表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/29

第16話 盗賊姫とゾンビの盗賊。

 地上界こと兎天原を二分する地域のひとつである人間の領域にある国なのだが、もうひとつの地域こと獣の領域までもが我が国の領土だって主張している国があるって聞く。


 それがマーテル王国だ。人間って欲張りだなァ。獣人達は人間の領域に滅多に来ることがないって話なのに……。


 さて。


「ん、どうでもいいけどさ。盗賊団のボスってどいつなんだ?」


「はぁ、わからんのか、アルテナ? アイツだよ、アイツ――あのフードをかぶった奴だ」


「フードをかぶった奴? あ、ああ、アレね……ん、ボスは人間か?」


「わお、鎧兜を身に着けた人間が多数いるぞ。だけど、なんか変だ。生気ってヤツを感じないしな」


「アイオーン、生気が感じられないってどういう?」


「うん、とにかく、妙なんだ。生気が……肉体的な活力っていうかソレをまったく感じられない。まるで死人かって思えるくらい……」


 俺は今いるウサルカ文明とかいう古代遺跡の地下空間の物陰から、あの熊さん――熊獣人のリドラーの様子をうかがっている状態だ。


 そんなリドラーが、フードをかぶった人物に激しく叱責されている――線の細いほっそりとした体格だ。コイツは男なのか? それとも女なのか? 後ろ姿からではわからん人物だ。で、どうやら元聖イリアーナ騎士団こと盗賊団のボスだと思われる。


 ついでに鎧兜を身に着ける武装したモノ達の姿も見受けられる。盗賊団のメンバー勢揃いってか?


 だが、俺の使い魔である妖精を自称する淫魔(サキュバス)かもしれないアイオーンが妙なこと言う――リドラーとフードをかぶった人物以外の盗賊から生気を感じないって。


「ゾンビかもな」


「え、ゾンビ!? あ、ああ、リドラーは死霊使いだったな」


「可能性はあるぞ。死霊使いの中には、まるで生きているかのような生き生きとしたゾンビをつくれるモノもいるしな」


「わしらも生き生きとした活力のあるゾンビをつくれる。そうだろう、兄者?」


「当然だ。我ら兄弟は大々死霊使いだからな!」


「おじさん達ィ、今はそんなことはどうでもいいじゃん。それより追いかけなくてもいいワケ?」


「むう、連中が移動するワン!」


「よし、俺達も一緒に……っと物陰からこっそりとな」


 リドラーとフードの人物以外の盗賊はゾンビかも――あり得る話だ。何せ、リドラーは死霊使いだしな。生きている人間と寸分変わらぬゾンビをつくれて当然だと思うし。


 おっと、リドラーとフードをかぶった人物が地下空間の奥へと移動する――当然、追いかけるワケだが物陰からこっそり、とな。


「しかし、無駄なくらい樽や木箱が置いてあるな、ここは」


「どうせ地下空間内にあった遺物が詰め込まれているんだろうよ」


「ウサルカ文明絡みの古代遺跡は考古学者や冒険者によって数多、発見されてはいるが未調査の場所が多いって聞く」


「ああ、ゴブリン等の魔物の巣になってる場合があって危険だからか?」


「ま、そんな感じね。ウワサでは……っと、みんな静かに! フードをかぶった人物が立ち止まったわ」


「も、もしかしてバレた? 俺達がついて来てるのが……」


 へえ、ウサルカ文明の遺跡ってヤツァ考古学者や冒険者といった連中によって発見されてはいるが、ゴブリン等の魔物の巣になっている場合などの理由で未調査状態の場所が多いって? ウホッ……イイ財宝! そう思わず言いたくなる財宝が眠っているかもな――ってこたァ、発見し掘り返せば巨万の富を得られるはずだ! 


 そ、それはともかく、不味いッ……俺達が物陰からつけて来ているのがバレたか!? フードをかぶった人物――盗賊団のボスかもしれない人物がピタリと立ち止まる。


「むう、変な臭いがする……洗っていない犬や何日も取り換えていない汚れた靴下が放つ悪臭だわ!」


「ハハハ、気のせいですよ」


「鼻の利く熊のアンタが言うなら、多分、気のせいね」


「さてさて、姫。なんだかんだと、資金は貯まりましたね。そろそろ決起の時かと……」


「そうしたいのも山々だけど、アイツらが差し向けて討伐隊や賞金目的の冒険者に邪魔されそうなのよね。すぐそこまで来ているんでしょう?」


「あ、ああ、そうでしたね。まあ、でも、兎獣人や女性ばかりでしたよ。ああ、ハゲ頭の親父がふたりほどいましたが、なんとかなりそうなレベルです」


 うへぇ、失礼なことを言われている気がする。それはともかく、フードをかぶった人物こと盗賊団のボスのことをリドラーが姫って呼んでいたぞ……もしかして女のコだったりする?


