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第18話 歌う蛇と出会う。

 神々は下界――つまり兎天原のありとあらゆるモノの創造を終え住まいである天界へと帰還する際、三羽の兎に支配権を譲ったんだとか。


 ああ、なるほど、それが由来なのね。地上世界こと兎天原の――。


 んで、神々は黄金の林檎、白銀の林檎、青銅の林檎という兎天原を統べる支配権の象徴を三羽の兎に託したそうだ。


 しかし、それを妬んだ他の動物――猫、烏、そして人間に奪われてしまうのだった。


 そんな昔話――神話を俺は知る。ハハハ、おかしな神話だな。人間はともかく、猫と烏にも兎天原の支配権の象徴である金銀青銅の林檎を奪われるとか、どんだけ間抜けなんだよ。


 恐らく神様も失敗したなァと思っただろう。兎なんかよりも別のモノに託せばよかったなァって――。


 そんな余談はさておき。


「小さな牢屋がたくさんあるッスね、兄貴……」


「見ろ! 同胞の兎獣人が牢屋ン中にいるぞ!」


「兎獣人だけじゃねェ。猫獣人や鳥人……うお、ゴリラもいる!」


「ああ、わかったぞ。ここは盗賊団に拉致されてきた連中の監禁場所なんだろう」


「そうみたいね……ん、どうでもいいけど、歌声が聞こえない?」


「あ、ああ、確かにな。ん、教会の讃美歌って感じだけど気のせい?」


 俺達が、この間、捕まえた猫攫い共の元締めって、もしかして盗賊団こと元聖イリアーナ騎士団の連中だったりして――。


 そう思われる場所が、今いるウサルカ文明の古代遺跡の地下空間内にあったワケだ。


 牢獄区画だ――種類の問わず様々な獣人が放り込まれている重厚な鉄格子の扉が、あちらこちらに見受けられる区画に、俺達一行は足を踏み入れるのだった。


 ん、歌声が聞こえる!? そうオリンデが言い出す――あ、ああ、確かに聞こえるな。


 うーむ、俺には教会の讃美歌って感じの歌に聞こえる……気のせいかな?  


「おい、ここから出せ! 出してくれよ!」


「俺も出せーッ!」


「出せよ、ゴルァァ!」


「わかったから少し黙っていろ、お前ら!」


 どこの誰が教会の讃美歌を思わせる歌を歌っているのかは知らんけど、そんな歌声を阻害するかのように牢屋の中にぶち込まれている連中が騒ぎ出す。むう、鬱陶しいから、コイツらをさっさと牢屋ン中から救出しておくか。


「やっぱり鍵がかかっているなァ……」


「そりゃ当然だ。鍵をかけなくちゃ閉じ込めている意味がないだろう」


「ま、まあなァ……んで、鍵はどこにあるんだろう?」


「鍵なら見つけたよ。コイツが持っていたわ」


「う、うお、ゴブリン! ん、この牢屋の番人を任されていた盗賊団のひとりってところだな」


 さて、早く出せ――と騒ぐ牢獄区画に閉じ込められている連中をぶち込まれている牢屋ン中から助け出そうにも、そんな牢屋の鉄格子の扉を開けなくちゃないが、当然とばかりに鍵がかかっているワケだ。


 さらに当然とばかりに牢獄区画の番人がいるワケで、ソイツが鍵を持っているはずだ――む、むう、エルフィアがいち早く牢獄区画の番人をボコボコにぶちのめして牢屋の鉄格子の鍵を奪い取ってくる。


 エルフィアにボコボコにぶちのめされた牢獄区画の番人だが、その姿は緑色の肌をした醜悪な小人――ゴブリンだ。ゴブリンが番人のようだ。盗賊団こと聖イリアーナ騎士団のメンバーの中には、ああいうモノもいるようだ。


「よし、手前の牢屋の鉄格子の扉を開けるか……よし、開いたぞ」


「ふう、狭かったぜ。ん、お前、人間か……奴らの仲間か!」


「待て待て、俺達は無関係だぞ。つーか、せっかく出してやったんだ。感謝の言葉くらい言えないのかよ」


「お、おお、そりゃ悪かったな。ん、どうでもいいけど、この歌声はサマエルか?」


「サマエル? 歌声の主の名前ってワケね」


「まあ、そんなところだな。多分、この先にある爬虫類型獣人が閉じ込められている区画にいるはずだぞ」


 まったく! せっかく黒くてジメジメした牢屋ン中から出してやったのに、俺を盗賊団の仲間扱いのするたァ酷い奴だぜ! それはともかく、俺は牢屋の中から助け出した羽根飾りのついた麦わら帽子をかぶった狐獣人の話だと、例の歌声の主の名前はサマエルというらしい。


 んで、ソイツは爬虫類型獣人が囚われている区画にいるようだ。へえ、それじゃ、ここは哺乳類型獣人専用の牢獄区画ってワケね。ああ、なるほど、哺乳類型の獣人しかいないし、哺乳類型獣人専用の区画で間違いなさそうだ。


