そんな大量の煙のおかげで、ナニもかもが真っ白く染まってしまう俺が今いる爬虫類型獣人が囚われている区画に、ナニやら禍々しいウネウネとした触手のようなモノをくねらせる巨大なシルエットが、ドーンと俺達の目の前に浮かびあがる……な、なんじゃ、こりゃぁ!
「私のペットを紹介しよう……ゴ、ゴフッ! ブ、ブラック……アガレ……ス君だ……ガ、ガフゴフッ!」
「ブラックアガレス君? むう、蛸のような触手の生えた巨大アメーバー?」
「アメーバ―? スライムじゃないの?」
「むう、とにかく、目の前にいるのは、特定のカタチを持たないモノ――不定形の怪物だ!」
あんなにモウモウと立ち込めていた煙は、あっと言う間に空気の中に溶け込むかのように消え失せる――と同時に、禍々しいモノが目の前にドーンとそびえ立つ!
ソイツは俺達に脅しをかけるかのように吸盤のない四本の蛸の食腕のようなモノを忙しなく動かす黒々とした不定形の巨大な怪物だ。巨大なアメーバー――或いは幻想世界でお馴染みの怪物スライムのようなモノと言っても間違いないだろう。
「フフフ……ブラックアガレス君! コイツらを殺すんだ……ガ、ガフッ!」
「命令をする前に、お前、もう手遅れなんじゃないか……ち、血を吐きすぎだし」
「キュルキュルキュル? キュルルルーッ!」
「う、うわあ、真っ黒スライムが襲いかかってきたぞ!」
「兄貴、落ち着くッス……な、なんか妙ッス。急に動かなくなたっし……」
「あ、ああ、本当だ。しかし、何故だ。さっきまでは触腕をぶんぶんと振り回していたのに……」
黒々とした吸盤のない蛸の食腕を持つ巨大なアメーバー――いや、スライムかな? そんな禍々しい宇宙的恐怖を感じ、SAN値がガリガリと下がってしまいそうなモノことブラックアガレス君の動きが、突如としてピタリと動きを止めるのだった……ちょ、ナニが起きたワケ!?
「アア、見ツケタ! ゴ主人様、私デスヨ、私――くろのデス!」
「わ、真っ黒巨大スライムが喋った……え、クロノ? お前の名前はブラックアガレスでは?」
「ソレハりどらーガ勝手ニツケタ名前デス、ご主人様」
「うーん、ご主人様ねェ……どこぞの誰かと勘違いをしているんじゃないのか?」
ナ、ナニィィ! ご主人様だァ……ちょ、喋れるのかよ。この不定形の怪物は――とその前に勘違いもいいところだ! こ、こんな禍々しいペットを俺は飼った覚えがない。俺は、この世界に転生して間もない存在だしな。
「どうでもいいけど、ソイツを使い魔にできるチャンスかもな」
「ちょ、お前の使い魔は俺だけでいいじゃん! 可愛さなら俺の方が断然、上だしな☆」
「可愛イ姿デスカ? デハ、コンナ感ジデドウデショウカ?」
「お、おお、小さくなった。でも、触手がニュルニュルしてて気持ち悪いな……」
ブラックアガレス君――真名はクロノというらしいが、巨大でなおかつ不定形、そして四本の食腕を備えた宇宙的恐怖を感じる姿をしたモノを使い魔にしたいなんて誰が思うかっての! あ、でも、手の平サイズの小さな生物なら、とりあえず我慢できるレベルかな……。
「ああ、リドラーがいなくなっているわ」
「あちゃー、また逃げられたかァ……あ、でも、血痕がこの先の通路に続いているな」
「追いかけてみようぜ!」
「兄貴、先行しちゃ駄目ッス。この先へ向かうなら、みんなで……」
「いんだよ。細けぇことは!」
「ヤスの言う通りですよ。ハニエル」
「う、うお、その名前で俺を呼ぶアンタは神官ウーリン!」
ム、ムムム、リドラーにまた逃げられてしまったぞ! あの熊さん、本当に逃げるのが上手いな、まったく……が、リドラーが吐血した痕跡が血痕となって床に見受けられる。で、そんな血痕は、この先の通路に続いている。
さて、翼の生えた蛇の装飾が先端に取りつけられた杖をたずさえた黒縁の丸い眼鏡をかけた兎獣人が現れる――うお、盗賊団のひとりか!? だけど、兄貴が神官ウーリンと呼んでいたので違うのかも。
「兄貴の真名ってハニエルっていうんだ。まるで天使のような名前だな」
「う、うるせぇ!」
「兄貴、何気に喜んでませんか?」
「わお。哺乳類型の獣人達がたっくさんだわ!」
「それより、お前達、逃げたんじゃ……」
ハニエルねェ、兄貴の名前って天使のような名前だな、おい☆ それはともかく、神官ウーリンと一緒に数多くの獣人達の姿が見受けられる。哺乳類型獣人が囚われて区画からやって来たんだろうなァ——とサマエルを筆頭とした爬虫類型獣人達も加えると間違いなく百匹は超えるだろう。
「なんだかんだと、お前さん達が気になってついて来たのだ。さて、この先へ進みなら我らも一緒だ。盗賊共が研究を理由に連れて去った仲間を連れ戻すために!」
「盗賊共には借りがあるウホ! ボコボコにしてやるウホホ!」
「私達も一緒よ。盗賊共には、私も借りがあるしね」
「盗賊共を捕まえる手伝いをするぜ」
「お、おお、そうか……それじゃ一緒にこの先へ進もう」
逃げ出すことをせずここへやって来たのは、俺達のことが気になったから――んで、神官ウーリン、そして一緒に連れて来た哺乳類型&サマエルを筆頭とした爬虫類型の獣人達も一緒に来ると言い出す。
『ウワアアアーッ!』
『ヒイイ、これが惨い……うわ、ナニをするやめれッ!』
「ん、今の大声がハーゲンとゲハルス兄弟!?」
「ハゲのオッサン兄弟は先に進んだんだったわね」
「アイツら盗賊団に捕まったな」
むう、奥の区画へ向かおうとした矢先、先に奥の区画へ向かったハーゲンとゲハルス兄弟の悲鳴が響きわたる。アイツら、盗賊団に捕まったな――それはともかく、この先に進むなら惨い光景を見なくちゃいけないかもしれんなぁ……覚悟しておくか。




