第19話 どうやら盗賊共はグロテスクな研究で金儲けをしようと目論んでいるようだ。
緑色の肌、尖った耳と大きな鼻、そして原始時代の人間を連想させる簡素な革の服――といったいでたちの醜い小人といった姿の魔物が、俺達の目の前の現れる。
ゴブリンだっけ? うん、そうだ。RPGだと序盤に出てくる雑魚である――が、油断していると痛い目に遭うはずだ。ナメてかかっちゃいけないかな?
まあ、なんだかんだと、そんな三匹のゴブリンは、盗賊団――元聖イリアーナ騎士団のメンバーのはずである。
ああ、ついでに今、俺達がいるウサルカ文明の古代遺跡の地下空間の一画――盗賊共が行っている人身売買の本拠地である牢獄区画の爬虫類型獣人が囚われている区画の番人ってヤツだ。
それはともかく、番人である三匹のゴブリンをなんとかしなくちゃいけない。さて、どうしたモノか……ん、そういえば、すでにゴブリンに遭遇していたな。エルフィアに呆気なくボコられて牢屋の鍵を奪われていたような気がする。
さて。
「ゴブリン共の始末は任せたぞ!」
「わしらは先に進んでいるぞ。正義のため——天界復帰のために!」
「ちょ、ハゲ兄弟ッ……ったく、ナニが正義ため、天界に復帰するためだよ!」
むう、ハゲ頭の死霊使い兄妹ことハーゲンとゲハウスが爬虫類型獣人が囚われている区画の先の区画へと繋がる通路に向かって駆け出すのだった、
あのハゲーッ! ゴブリン共と俺達を戦わせている間に他の盗賊共を捕まえる気だな! むう、正義ため、天界復帰のためだァ? ふざけんな、馬鹿ッ――なんだかんだと、逃げたんじゃないか!
「なんだ、ゴブリンじゃん。ん~……また増えた気がする。コイツらもしかして……」
「ふ、増えた?」
「うん、この間、私の歌にケチをつけたから何匹か毒殺したのよ。この牙でね☆」
「お、おお……って、お前、毒蛇だったのかーッ!」
え、自由に抜け出せるのか!? とばかりに、今いる爬虫類型獣人が囚われている区画にある台座の上に置いてある檻の中からヌゥと抜け出した真っ白な蛇――サマエルが、まるでマフラーのように俺の首に巻きついてくる……う、うえええ、鱗がヒンヤリしてて気持ち悪いなァ……って、コイツ、毒蛇だったのかよ。
「ああ、よくよく考えるとゴブリン共は、奥の区画からやって来たし、きっとコイツらは……」
「どういう意味だ、毒蛇ちゃん?」
「シャーッ! 私の名前はサマエルよ。毒蛇って呼ぶな。噛むわよ!」
「お、おお、わかった……」
「オイ、貴様ラ! 貴様ラハ新入リカ?」
「違ェネエヨ。見慣レン顔ダシナ」
「ドウデモイイガ、人間ガ混ジッテイルナ……ぞんびカ?」
サマエルの奴、自分が毒蛇だってことを何気に気にしているっぽいな。マフラーのように俺の首に巻きつきながら、そのことを言った途端、耳元でシャーッ! と唸り声を張りあげていたしね。
それはともかく、爬虫類型獣人が囚われている区画の番人である三匹のゴブリン共は、どうやら俺達のことを盗賊団の新入り――仲間と勘違いしているっぽぞっつうか、俺達はゾンビじゃないっての!
「クンクン……臭クネェゾ」
「ア、本当ダ。ぞんび特有ノ臭イガシネェ……怪シイナ」
「モシカシテまーてる王国カラヤッテ来タ討伐隊ダッタリシテ……」
そりゃゾンビじゃないんだから身体は腐っちゃいないし、そんなワケだから腐敗臭なんか――むう、そのせいで今頃、怪しみ始めたぞ、ゴブリン共。
「親分トりどらーさん以外デぞんびデハナイ幹部ッテ誰カイタッケ?」
「ソンナモン知ルカヨ。俺達ハ生マレテ間モナイごぶりんダシナ」
「サテ、ぞんび盗賊――仲間カドウカ確認スル術ナラアルゼ……ブン殴レバイインダ! ぞんびナラ骨ガ折レテモ平気ダロウシナ! ヨシ、テメェデ確認シテヤルゼ!」
「ちょ、俺を狙ってる? く、俺はゾンビじゃねぇ!」
殴ることでゾンビかどうか判別するだと! まあ、ゾンビなら骨折しようが、腕や足といった身体の一部がなくなろうが平気だろうけど、生きているモノにとっては冗談ではないってヤツだ!