 ふむ、この調子だと、哺乳類型、爬虫類型以外の獣人——鳥類型や両生類型の獣人専用の区画も存在している可能性があるな。


「さて、盗賊共は拉致った獣人を選別しているんだ。無論、人間共に売りさばくためにな」


「ニャオーダの村の猫攫い共と絶対が繋がりがありそうだな」


「ニャオーダの村? ああ、あの村は猫獣人が他の村よりも多いからな。そりゃ狙われるよ。猫獣人は人間の間で人気だからな。高値で売れること間違いなしってヤツだ――おっと、名乗っていなかったね。俺の名前はコンベエ。通称、宝石狐って呼ばれることもあるケチな商人サ!」


 俺が牢屋の中から救出した狐獣人はコンベエと名乗る。フーン、通称、宝石狐と呼ばれることもあるねェ――ああ、宝石屋ってところか?


「どうでもいいけど、この区画にいる獣人同様、他の区画にいる獣人も助ける気をつけるんだな。この先に区画はキツいぜ、精神的に……」


「精神的にキツい?」


「ああ、盗賊共が売れ残ったり、気に食わない獣人を使ってナニかしらの実験をしているらしい。んで、爬虫類型獣人が囚われている区画の中にあるんだ。多分……いや、間違いなく精神的にキツい光景を見ることになるだろうよ」


 そんな宝石狐ことコンベエの話が語る内容が本当なら、俺達が今いる哺乳類型獣人が囚われている区画の先――爬虫類型獣人が囚われている区画であり、同時に盗賊共がナニかしらの実験を行っている区画としても機能しているようだ――が、精神的にキツいって!? 


 むう、生きたまま脳ミソや内臓を弄られている獣人の姿を目撃するかもしれないな……オエッ! 想像すると吐き気が……進むのを躊躇してしまうぜ。


「よし、なんだかんだと、この先へ進むぞ。グロい光景を見るかもしれないが、サマエルって奴の歌が何気に気になってしまったぜ」


 途切れることなく聖歌が聞こえてくる。爬虫類型獣人が囚われている区画にいるサマエルって奴は、飽きもせず歌い続けているようだ。


 俺はそんなサマエルって奴が歌う聖歌が気になってしまう。そんなワケだ。この先に例えグロテスクな光景が待ち受けていようが足を踏み入れてみたい気分である。


「この先に進むなら、俺も一緒に往くぞ」


「コンベエだっけ? 一緒に来るのか?」


「そうだとも! この先には俺が探しているモノがあってね。グフフフ……アレはあるかな、あるかなァ☆」


 ん、狐獣人のコンベエが一緒について来る、と言い出す――フーン、探しモノがあるねェ……が、ナニやら企んでいそうだ。それを匂わせるかのような笑い声が聞こえたんだが……って、アレってなんだ、アレってーッ!


「さ、この先が爬虫類型獣人が囚われている区画だ」


「そうなのか……で、サマエルはどこにいるんだ?」


「サマエルなら、そこの台座の上にいるぞ」


「台座? あ、ああ、牢屋の中に古ぼけた台座があり、そこに小さな檻が……ん、そんな檻ン中に真っ白な蛇がいるけど、あの蛇がもしかしてサマエル?」


 ふ、ふう、爬虫類型獣人が囚われている区画へやって来ると同時に、盗賊共が行う身の毛の弥立つ人体実験の光景を目撃するかと思ったが、先程までいた哺乳類型獣人が囚われていた区画に似た重厚な鉄格子の扉がたくさん見受けられる牢屋の光景だ。


 オマケに、俺達がやって来たことに反応し、『ここから出せーッ!』と叫ぶ声が牢屋内のあっちらこちらから聞こえてくる。


 んで、聖歌を歌いモノ――サマエルだけど、どうやら爬虫類型獣人が囚われている区画内のど真ん中にある台座の上に置いてある小型動物用の檻の中にいる真っ白な蛇のようだ。


「ハハハ、まさか聖書等で悪役を演じる蛇が、あんなキレイな声で聖歌を歌っているとはね」


「シャーッ! 今、凄く侮辱されたかも……不許! 絶対に許さないわ! 三日後、百倍返しだからねーッ!」


「お、おい、そこまで怒らなくても……す、凄くイイ歌だったぜ!」


「ウフ、分かればよろしい! あ、どうでもいいけど、番人が来ちゃったわよ」


「番人…だと…!?」


 蛇には悪役のイメージがある。聖書の登場人物であり、すべての人間の祖に当たるアダムとイヴに対し、神が食べることを禁じた知恵の実を食べるように勧めた悪魔(サタン)の化身だと言われる蛇なんかがイイ例だろう。


 それはともかく、番人はやって来たって!? むう、そんな番人の足音だろう。バタバタと忙しない複数の足音が聞こえてくるのだった。

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