「さて、フォドン卿、クボー卿、見張りを頼むぞ」


「ああ、心得た」


「この先には何人も通さぬ故、心配は無用だ」


 フォドンとクボーという名の盗賊を残し、ボスやリドラーは奥のエリアへ向かう――むう、追いかけたいのが、今いる地点を境に地下空間の通路は狭くなっている。立幅二メートル、横幅一メートル少々かな? 人間がふたり並んで歩くのが精一杯ってところかな?


 物陰からこっそり後を追いかける――というスタイルをやめてフォドンとクボーという盗賊をなんとかしないと通れないなァ、こりゃ……。


「うーむ、妙だ……ずぅぅ~と妙だな――と思っていたのだ」


「フォドン卿、ナニか悩みでも?」


「あ、ああ、クボー卿……そ、それじゃ聞いてくれ……」


「うむ、私で良ければ話を聞こう」


「……では、語るとしよう。我々は獣の領域にいるが、何故、獣化の呪いにかからないのだ? ボスやリドラー卿、ティレア卿のように獣に変化しないのは何故だ! 私は、それが気になって仕方がないのだ!」


 ん、フォドンとクボーが妙な会話を始めたぞ――ああ、コイツらは人間の姿のままだな。兎天原の獣の領域――東方、南方には、ナンとも厄介な獣化の呪いとかいうモノが蔓延しており、訪れるモノを獣の姿に変化させるんだったな。


 もしかして常人の倍の魔力で獣化の呪いを跳ね除けた、とか? 他にも理由があるとすれば――。


「そ、そういえば、我らを盗賊団に陥れたマーテル王国のシャドー将軍が差し向けた討伐隊との戦いでボスとリドラー卿、それにティレア卿以外は、皆……瀕死の重傷を負ったモノ、戦死したモノも多数いたはずだ!」


「ああ、それはわかる。しかし、アレは夢だったのか? まるでナニもなかったかのように、この身に傷ひとつ……」


「ついでにだが、いつの間にか右手の甲に紫色の痣が……」


「私もソレが身体のあちらこちらに……」


「ハハハ、そりゃ死斑ってヤツだぜ。死人盗賊!」


「ちょ、マリウス!」


 聖イリアーナ騎士団が盗賊団に堕ちた裏には、マーテル王国のシャドー将軍とやらが一枚、絡んでいるようだな――ん、そんなシャドー将軍とやらが差し向けた討伐軍と戦い瀕死の重傷を負ったモノが多い!? オマケに死人も出た? それなのにナニもなかったかのように身体は無傷?


 それはともかく、マリウスが物陰から飛び出して言い放つ――死斑!? 無知な俺には詳しいことはわからんけど、死後に身体に出るという斑点のことだったかな……ちょ、それを踏まえるとフォドンとクボーって盗賊はやっぱり!


「う、うぬ、なんという破廉恥な鎧……いや、水着!? とにかく、なんだ、貴様はーッ!」


「それより死人盗賊…だと…!?」


「お前らァ、自分が死んだことに気づいていないのか? フフ、高度な操屍術で蘇ったっぽいし、そんな感じで〝生きている〟と錯覚していても無理もない話だ」


「なんだとォ、この痴女騎士め、グ、グワーッ! み、右肩に氷柱が突き刺さっている……コ、コイツ、魔法使いッ! し、しかし、痛くない……まったく痛くないぞ! こんなに血が出ているのに……何故だ?」 


「アイツ、まだ気づいていないっぽいわよ、パイセン」


「ふむ、そのようだ。おい、氷柱が突き刺さっているのに出血していないし、痛みも感じないってことが、ナニを意味するか理解してもいいじゃないか?」


「ナ、ナニィィ!」


 マリウスの格好は真紅のビキニアーマーである。要するに肌の露出度の高いビキニ型の水着そのモノな鎧なワケで礼節を重んじる連中にとっては痴女に見えても仕方がないと思われる。


 それはともかく、マリウスはダーツを魔都を目掛けて投擲するが如く氷柱をフォドンに対し、投げつける。んで、ソイツがフォドンの右肩に突き刺さる――魔法でつくった氷柱んだけに鋭利な刃物のような鋭さだ!


 さてさて、ここで問題だ。普通なら――痛みで悲鳴をのたうち回るところだが、フォドンにはその様子が見受けられない。オマケの氷柱が突き刺さった右肩から大量出血をしているというのに、まるで何事もなかったかのような様子を見せる。


 ああ、やっぱり、コイツは……状況から推測するっていうか確定だな――死人、即ちゾンビなので痛覚が麻痺しているんだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