とにかく、三匹のゴブリンのうちの一匹が右手に握り締めている棍棒を振りあげながら、俺を標的に突撃してくるのだった。
「ゾンビかどうかどうか確かめるだァ? ふざけんなッ……ケサリキデゼカ!」
「ガ、ガガアアアッ!」
「オイオイ、頭ガ吹ッ飛ンジマッタゾ!」
「別ニ問題ハナイダロウ。首カラ下ハ無事ダ。キットりどらーサンガぞんびトシテ再利用スルダロウシナ」
「アア、ナルホド、ぞんびニシチマエバイイヨネ」
「お、おい、なんでもかんでもゾンビにしちまえばいいって問題かよ!」
「ン、ぞんび化以外ニモ俺達ごぶりんハ増殖中ダゾ。アル意味デ無限ニ増エルゾ」
「ム、ムム、やっぱりアンタ達って……」
俺を動く屍であるゾンビか確かめるべく棍棒で殴りかかってくるゴブリンの頭部目掛けて、俺は砲弾の如き空気の塊を放つ魔法を撃ち放つ――空魔弾と仮称しておくかな!
さて、空魔弾が直撃し、ゴブリンの頭部はドパアアンッと下顎から上の部分が吹っ飛ぶのだった。まさに即死だね――って、おいおい、死んだ仲間をゾンビとして再利用するって!? なんでもかんでもゾンビにするとかグロテスクな発想だな。この調子だと盗賊団のメンバーはゾンビだらけになることだろう。
ん、ゾンビとして再利用する以外にも増殖という方法で仲間を増やす……だと!? むう、この先のエリアにはゴブリンを無限に増殖させる工場もあるのかも。
「ウワサだけど、爬虫類型獣人が囚われている区画には、ゴブリン増殖装置なるモノがあるってウワサを聞いたことがあるわ」
「ナ、ナニィィ! そんなモノまであるのかァ……」
むう、盗賊共は爬虫類型獣人が囚われている区画内のどこかでナニかしらの実験を行っているようだけど、それと同時にゴブリンを増殖しているようだ。
うへぇ、盗賊の大半がゾンビだったり、ゴブリンのような醜い小鬼を増殖している――盗賊団こと元聖イリアーナ騎士団はろくでもない連中だな、おい!
「フフフ、ゴブリン増殖装置は我々が行う研究の一環さ。さて、ゴブリン共を増やすことで私達のもとに大金が舞い込んでくるのだよ。コイツらを私兵として欲しがる物好きなお方がいてねぇ……」
「確かに物好きだな……って、お前はドリラー! またお前かよ!」
「また名前を間違いたな……ドリラーではない。リドラーだ。いい加減、覚えろ!」
ゴブリンを私兵として欲しがるモノがいるねェ……物好きの極みだな。一体、どんな輩なのやら。
それはさておき、またあの盗賊熊さんことリドラーが現れる――今度は捕まえてやるぞ!
「ア、りどらーサン! 仲間ガヤラレチマッタヨ!」
「それがどうした? お前らは捨て駒だ。アレのおかげで無限に増殖するワケだ。死んだ仲間の代わりなら、いくらでもつくってやるぞ、クククク」
「ウ、ウワー、りどらーサン酷イ!」
「捨て駒呼ばわりされて傷ついたか? フフフ、挽回する機会を与えようじゃないか――ソイツらを皆殺しするのだ。私が研究所へ戻る。行く手を邪魔しそうだからな」
「エエエ、あいつラハ……アノぱんつ丸出シ女ハ魔法使イダ。あいつニ仲間ガ殺サレタンダヨ。俺モ殺ラレチマイソウダ!」
「いんだよ、細けぇことはッ――と言っておきましょうか、クククク」
「ウウウ、俺ハドウスリャイインダ……ウワアアアーッ!」
ゴブリンは仲間であるが捨て駒であることは間違いなそうだ。ゴブリン増殖装置とやらで無限に増えるようだし、死んだ個体の代わりなんて何匹でもって感じなんだろう。
ん、研究所? 今いる爬虫類型獣人が囚われている区画にある盗賊団共が怪しい実験を行っている場所のことか? とまあ、そこへ向かうようだな、リドラーの奴は。
「ウウ、コウナレバ……オラァ!」
「ウギャアアッ! この野郎、俺の尻を錆びついた短剣を突き刺しやがったな……恩知らずがァ!」
「ん、仲間割れ?」
「まあ、捨て駒呼ばわりされりゃねェ……」
お、仲間割れだッ――ゴブリンの一匹がリドラーの尻に携えていた短剣を突き刺すのだった。そりゃ捨て駒呼ばわりされりゃキレるのも無理はないかな……かな?